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2月12日、ウクライナ情勢をめぐる外交交渉について。

2月12日、フランス・マクロン大統領とロシア・プーチン大統領の電話会談が行われ、続けてアメリカ・バイデン大統領とプーチン大統領の電話会談が行わた。

同じく12日に、ロシア・ラブロフ外相は、アメリカ・NATOとの間で協議してきたヨーロッパ安全保障の枠組みについて、ロシア側の回答を近日中にアメリカ側に提示すると表明したので、ロシア側はこれらの電話会談の内容を反映させて、最終的な回答を作成するものと思われる。

マクロン大統領とプーチン大統領の会談は、エリゼ宮の発表によると1時間40分と長時間にわたり、また、内容に関するクレムリンの発表では、プーチン大統領が、NATO側にロシア側の要求を考慮しようとする姿勢が全くない、ミンスク2合意の履行をウクライナ政府に働きかけようとする動きが見られない、ウクライナ政府に大量の武器が供与されてきた、あたかもロシアがウクライナ侵攻を企ているかのような論調を西側が挑発的に流していると、マクロン大統領に非難を表明した。

また、バイデン大統領とプーチン大統領の会談は、通話時間は約1時間、ホワイトハウスの発表によると、バイデン大統領はプーチン大統領に対し、ウクライナへ侵攻した場合、ロシアに対して直ちに強力な制裁措置を取ると再通告を行った。

ウクライナ情勢をめぐり関係国が行っている外交交渉は、2015年2月に東ウクライナ紛争地域ドンバスでの停戦及び安定化プロセスを取り決めたミンスク2合意に基づくウクライナ、ロシア、及び仲介役としてのフランス、ドイツによる交渉、及び、昨年12月にロシアがアメリカ・NATOに対して提案したヨーロッパ安全保障の枠組み見直し案をめぐる交渉、この2つに集約されて行われてきた。

従来は、1つめのミンスク2合意に基づく外交交渉だけが中心的な協議の場であった。そして、この交渉の当事者は、ウクライナとロシア、及び、その両者を仲介するフランスとドイツの4者だけの手に委ねられ、ノルマンディーフォーマットと呼ばれるこの4者によるヨーロッパ主導の協議で行われてきた。

しかし、ミンスク2合意は停戦を急ぐことに主眼が置かれ、合意成立後は実質的に全く履行が進んでいない状態だ。その大きな要因は、合意当事者に紛争地域ドンバスの地域勢力の代表者を加えるか否かで、ロシア側とウクライナ側に見解の相違があることだ。

ロシア側の立場は、一貫して当事者に地域勢力の代表者を入れるべきというものであり、これに対してウクライナ側は、ロシア側が主張する地域勢力(親露派勢力)の代表者は実質的にロシアの直轄勢力であり、正統な地域代表とは見なせないため当事者に含めることはできない、従って、当事者はウクライナとロシアの2者に絞って協議をするべきだ、というものだ。

2019年にウクライナの現大統領ゼレンスキー政権が誕生してから、ノルマンディーフォーマットの協議の場でミンスク2合意の履行プロセスについて話し合いを再開する試みが行われたが、結局この当事者問題がネックとなり、ミンスク2合意は頓挫したままであった。

しかし、この間にゼレンスキー政権のもとで起きた大きな変化が、ウクライナに対するアメリカからの積極的な武器の供与であった。また、ゼレンスキー政権の前のポロシェンコ政権の時に、ウクライナがそれ以前までとっていた安全保障上の中立路線を転換し、NATO加盟を目指す方針を正式にウクライナ議会で決めている。

ロシア側が、交渉の唯一の拠り所としてきたミンスク2合意が頓挫したなかで、ウクライナがNATO加盟の方針のもとでアメリカからの積極的な武器受け入れに舵を切った事態を脅威とみなすようになったことが容易に想像できる。状況を打開するために昨年12月、ロシアはアメリカとNATOに対してヨーロッパ安全保障の枠組み見直し案を提案することで、ウクライナに対するミンスク2合意の履行への流れを作ることを暗に狙った。

そして、今年1月にフランス・マクロン大統領が主導する形でノルマンディーフォーマットによる協議が再開し、2月10日に2回目の協議がベルリンで行われた。しかし、ロシア側の意図とは裏腹に、ウクライナ側は当事者に関するロシア解釈のもとでのミンスク2合意の受け入れ要求を受け入れず、また、仲介役のフランスとドイツは中立の立場を貫き、ウクライナ側に対してロシア側の意向を受け入れるよう促すことはしなかった。

ベルリンでの協議が物別れに終わった後、ロシア側はウクライナ側の姿勢を非難しただけではなく、仲介役のフランスとドイツがウクライナに対してロシアの意向を受け入れるように働きかける姿勢をみせなかったことまで非難した背景には、このようなロシア側の交渉上の思惑があったと見るべきであろう。そのように筆者は考えている。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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