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ウクライナ当局、IAEA事務局長のザポリージャ原発に関する発言を非難。

 ウクライナ原子力規制当局(SNRIU)は27日、国際原子力機関(IAEA、本部ウイーン)のグロッシ事務局長がダボス会議のパネル・ディスカッションでロシア軍の占拠下にあるウクライナ・ザポリージャ原発に関して行った発言で、「ザポリージャ原発には、核兵器を製造するのに十分な量の3万キロのプルトニウムと4万キロの濃縮ウランがあり、IAEA査察部隊が原発に入り状況を確認したいが、できない状況がつづいている、査察に入ったらすでにその一部が消えているのではないか頭をよぎる」、と発言したことに対して、「IAEA事務局長は、ロシアのプロパガンダに沿った発言をしており遺憾、ウクライナには核兵器に転用できるようなレベルの放射性物質はなく、あるのは原発用の燃料だけだ」、と指摘し、グロッシ事務局長を非難する声明をウエブサイト上に掲示した。

 グロッシ事務局長は、今回のダボス会議以前にも、過去にIAEAウイーン本部で行われた記者会見の場で同じ趣旨の発言をおこなっており、その際にはウクライナ側からの非難声明は無く、また、業界用語的には、プルトニウムは使用済み核燃料を、また、濃縮ウランは核燃料のことを指すので、原発専門家組織の発言としては必ずしも不適切ではない。ただ、今回はグロッシ事務局長の発言がダボス会議というメディアの注目度が高い場所で行われたもので、ロシア側がすかさずこの発言を切り取リ、IAEAがウクライナによるダーティーボムの製造を確認する発言を行ったと作り替え、ロシア国内向けプロパガンダを拡散していた。SNRIUによるグロッシ事務局長を非難する声明は、この動きを察知して、ウクライナ側がロシアのプロパガンダ工作を牽制する目的で取った行動だとみるべきだろう。

 現在ロシア側は、ザポリージャ原発(および隣接する火力発電所)の関係者を主な住民構成とするエネルホダル市に親ロシア派の市長を押し込み、また、エネルホダル市を含むザポリージャ州と隣のヘルソン州のロシア支配地域の市民にロシア国籍を与える政策を進め始めている。しかし、ロシア側はザポリージャ州の行政まではまだ掌握しているわけではないので、仮に現在IAEAがザポリージャ原発への査察を実施する場合には、その際に適用される基準は、従来からウクライナが行ってきている核不拡散管理ということになる。しかし、ロシア側は、それもあくまでロシア側が行政を完全に掌握するまでの過渡的な措置だというような主張をする可能性が高い。

 今回のSNRIUのグロッシ事務局長に対する非難声明では、IAEAに対して、ザポリージャ原発からロシア軍(およびロスアトム)が撤退するようにウクライナ側を支援するように求めており、事実上ロシア軍が占拠した状況下でのザポリージャ原発へのIAEA査察への反対を表明している。ロシア軍が占拠したままの現在の状態でIAEAがザポリージャ原発に入ることで、それをロシア側が更なるプロパガンダの素材として利用することを牽制しているのだろう。IAEAが政治的な調整を行わない機関である以上、このウクライナの牽制により、ザポリージャ原発の査察問題は事実上進展がみられないままの状況が続く可能性が濃厚となってきた。

■参考資料:  The Public Call of Acting Head of the SNRIU to the International Atomic Energy Agency, 27.05.2022 SNRIU

(Text written by Kimihiko Adachi)

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