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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(3)

 4月24日の決選投票まで残すところ10日となった14日木曜日、マクロン陣営はフランス北部大西洋岸の主要都市ル・アーヴルへ遊説を行った。ここは、10日に行われた第1回投票で、急進左派メランション氏が30.17%を得票し、マクロン氏の27.53%、ル・ペン氏の20.67%を引き離した場所である。決選投票にむけて、このメランション氏支持層を取り込もうというのが、マクロン氏の目論見だ。対するル・ペン氏は、南部アヴィニョンへ遊説を行った。ここも、第1回投票ではメランション氏が得票で第1位となり強かったので、ル・ペン氏の目論見もメランション氏支持層の取り込みだ。

 調査会社イプソスが第1回投票結果を踏まえて出したフランス全土の年代別の投票行動のデータによると、18歳~24歳の有権者のうち31%がメランション氏に投票し、ル・ペン氏の26%、マクロン氏の20%を引き離しており、こうした若年層がメランション氏のコアな支持層となっている。メランション氏の姿勢は、弱者救済、グローバリズム懐疑であり、コアな支持層の大部分は決選投票では金持ちとグローバリストの代表のイメージが付きまとうマクロン氏への投票は避け、白票の投票、あるいは棄権を選ぶであろう。これに対して、35歳~49歳の層における第1回の投票行動は、28%がル・ペン氏、24%がマクロン氏、22%がメランション氏、であり、この年齢層におけるメランション支持層は決戦投票ではル・ペン氏とマクロン氏への投票に分かれるのではないか,そのように筆者はみている。マクロン氏を積極的に支持しているのは、若者や中年層ではなく、古き良き時代のフランスを知る世代が中心というのが実情だ。

 マクロン氏、ル・ペン氏とも、決選投票までに残された時間で各地を積極的に遊説し、メランション氏支持層の取り込みに力を入れるのだろう。前回2017年の同じ顔ぶれで行われた大統領選挙では、ル・ペン氏が志向する脱EUの動きを嫌ううねりが広がり、第1回投票での支持の如何にかかわらず有権者が結束し、決選投票でマクロン氏に雪崩を打つように票が集まる現象が起きた。また、同じような現象は、2002年にシラク氏とル・ペン氏(父)で争われた大統領選でも起き、有権者が結束して極右大統領誕生を阻止することになった。こうした有権者の動きは、主に大学生等を中心とする若年層の運動が引き金となってきた。今回の大統領選挙ではこうした若年層は最初からメランション氏支持を推進していたため、パリの主要大学関係者などの発信をみると、そうした世論を引っ張る若年層の間では、今回の決選投票ではマクロン氏にもル・ペン氏にもノーを突きつけようという意識が広がっているようであり、極右を止めるためにマクロン氏に票を集中させようという結束の声が出にくい環境にみえる。こうした状況を踏まえて、マクロン陣営は各地を遊説してまわる戦略に重きを置いているのであろう。

 今回の大統領選挙でマクロン陣営が注意しなければならないのは、投票日4日前の4月20日夜にフランスTV局TF1、France2 合同でフランス全土に放映される候補者2人の間で2時間にわたり行われる予定の討論だ。人物を選ぶ性格が強い大統領選挙にとって、このTV討論は非常に重要で、前回2017年の際には視聴率60%で同じマクロン氏とル・ペン氏の対決となり、当時オランド政権下の経済大臣からの立候補であったがニューフェースであったマクロン氏が、巧みな論述でル・ペン氏を極右のみならず経済音痴かのように印象付けることに成功し完勝、決選投票での地滑り的勝利を得た。今回マクロン氏は、逆風下の現職大統領として臨み、在職期間中の5年間に有権者に見えた風景が、逆にル・ペン氏の攻撃にさらされることになるので、ディベートを非常に得意とするマクロン氏にとり今回のTV討論は必ずしも有利な状況ではない。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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