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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(2)

 決選投票に向けた選挙戦3日目となる13日水曜日、マクロン陣営はFrance 2 TVインタビュー番組Les 4 Véritésに出演し、対立候補ル・ペン氏について、選挙運動では極右の本性を隠しており、本質は危険な極論主義者で、EUからの離脱、自由の価値否定、憲法の価値否定、報道の自由の価値否定、死刑制度の復活など、長い年月をかけて勝ち取ってきた価値・諸権利を否定する考えを持っている、と激しく批判した。ル・ペン氏は今回の選挙戦では、従来の脱EUを目指す立場から転向し、EU内にフランスが残り内部からEUを弱体化させる方向に論調を変えているが、50万人以上の署名でどのような政治課題でもレフェレンダムにかけることが出来るようにする考えを提唱しており、脱EUを仕掛けることも理論的には可能なので、マクロン陣営はこうした可能性について警鐘を鳴らしているものと思われる。

 対するル・ペン陣営は、パリ市内で自身が考える外交政策について説明する形式で記者会見を行い、EU内にフランスが残りながらEUを加盟国間の緩い共同体へ変質させる考え方を表明した。また、隣国ドイツとの関係について、両国の相互理解を深耕させるための緊密な文化・学術・経済面での交流を従来以上に活発化させるが、ドイツとの軍事技術の共同開発は行わない、また、ドイツの国連常任理事国入りを支持しない考え方を表明した。また、NATOに関しては、フランスのNATO統合部隊への不参加を考えていることを表明した。

 現段階では、決選投票に向けてできるだけ広い支持を取り付ける必要があり、主張は本来より穏便なトーンに抑えているはずなので、ここから推測できる実際の考え方は、さらに極端なEU破壊あるいはフランスの脱EU、そして、NATOに関しても場合により離脱を志向しているのではないかと考えざるを得ない内容だ。フランスは核兵器保有国であり、ロシアとは地理的に距離があるため、理論的にはNATOから離脱しても自国防衛に問題はない。しかし、仮定の話としても、NATOからフランスが抜ける可能性に関しては、ドイツに大きな動揺を引き起こすであろう。また、ル・ペン氏は、ウクライナ情勢について、状況が落ち着いたら、NATOはロシアとの対話を行うべきだとだけ述べ、それ以上の言及は避けた。ル・ペン陣営は、2014年以降、ロシア系の銀行から政治資金を調達しており、また、ロシア大統領と永く親交があり、そうした点をメディアから追及されるのを避ける思惑があるものと思われる。

 調査会社IFOPが13日に出した最新予想では、4月24日の決戦投票ではマクロン氏が53%の得票でル・ペン氏の47%を下し勝利するとしているが、依然として僅差だ。マクロン陣営が、有権者の最大の関心事である生活を取り巻く経済問題のためにどれだけ効果的な対策を打ち出せるか、よく見ていく必要がある。マクロン陣営は、並行して、第1回投票で3位につけたメランション氏、あるいは第5位につけた共和党ペクレス氏とも夫々の支持層のマクロン陣営への取り込みについて話し合いを行うであろう。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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