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2月15日、ウクライナ情勢をめぐる外交交渉について。

ドイツ・ショルツ首相のモスクワ来訪と同じ日の2月15日に、ロシア連邦下院(デュマ)はドンバス2共和国の国家承認を嘆願する決議を採択し、プーチン大統領に送付した。プーチン大統領がこの決議に基づきドンバス2共和国を承認するかどうか、決定するまでの猶予期間は30日間とされている。
(この動きについて詳しくは、弊稿「ロシア連邦下院によるドンバス2共和国承認決議の検討準備について」、を参照いただきたい。)

モスクワの各メディアが事前に出していた予測では、このデュマの決議にはもう少し時間をかけるという見方が支配的であった。しかし、実際のデュマの動きは決議の採択を即日に行うという迅速なものであり、このことは、ウクライナとのドンバスをめぐる交渉が進展しない場合、ロシアはドンバス2共和国を国家承認して外交交渉を打ち切ることもできるという強制的なオプションを用意した、という政治的意思を国内向けにアピールするのが狙いだと見て良いだろう。

ショルツ首相とプーチン大統領の首脳会談で話し合われた内容について、筆者が会談終了後の共同記者会見を見て確認できたことは、ウクライナとロシアの間でのドンバスに関する協議は、これまで通りミンスク2合意のプロセスに従って進める、そして、その前提としてTrilateral Contact Group(TCG)を開催しドンバスの現状把握を行う、という交渉手順が確認されたということだ。
(Trilateral Contact Groupとは、東ウクライナの紛争地域ドンバスで停戦を実現・維持し、平和な状態を回復することを目指すための、ロシア、ウクライナ、及びOSCE-欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Cooperation in Europe、停戦監視を含む欧州の紛争を調整するための地域安全保障機構、本部ウイーン)の3者による協議のことを指す。)

この内容自体は、先週ベルリンで行われたノルマンディーフォーマット協議の場でウクライナ側から出された提案にそっており、したがって、新しい展開ではない。しかし、ロシア側は先週の段階ではこの案に対して慎重であったので、今回のプーチン大統領との会談では、ロシア側が前向きな姿勢に転じ、協議を前進させることが確認されたことになる。

今後、ドンバスをめぐる動きで焦点となるのは、TCGが迅速に開催できるか、そしてそれがどれだけ効果的に機能するかということであろう。しかし、現状ドンバスでは実質的にロシアの直轄地的な運営が行われており、TCGを進める過程でウクライナ側とロシア側でドンバスの親露派勢力に地域を代表する正当性があるのかについて対立が生じることが容易に想像される。

アメリカとNATOは強力な経済制裁を即時発動できるようにスタンバイさせることにより、ウクライナとの国境地帯に膨大な軍事力を展開し続けるロシアを牽制しながら、協議の場をフランスとドイツの仲介の下、TCGとミンスク2合意履行に向けたノルマンディーフォーマットに集約することで事態の打開を試みるものと思われる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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