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米国連邦議会で起きた懸念すべきこと、ゴサール下院議員のアニメ動画投稿について。

米国ワシントン時間11月17日午後、連邦議会下院で共和党ポール・ゴサール下院議員に対する戒告決議が民主党を中心とする過半数の議員の賛成により可決され、ゴサール議員は下院行政監視委員会及び資源委員会の委員職を剥奪されることになった。

戒告による議員の所属委員会の委員職剥奪は、議員資格はそのまま維持されるが、地元のための立法作業は事実上制約されることになり、対有権者的に大変不利になる重い懲罰である。

メキシコと国境を接し不法移民問題を抱える米国南西部アリゾナ州から選出されているゴサール議員は、11月7日に自身のツイッター上で人気アニメを加工した90秒の動画を投稿し、拡散された動画は瞬く間に300万回再生された。その内容が、不法移民が流入するシーンに民主党の著名な若手下院議員のオカシオ・コルテス氏をイメージしたキャラクターをあたかも不法移民問題の元凶のようにダブらせ、そのキャラクターをゴサール氏自身のキャラクターが剣で切り殺すというストーリーであったため、物議を醸したのである。アメリカの政治を取り巻く現在の不穏な環境下では、投稿を見た一部の層の暴力行為を挑発しかねない明らかに危険な内容であった。

全米のメディアがこのツイッター投稿を問題視して大きく取り上げると、ゴサール議員は問題の投稿を2日後に削除した。しかし、オカシオ・コルテス議員に対しては何らの謝罪もする意図がないことが明白であったため、議会が自ら行動を起こしてゴサール議員を戒告処分にする方向で動いた。

下院で行われた戒告決議採決の前に各議員が発言を行い、その場でゴサール議員は、投稿はメキシコからの不法移民対策を何ら行わない民主党政権の問題点を知らしめるためのもので、誰かに危害を与えることを目的としておらず何ら危険なものではない、と主張した。

オカシオ・コルテス議員は議会の場で同僚の議員に向けて、このような投稿を議員が行うことに対して我々議員が声を上げないとしたら恐ろしいことだ、同じことが家庭、学校、職場、教会の場で行われたら誰もが声を上げるだろう、それが議会で行われて誰も声を上げないとしたら恐ろしい、と発言した。

下院議長の民主党ナンシー・ペロシ議員は、議員が暴力を扇動する拡散を行えば人々はそれを受けて敵対者への攻撃をするようになり看過できない、放置すれば暴力を容認し日常化させることになると述べ、その上で共和党側でこうした行為に対して何らの措置も取ろうとしなかったことを強く非難した。

その後に行われた採決で戒告決議は賛成多数で可決されたが、内訳的には、民主党議員全員が戒告に賛成、共和党は、賛成2議員、棄権1議員を除き残り全員が反対票を投じる結果となった。ほとんどの共和党議員が反対に回ったのは、前大統領トランプ氏が民主党を利する行動をとる共和党議員を徹底的に糾弾する方針を取っており、それに忖度したためだ。

11月5日に下院で行われたインフラ法案採決の際にも、法案に賛成に回った共和党下院議員のほとんどが民主党を利するように動いたとトランプ氏から名指しで糾弾され、その結果一部の議員はトランプ氏の支持者とみられる層から電話等で脅迫を受ける事態に至っている。

2024年の大統領選への再出馬を狙っているとされるトランプ氏のコアな支持層は、今年7月に調査機関ピュウ・リサーチセンター実施の世論調査によれば共和党支持者の内約24%を占めているとみられており、各共和党議員も来年11月の中間選挙を見据えてこうした層の反感を買わないよう、ひたすらトランプ氏に忠誠を誓う姿勢を見せるしかないのが実情だ。

トランプ氏のコアな支持層が攻撃的な性格を持っているため、共和党支持者の中に占める空気が大きく変質し暴力的なカルチャーが広まった。しかし今回のゴサール議員の問題の本質は、民主主義に基づいた言論が活動の源であるべき議員自身が、脅迫性を帯びた攻撃的なメディア手法を取ったことを深く憂慮すべきという点であろう。議員が、議会活動にカモフラージュされた形で暴力を扇動する行為は、表向き民主主義手続きに則るように見えても、実際には非民主的な手法だからだ。

今回は、ゴサール議員が自らの正当性を主張するも、民主党が多数を握る議会が主体的に行動を起こし対処することができた。しかし、仮に議会で共和党が多数を取っている場合に同じような事件が起きたとしたら、議員の行動を糾弾し抑止することは難しかったであろう。アメリカの政治が大きく変容した中で、今後議会は民主主義プロセス擁護のための方策の検討が急務であろう、筆者はそのように考えている。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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