石原孝『堕ちた英雄』

 ジャンルを問わず、月に一冊は新書を読もうと心掛けている。『ペスト』『白い病』と読んで、その後に読んだのがこれ。2月15日に読み始めて24日に読了。
 朝日新聞の記者である筆者が、ジンバブエの独立闘争を率いた「英雄」ムガベの姿を追っている。「堕ちた」というのは他国人からみた表現で、ジンバブエ国内においては大統領の座を退いた後もなお、英雄と称える人がいる。ムガベの頃の方がよかった、など。

 「堕ちた」とはどういう意味なのか。なぜ「堕ちた」のか。同じく英国の植民地であった南アフリカの独立闘争を率いたマンデラと対比することで説明していく。黒人の土地を白人が奪った。その土地は本来は黒人のもの。だから、黒人には土地を取り返す権利がある。・・・だけど、親の世代からアフリカの地にいて、アフリカで生まれ育った白人もいる。自分の資金で土地を買った白人もいる。白人の農地で雇用されていた黒人もいる。そんな中で、強引に土地の収用と黒人への分配を断行したらどうなるか。独立当初は白人との融和を訴えて賞賛されたにもかかわらず、そして何年かは無理に白人の土地を収用しようともしなかったにもかかわらず、結局はそれをやったのが、ムガベ。黒人有権者の票をつなぎとめるべく白人の土地を強制的に奪い、農業の知識をほとんど持たない支持者たちに与えた、と。結果、食糧生産がうまくいかなくなって輸入に頼ることに。一方で、それをあえてしなかったのが、マンデラ。白人の農場経営者のもとで黒人が雇われていたり、農業が衰退するようなことは起きていない。けれど、黒人たちの不満は残っていて、燻ぶったままの状態だとのこと。

 ヨハネスブルクを拠点に取材した筆者によると、外国人である自分にとっては南アフリカのほうが過ごしやすい、と。南アフリカでは裕福な人と貧困に苦しむ人との格差が大きく、治安はよくないという。一方のジンバブエでは、土地を奪われた白人たちが次々と国を出て他国へ行ってしまったために、黒人が多いと。言い方を変えると、目で見て黒人ではないとわかる外国人には過ごしづらいのかなと。
 ジンバブエといえば、今でも覚えているのが超がつくほどのインフレ。何兆?何百兆?なんて額面の紙幣が発行されて、その紙幣の束を抱えて皆買い物をしようと必死だったというのだから。今では、その何百兆?の札が土産物として売られているって。

 結局のところ、白人との融和を言いながら独立を果たし、独立の英雄として政権を握り、政敵を追いやって。票をつなぎとめ続けるために白人の土地を強制的に奪って。独裁者として非難され国際的に孤立し、経済的な困窮に苦しむことになった。タイトルの「堕ちた」はこういうことなのだろう。

読んでくださって嬉しいです。サポートいただけましたら、今後の記事執筆のために役立てさせていただきます。