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「貧乏ゆすりと言わないで」 2.やっぱりおかしい

「今度、子育てとお片付けのセミナーの開催をしようと思っていて、是非、喜美ちゃんに講師をしてほしいんだけど。」
そう声をかけてくれたのは整理収納アドバイザーとして独立して頑張っている可南子だった。喜美もちょうど資格を取ってこれからどんどん顧客を広げて行きたいと考えていたところだったので、
「私でよければ!」
「うぁ!嬉しい!じゃあ、二週間後の開催だからよろしくね!」          
と言ってくれた。
そして滞りなく準備を進めて当日を迎えた。

緊張はしていなかった。いつも通りに話して楽しい時間が過ぎるはずだった。 
ホワイトボードに字を書こうとした瞬間右手が動かない。なんで、どうして!焦れば焦るほど、思うように動いてくれない。
「わぁ、何だか緊張しちゃったみたいです。手が震えて字が書けなくなっちゃって。」  
と言うとどっと笑いに包まれて、
「喜美先生、緊張しちゃったみたいですね♡私が代筆しますね。」
と可南子が助け舟をだしてくれた。
セミナーの後、可南子が心配そうに
「さっきはびっくりしちゃった!いつも完璧な喜美ちゃんからまさかの字が書けない告白。本当に大丈夫だった?お医者様行ってみたら?」
「うん、平気、平気。ちょっと疲れているだけだと思うわ。」
とその場をまた取り繕った。
        
同じころ、子どものマラソン大会があり、
応援がてら会場になっている県立公園に行った。ママ友に
「喜美ちゃん、こっちこっち〜。」     
と呼ばれて走り出した瞬間、
足がうまく動かない。
走ることに自信があったのに、
ちょっと太り気味のママ友にさえ走り負けしてしまった。
「えぇ~ちっくしょう!」
なんて笑いながらちょっと汚い言葉を吐いた。 

そんなことを繰り返し、右足の振るえが頻繁になり、
かかりつけの病院で診察をしてもらうことにした。

昨今はインターネットで症状を入力すると
ご丁寧に病名がわかるようになっている。

症状の項目に「振るえ」・「片方のみ」と入力してみると
早々に出てきた答えが「パーキンソン病」。
病名がわかるのは便利だけど、
宣戦布告されたようで何だか腑に落ちない。

喜美の中には確信があったが
「違うと思いますよ。でも念のため検査してみましょうか。」
と若い医師が気休めのように言った。

検査は一週間後に決まった。


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