見出し画像

ふらふら弾丸フェリー大阪別府201910

暇だな、と思ってスマホをいじっていた。

その10分後に翌日大阪から別府にいくフェリーを予約していた。出来心だ。往復1万円、別府のバスフリーパス付きという破格値故の出来事だ。

往復で1万円だ。


とりあえず冷蔵庫に入っていたビールと、じゃがりことタオルをカバンに放り込んで翌日家を出る。遠足だ。

フェリー乗り場のある、ショッピングモールには、嘘みたいに人気がない。どこかで一杯引っ掛けようとさんざんうろうろした挙句、スープカレーの店にたどり着くことができない。何度も案内看板と道とを見比べたけれど、どうしても見つけられない。消えたのかもしれない。

出港時間が迫って、ままよ、とフェリーに乗り込む。タラップを歩いていた時に聞こえてきたジャズを弾く楽団の音は、フェリーに乗り込んだ途端に消える。

どうせ大して寝ないだろうと、雑魚寝のツーリストルームなるものを予約している。きちんと自分専用の小さな布団を敷くスペースが用意されている。その上女性専用の部屋が用意されている。なにせ1万円だ。贅沢だ。

館内には食堂もあれば、コンビニと土産物屋を融合させたような売店もある。価格も良心的だ。

空かせた腹を抱えてバイキング形式の食堂で、生ビールとご飯を確保に走る。行ったこともないデパートの屋上の大食堂を連想する。きっとあなたがデパートの食堂が好きなら、好きだろうという気がする。わたしは好きだ。行ったことはないのだけれど。

画像1

そのまま、風呂に入りにいく。こぢんまりとした浴室からは、外の景色が見えるのだけれど、ただ暗いばかりで、外の様子がよくわからない。フェリーに乗っているという実感がいまいちわかない。

湯上りに常温のビールを持って、デッキに出る。ごうごうと船が動く音がする。風が強く、なんだか焦って飲む。船の灯は乏しいが、真っ暗な海の向こうにはっきりと陸地の明かりが見える。

ちょっとした宴会がいくつか開かれている公共スペースで本を読みながら売店で買い込んだかぼすハイボールをいくつか消費する。これは、昔ナチュラルローソンでよく買っていたやつだなと変に懐かしい。関西にナチュラルローソンは存在しない。

夜中、おじいさんに突然「何を探しに来たのか」と話しかけられるがうまく返答できない。おそらく若い(一般論でなく比較の話として)女が1人でフェリーに乗るのには、何か理由があるのだろうと思ったのだろう。残念だけれども目的など全くない。ただうっかり安値につられただけだ。

少しだけ眠ると、いつの間にか朝になっていて、別府港についている。

バスに乗って、駅の近くの古い公衆温泉に入る。入浴料が100円で、コインロッカー代が100円。嘘みたいな値段だ。脱衣所と浴槽が地続きの空間で、地元のおばさまが慣れない風情のわたしに見かねて熱いからそこの湯だまりは汲まないようにと注意してくれる。おばさまがたを真似して浴槽のお湯を桶で汲んで体を洗い、湯に浸かる。天井は高く、すこんと抜けている。

別府に来たのだな、と思う。

画像2

観光客らしく振る舞おうと、バスで鉄輪温泉に向かう。調べておいた道の駅で、地獄蒸しのセットと何杯目かのビールとかぼすハイボールをあおる。芋と南京が嘘みたいに甘い。

画像3

どこの温泉に入ろうかと歩いていると気になる看板が現れる。コンニャクタコスの文字をじっと眺める。コンニャクとタコス。今まで考えたこともない組み合わせだ。迷わず入店した後で、さっき食べたばかりだと思い出す。

コンニャクとタコスは、どういうわけだかベストなパートナーだった。疑うむきがあれば、別府に行くといい。

画像4

ふらふらと目についた温泉に入ると、そこは「むし湯」なのだという。薬草の敷き詰められた熱い石窯に1人で寝転ぶ。部屋中にぷぅんと良い香りが立ち込める。汗が滲む。子供の頃のひそかな夢、干し草でいっぱいの納屋で寝転ぶことが叶ったような心地がする。

画像5

唐突に現れる無料足湯&足蒸しを楽しんだり、地獄めぐり(素敵にチープ)をしたり公衆温泉巡りをしたり雑貨屋の店頭で100円で袋いっぱいのかぼすを買ったりとすっかり別府を満喫した。別府はいい街だ。あと、全体的に値段がおかしい。安すぎる。

夜発のフェリーに乗る前にぎりぎりいっぱい引っ掛けようと、駅前をうろうろする。時刻は5時。絶妙に飲み屋が空いてなくて、どうしたものかとうろうろうろ。

ようやく空いてそうな割烹店ののれんからそっと店内を覗くと、おばさまが出てくる。「ここまだ空いてないわよ」ご飯食べるのだったらお勧めがあるというおばさまに着いていく。地元のひとが、ご飯食べるなら、ココが一番という店の前には、地元のひとらしきグループが開店を待っている。間違いない感が果てしない。

ありがとう、割烹店の人かわからない、おばさま。

出会った別府の人は、とてつもなく親切な人しかいない。別府最高じゃんと噛み締める。

それでね、当然のように美味しいの。フェリー乗船まで時間がない中、胃袋の限界に挑戦するよね。

画像6

帰りのフェリーに間に合うバスに向かって必死に走り、またゆったりフェリーで酒盛りをして帰る。フェリーはいいものだ。

朝ついて、そのまま会社に直行したら、別府に行ったの夢だったかなと思ったよね。でも、カバンにかぼすが入ってるから、幻じゃないやと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?