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青木HCは電気羊の夢を見るか?

今一つ乗り切れないままバイウィークを迎えたビーコル。うまくいかないときは得てしてSNSにてブースターによる熱のこもった批評が展開される。賛否あるがスポーツ観戦の醍醐味の一つであろう。

批評の拠りどころとして、よくヘッドコーチや選手の「コメント」に焦点があてられる。勝利した日は饒舌にもなろうが、ボロ負けした日にコメントするのは辛い。それでもしっかりとコメントし、勝因敗因を振り返ることが次の試合につながるし、チームを応援している人たちに対しHCが果たすべき責任の一つだ。

青木HCのコメントはとても真摯だし、よく考えられていると思う。勝ち試合のときはおそらく4クオーターの残り5分くらいから考えはじめていると私は推測する。それくらい練りに練られたコメントだ。
そんな彼が比較的好んで用いるワードがある

トーンをセット

    である。

これに対してもっとさらに上をいくべきだったが、あの後半できたアグレッシブさを誰が出ても最初から40分間続けられるか、最初からトーンをセットして最後まで続けられるか。

10.14 群馬戦game1コメントより

(琉球に)トーンセットされてしまったのは1Qだと思うが、チームの完成度はまだまだ、先は長いと感じさせられた。

10.22  琉球game2コメントより

最初からトーンをセットし、チームとしてもブレずに、ベンチもスタッフも最後まで戦い抜けたことは成長だと思う。

11.05  仙台game2コメントより

なるほど、わからん


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「トーン」っていったいなんぞや?
私はどうしてもその言葉の真意を知りたくなってしまった。

Bリーグを観るようになって、私は二つの「ふんわりワード」を選手やHCのコメントでよく目にすることに気づいた。一つ目は「エナジー」。技能や戦略を超えた領域にあり、ブースターの大好物であるエナジー。ビーコル界隈では「エナヅー」という卍解状態も認知されている。ふんわりしているが私はルーズボールダイブや激しいディナイのような熱いプレイに付される言葉と理解した。二つ目は「インテンシティ」。こちらもふんわりしているが、プレイの強度、といったところか。まあ、私的には「すこし頭が良さそうに見えるエナジー」として理解した。

そして「トーン」である。

トーンtone】 · 1 音、音調。 · 2 色調。「暗い—の絵」 · 3 物事全体から感じられる気分・調子。「交渉相手の—が変わる」

weblio辞書より

調子・・・か。とすると「トーンをセットする」=「調子をセットする」といったところであろうか。音調や色調ではないだろうから、「気分の調子をセットする」というのが一番しっくりくるだろうか?

ここまで考えをめぐらし、私はふとあるものを思い浮かべた。これである。


いわずと知れたSF小説の名著であり、映画「ブレードランナー」の原作でもある「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。核戦争後のディストピアを彷彿とさせる世界で、人間と区別がほぼつかなくなったアンドロイドと、彼らを始末するバウンティーハンター。すでに古典の部類で世界観自体はやや古いものにもなってしまったが、AIがフィーチャーされているいま、あらためて注目すべきテーマを扱っている。

SFらしく様々な近未来(当時では)のガジェットが登場し、その中の一つに「ムードオルガン」といったものがある。詳細は割愛するが、脳に電気を流し情調(ムード)を任意にコントロールする、といった機械。おどろくべきはコントロールする情調の豊富さ、細やかさである。任意のダイヤルに番号をあわせてチューニングするが、例えばナンバー481

「ナンバー481。あたしの未来に開かれている多様な可能性の認識。そして新しい希望――」

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」より

うむ。ポジティブな気持ちになることができるチャンネルだな。ぜひ私も体験したい。

続いて、ある理由から主人公が妻へテレビを見るよう促すシーン。

「888をダイヤルすればいい」~略~「どんな番組であっても、テレビを見たくなる欲求だ」

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」より

お、おう……テレビ局大喜びだな。というか888もチャンネルあるんだ。

もう一つ、口論の末、妻が主人公に「なんだってダイヤルするわよ」と投げやりに言うシーン。それに対し夫である主人公は

「じゃあ俺が選ぼう」~略~そして、彼女のコンソールで594――すべての問題における夫のすぐれた判断を快く受容する態度――をダイヤルした

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」より

なんかスゲー!!ものすごく都合がいい、私も欲しいぞ594。


そう、私は青木HCが使用する「トーンをセット」の言葉に、ムードオルガンのエッセンスを感じ取ったのである。そのとき、

「あれ?もしかして青木HCムードオルガン持ってるんじゃね?」

そんな妄想が私の頭を支配し始めた。だめだ、妄想が止まらない・・・とうとうSFの世界が現実になるのか?

「ユウキ、045をダイヤルしてトーンをセットしろ。横浜にずっと住みたくなって生涯ビーコルにいたくなるチャンネルだ」とか「デビン、847はいいぞ、陽気な気分になれる。え?必要ないって?まあそうだな」とか、青木HCがムードオルガンを駆使し選手たちのトーンをセットしまくっているかもしれない! こりゃあすごい! 




いや、落ち着こう。
ムードオルガンはあくまでもフィクションだ。

ちゃかすことなく「トーンをセット」の意味を考えると、戦術や戦略、エナジー、インテンシティもろもろをひっくるめた「試合に臨む姿勢」、その複雑に交じり合ったグラデーション(トーン)を、コートに立つプレイヤー全員が共通理解(セット)することゲームを支配する・・・といった感じではなかろうか。誰か一人がハッスルしてもトーンはセットされない。勝利へと向かう全員のムードが一致してこそ、トーンはセットされ、ゲームを支配する。

それを後押しするのはブースターだ。感情をコントロールできるムードオルガンはブースターの手の中にある。バイウィーク明け、ブースターが奏でる声援・クラップ・心の滾りを受けトーンがセットされまくるビーコルに出会えるはず!


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