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今一度問いたい!「平和を準備」するとは具体的に何をするのか?

【0.はじめに】

2023年1月18日(水)の日本共産党の機関紙「赤旗」に、以下の記事が掲載されました。
『戦争の準備ではなく、平和の準備を』
『評論家 故・加藤周一さんの発言 各界に響く切実感』

これは評論家で、日本国憲法9条を守ることを目的とする「九条の会」呼びかけ人の一人「加藤周一」氏の言葉だそうです。
この記事を受けて様々な人が意見を発していますが、私も疑問に思うことがあったので記事を書いてみることにしました。

果たして「平和を準備」するとは、具体的には何をするのか?

皆さんはどのように思われますか?

【1.「平和を準備」するための長い道程】

現代人だけでなく紀元前の人に聞いても、おそらく『戦争より平和がいいよね』と答えることでしょう。
しかし歴史を紐解けば、人類は紀元前から様々な戦争を経験してきました。
そのため、紀元前から『どうしたら戦争しなくてもよくなるか?』を研究してきた人たちがいました。

その研究の嚆矢は、おそらく紀元前6世紀の中国人「孫武(孫子)」の研究でしょう。
孫武は戦争を理論的に研究し『理論に基づいて比較すれば、戦う前にどちらが勝つかわかる』だから『戦わずに勝つことを目指そう』と提唱しました。

孫武の研究は「孫子の兵法」としてまとめられ、現代まで伝わっています。
確かに『戦わずして勝つ』ことができれば、戦争をするまでもありません。
しかし実際には『戦わずして勝つ』状態を作ることも維持することも難しく、戦争をなくすことはできませんでした。

西洋でも古代ギリシャ時代から同様の研究が続けられ、『戦争の原因は人間の内面ではなく、国際環境や国家間の力関係(パワーバランス)にある』という結論が導かれました。
これによって、現代まで続く『勢力均衡(バランスオブパワー)によって戦争を抑止する』という考え方が生まれます。

上記の考え方を、国際政治学では「現実主義(リアリズム)」と呼びます。
しかしこの考え方でも実際には勢力均衡を保つのが難しく、「ローマの平和(Pax Romana)」などの例外を除けば長期間の平和を実現できませんでした。
人類は別の方法を考えはじめます。

【2.永遠平和は「自然の摂理」だ!】

17世紀以降、近世に入ると「自由主義」「資本主義」「民主主義」など、それまでになかった新しい考え方が生まれます。
これらを用いて戦争をなくすことができないだろうか?そのような発想も出てきます。
そして『理性的な国家同士が互いに協力する「国際協調」で平和を作ろう』という考え方が生まれます。

上記の考え方を、国際政治学では「国際関係主義(リベラリズム)」と呼びます。
リベラリズムの思想を究極まで高めたのが、「近代哲学の祖」と呼ばれる大哲学者「イマヌエル・カント」ですね。
カントは「永遠平和状態を目指すのは国家の義務」と規定しました。

これを聞くと、大抵の人は『永遠平和なんて実現できるのかよ?いつできるの?』と思うでしょう。
しかしカントは『いやできる!永遠平和は「自然の摂理」だ!』と言い切ります。
そして『いつできるかは関係ない!とにかくやれ!』と迫ります。

このカントの力強い主張は、後の「国際連盟」そして現在の「国際連合」の元になりました。
つまり現在の世界は「永遠平和状態を目指して努力中」の状態と言えます。
しかし現状を見る限り、なかなか永遠平和はやってきそうにありません。

カントは『永遠平和は実現できる!』と言い切りましたが、その実現方法については詰めが甘かったと思います。
カントは『人間は利己的だ!だからこそ初めは反発するかもしれないが、いずれは「国際法に従って協調する方が得だ」と思うようになる』と想定しました。

どうも人類は、カントが想定したよりも「愚か」だったようです。
人間は「損得」だけで判断するわけではありません。
「野望」「プライド」「意地」「面子」、はたまた「夢」「理想」「友情」「愛」、人間はそんなもののためにも命を懸けて戦うのです。

新谷かおる著 「エリア88」16巻より

【3.「商業的平和論」の挑戦】

なにはともあれ、『国際協調によって永遠平和を目指そう』という大きな流れはできました。
そしてこの流れに沿って「平和を準備」する様々な方法が考えられました。
その中の一つが、経済的な結び付きによって平和を作る「商業的平和論」ですね。

軍備を減らして減税し、商工業をさらに発展させ、「グローバル化」によって世界中と取引すれば、武力によって他国から富を奪い取るよりも「はるかに儲かる」
そしてグローバル化による国際的な商工業のネットワークを作ってしまえば、戦争でそれを破壊することは「損をする」

商業的平和論の第一人者だった後のノーベル平和賞受賞者「ノーマン・エンジェル」はそのように説き、『もはや欧州で大規模な戦争は起こり得ない』と言い切ります。
1910年のことでした。

https://www.dlri.co.jp/pdf/dlri/04-20/0602_1.pdf

それから4年後の1914年、欧州を中心にこれまでにない大戦争「第一次世界大戦」が勃発します。
ノーマン・エンジェルの予想は見事に外れ、『やっぱリベラリズムはダメじゃん』となり、「現代的なリアリズム」が発展していきます。

しかし商業的平和論は「平和を準備」する決定打にはなりませんが、「戦争を減らす」効果はありそうです。
ノーマン・エンジェル以降も商業的平和論は研究され続け、現代では国際間の「貿易」よりは「投資」の方が戦争を減らす効果があると考えられています。

そうなると、日本に投資を呼び込む『バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)』のような政策が、「より戦争を減らし平和を準備する」政策と言えるかもしれませんね。
このように商業的平和論だけでも研究の蓄積があります。

その他「独裁的・権威主義的な政体の国」よりは「民主的な政体の国」の方が戦争を起こしにくいという研究成果もあります。
「平和を準備」するためには、やはりこれまでの研究を踏まえておくほうが良いと思います。

【4.いま一度問いたい!「平和を準備」するとは?】

人類は「永遠平和」という理念を手にして以来、それを実現するために努力と研究を重ねてきました。
ここまでの歩みを踏まえた上で、『平和を準備せよ』という方に『「平和を準備」するとは具体的に何をするのか?』いま一度問いたいですね。

例えば国際法違反の「原発攻撃」が「脅しとして有効」であるかのような発言をする政治家もいました。
現在、国際社会は「国際法に基づく国際協調」によって「平和を準備」している途中です。
その最中に国会議員が国際法を軽視するような発言をするのは、非常によろしくないと感じます。

「原発攻撃へのリスク」を語るにしても、『国際法違反の原発攻撃には断固反対』の一言を入れて、これまでの姿勢との「整合性」を取った方が良かったと思います。

また『勝てない中国との戦争(台湾有事)に絶対加わるべきでない』と語る新聞記者もいました。
これは裏を返せば『日本は同じ民主主義国である台湾を見捨てるべき』とも取れます。

現在、世界的に民主主義国が退潮し、独裁的・権威主義的な国家が増えています。
そして民主主義国の方が戦争を起こしにくいという研究成果もあります。

上記を踏まえれば、まず最初に考えるべきは『同じ民主主義国である台湾を最大限に支援しよう』だと思います。
支援の方法には軍事・非軍事の様々な方法が考えられるため、『非軍事で台湾を最大限に支援せよ』と言うこともできます。
台湾を「国」と呼ぶことに抵抗があるのなら、『台湾住人に現行レベルの自由と人権の保障を』と言うこともできます。

しかし、彼女が紹介する「軍拡より生活 !~未来の子どもたちのために平和を!」キャンペーンでは「台湾への支援」は一言も触れられていません。
あるのはひたすら「自分たちの生活」です。

もちろん誰がどのようなキャンペーンに賛同しようと自由ですが「台湾への支援」より「自分たちの生活」が最初に出てくるところに「平和を準備」との矛盾を感じます。

まあ、カントが想定したのは彼らのような「賢い人」なのかもしれませんね。
まず自分たちの「損得」を最初に考える。
カントの理論に従えば、そのような人が増えれば永遠平和に近づきます。

あるいは、マンガ「賭博黙示録カイジ」に登場した消費者金融業者の「利根川」氏のような考え方の人が増えれば、永遠平和に近づくのかもしれませんね。
戦争すれば「損」ですから、彼らは全力で戦争を回避しようとするでしょう。
ってことは、世界に「帝愛スピリット」を広げることが「平和を準備」することに繋がるかもしれませんね。
これも一つの「商業的平和論」だと思います。

【5.「継承」と「発展」は大事】

現在の「平和を準備」したい方々の声を聴いていると、これまでの「平和を準備」するための研究や努力が上手く「継承」されていないと感じます。
これまでの研究成果を踏まえると、「平和を準備」したい人が「国際法を軽視」するような発言や「民主主義国を見捨る」ような発言はできないと思うからです。

ここまで見てきたように、人類は紀元前から「戦争を防ぐ」方法を考えてきて、特にカント以降は「永遠平和」という理念を実現するための努力と研究を重ねてきました。
それらを「継承」し「発展」させるのが現代に生きる我々の役目だと考えています。

また、これまでの研究を発展させずに「アンチテーゼ」を打ち立てたい人がいても良いと思いますが、アンチテーゼを打ち立てるにしてもまず「テーゼ」を知る必要があります。
テーゼを知らずしてアンチテーゼを打ち立ても、それはきっとピントのズレたものになるでしょう。

この状況には私も反省しました。
私はどちらかというとリアリズム寄りの考えであり、リベラリズムの考え方には疎かったです。
そのため、最新の研究は追えていませんでした。

現在では、リアリズムとリベラリズムは対立する概念ではありません。
お互いを補い合い「ネオリベラル制度論」として発展しています。

私も最新の理論を勉強し、今現在人類はどのように「平和を準備」しているか、素人目線から伝えていきたいと思います。

【6.結論 「古の呪文」の呪縛を解くには】

『平和を望むならば、平和を準備した方がいい』

うん、確かにその通りだと思います。

しかし、今だに永遠平和を実現する決定的な方法は見つかっていません。
それだけに「平和を準備するための研究」を続けていく必要があります。

そして平和を準備するための研究が発展するまでは『戦への備え』は必要だと考えています。
現在は平和を準備するための研究が未発達であるため、「古の呪文」が有効な状況だと思います。

『汝平和を欲さば戦への備えをせよ』

この古の呪文の呪縛を解くためにも、現在の「平和を準備するための研究」を伝えていきたいですね。

【7.おまけ 加藤周一氏と言えばこちらも】

「九条の会」呼びかけ人の一人、加藤周一氏の名言と言えば、こちらも忘れずにいたいですね。

『目的は必ずしも手段を正当化しない』
『目的が手段として犯罪を要求するとき、その他の有効な手段を発見できなければ、目的そのものを再検討するほかに抜本的な解決を見出すことはできない』

逆に『目的は手段を正当化する』と言っていた人もいます。

レーニンと共に「ロシア革命」を主導した革命家「レフ・トロツキー」の言葉です。

でもこちらの考え方では「手段の目的化」が発生し、手段をひたすら正当化するための理屈として使われる怖れがあります。

私はやはり『目的は必ずしも手段を正当化しない』と考えます。

【8.追記 トランプ氏は「平和の使者」?】

2023年2月12日 追記
2023年2月8日に、8年8ヶ月という憲政史上最長の政権を担った安倍晋三元首相の「安倍晋三 回顧録」が発売されました。
その中に、アメリカの「トランプ前大統領」について興味深い記述がありました。

『トランプはいきなり軍事行動をするタイプだと警戒されていると思いますが実は全く逆なんです、根がビジネスマンですから』

そしてトランプ前大統領が「実は軍事行動に消極的な人物」だと北朝鮮が知ったら圧力が利かなくなるため「本性を隠しておこうと必死だった」と語っていました。

トランプ前大統領はこうも語ったそうです。

『空母1隻を移動させるのにいくらかかっているか知っているか?』
『私は気にくわない、空母は軍港に留めておいた方がいい』

「アメリカの不動産王」としても知られたトランプ前大統領は、厳しいビジネスの世界を生き抜いてきただけあって、まず最初に「損得」を考える人だったようです。

やはり最初に「損得」を考える人だと、『戦争すると損だ、戦争は回避しよう』となるようですね。
実際「トランプ氏最大のレガシーは戦争回避」と評価する人もいます。
(共和党の上院議員でトランプ氏支持の「J・D・バンス」氏)

ウォールストリートジャーナル 2023年2月1日の記事

どうも世界にトランプ氏のような人が増えた方が「戦争は減る」ようですね。
もっとも、その世界が「住みやすい」かどうかは別問題ですが・・・。