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対照的な2人の天才、「富士葵」さんと「花鋏キョウ」さんについて -「MY ONLY GRADATION」と「vivid」から-


【0.はじめに】

私は「歌うVtuber(Vsinger)」が好きで、2018年頃から注目しています。
つい先日、2023年10月9日に「好きなVtuberオリジナル曲」10選をまとめてみました。

その中の2曲の歌詞がすごく好対照だったので、その2曲を通して歌っている2人の天才Vsinger、「富士葵」さんと「花鋏キョウ」さんの違いについて語ってみたいと思います。

(注)
私は「音楽」も「心理学(精神分析)」も素人なので、的外れな考察になるかもしれません。
お二人のファンには申し訳ありませんが、私なりの「リスペクト」を込めて語らせていただきたいと思います。

【1.富士葵さんの場合】

富士葵さんは2017年12月デビュー。
Vtuberの中でもかなりの古参ですね。

コンセプトは「キミの心の応援団長」
多くの人を励まし、元気づけることを目標に、マルチに活動しています。

富士葵さんはVtuberの中で最初に「本格的な歌ってみた動画」を出し、その異次元の歌唱力で人気を得ました。

その後も、今では当たり前になった「クラウドファンディングによるモデル更改」や「メジャーレーベルからの歌手デビュー」など、数々の先駆者的な偉業を成し遂げ「Vsingerのトップランナー」となり、多くの後輩から尊敬され、目標とされています。

私が注目した曲「MY ONLY GRADATION」は、2019年11月18日にリリースされた1stメジャーアルバム「有機的パレットシンドローム」からの1曲ですね。

作詞・作曲は、あの「紅蓮華」を作曲した「草野華余子」さん。
富士葵さんも作詞に加わっています。

モチーフは「色」と「グラデーション」
なので葵さんは、最初に『手に入れろ 僕だけの色』と叫びます。
そしてサビで『喜怒哀楽もナイスグラデーション カラフルな可能性で 手に入れろ 僕だけの色』と歌っています。

この「色」とは何か?「グラデーション」とはどういう意味か?
心理学(精神分析)の見地から考察してみたいと思います。

「色」とはおそらく「心の色」のことだと思います。
「心の色」は単色ではありません、いろんな色が様々な「濃淡」で混ざり合っています。

それを「グラデーション」と表現しているのだと思います。

20世紀初頭に活躍した精神分析の祖「ジークムント・フロイト」博士によると、人間の心は3つの領域に分かれています。
それが「意識」「前意識」「無意識」ですね。
さらに人間の心には「自我」「超自我」「エス」の3つの働きがあると言っています。

人間の心には、自分(意識)が認識できない「無意識」という広大な領域が広がっていて、そこから沸き上がる「欲動」に心は突き動かされています。
その欲動にも2種類、「生の欲動(エロス)」と「死の欲動(タナトス)」があり、この2つが常にせめぎ合っています。

「超自我」は、親や先生に教え込まれた、あるいは経験によって身につけた「良識」のようなものですね。
超自我は沸き上がる欲動に動かされそうになる意識に対して、『それはしちゃダメ!こうするべきだ!』と待ったをかけます。

それに加えて「意識」の中にある「自分の考え(思想・信条)」によって心の色が決まり、自我によってそれを言動に表します。
人間は心の中で常にこのような難しい膨大な作業を行った上で、それを言動で表現しています。
そりゃ生きてるだけで疲れますよね・・・。

ここまで見てきたように、人間の心の中では「欲動」「超自我」「思想・信条」などがせめぎ合い、「葛藤」の末に混ざり合っています。
それ故、心の色は単色でなく、かつ濃淡(グラデーション)があるのです。

【2.花鋏キョウさんの場合】

花鋏キョウさんは2018年9月に「アイドルVtuber」としてデビュー。
その出で立ちは「可憐」にして「清楚」、まさに「清純派アイドル」でした。

星座の「蟹座」をモチーフとしているので、名前に「鋏」が入り、蟹座のシンボルを模したイヤリングを付けています。
星言葉は『ひたむきなる人生の主役』

性格はかなり「シャイ」で、それ故トークやSNSは苦手としています。
また『人前で怒ったことがない』と言われるほど穏やかで、後輩たちからも慕われています。

キョウさんで特筆すべきは、天才的な「美声」と「歌唱力」
落ち着いて聴きやすい「中低音」に加え、綺麗に抜ける「高音」、ファルセットと地声の切り替えもスムーズで自然。
全域に渡ってエモーショナルな美声です。

アイドルですが「可愛い系」は得意でなく、ちょっと影のあるエモーショナルな歌が得意だったので、しだいに「アーティスト」活動に軸足を移します。

私が注目した曲「vivid」は、2020年2月12日に発売された1stEP「Myosøtis」に収録されたオリジナル曲。
キョウさんのオリジナル曲の中では、珍しくアップテンポな曲です。

モチーフはこちらの曲も「心の色」、タイトルの「vivid」とは「色鮮やかな」「鮮明な」という意味ですね。
作詞・作曲はボカロPの「*Luna」さんです。

【1.】で見てきたように、心の中の様々な「葛藤」により「心の色」が決まり、それが言動に表れます。
しかしこの曲では「葛藤」や、それによって決まる「心の色」をネガティブにとらえています。

『伝えたくていつも 飾り付け捻じ曲げ例え切れなくて』
『混ざって灰色になって それくらいでちょうど良いこともあって』

「vivid」歌詞より

葛藤は必要だけど、それは不本意な事で、ある意味「つじつま合わせ」で「嘘」とも感じているようです。

『心と声を繋げるのは いつだって少しの勇気で』

「vivid」歌詞より

ここにはキョウさんの実感が表れていると感じます。
キョウさんは「学業」と「Vtuber活動」の両立に悩み、その心情を配信でファンに打ち明けたことがあります。

そのあとで『やっと言えたー』と安堵の声をあげたことを、今でも覚えています。
「アイドル花鋏キョウ」にとって、心の葛藤をファンに見せるのは勇気のいることだったのでしょう。

歌詞に度々出てくる「窓」とは、「意識」と「無意識」の境界を表していると思います。
比較的容易に出入りできる「扉」ではなく、のぞき込むことは出来るけど出入りは難しい「窓」に例えたのは秀逸ですね。

その「窓」の向こう、「無意識という暗闇の中」では、「誰か」が『大声で笑って また大声で泣いて 怒って 喜んだり』していました。

無意識という広大な空間には、人間が動物として持って生まれた「根源的な欲求」以外にも、自分が今までしてきた経験や体験、あるいは『あのときああしたかった、こうしたかった』という思いが眠っています。

歌詞にある「誰か」とは、無意識の中に封じ込めてきた「もう一人の自分」
もう一人の自分の思いが、いろんな切っ掛けで根源的な欲求と結びついて「心の声」となり、窓をノックします。

その心の声に「名前」や「色」をつける必要はない。
むしろそのままの「透明」でいい。
一番最初の「透明な心の声」こそが、一番「vivid(鮮明)」なんだ。
たまには勇気を出して、vividな心の声に従おう!

そのように歌っている曲だと私は感じます。

『その窓を開けてせーので 手をつないで飛び出してよ 透明なままでいいからさ 最初のままで さぁ』

「vivid」歌詞より

【3.結論 対照的な「2人の天才」が出した答え】

富士葵さんの「MY ONLY GRADATION」と花鋏キョウさんの「vivid」
どちらも「心の葛藤」がテーマで、それを「心を色」として表現している曲だと思います。

しかし、そのとらえ方は「対照的」です。

『心の色はいろんな色が様々な濃淡で混じり合い「何色」と一言で言えない』
『それなら、その色を「自分色」と言い切ってしまえばいい!』
『これらも、自分は何度だって失敗するだろう』
『でも失敗した時の色だって「自分色」なんだ』
『受け入れて前に進もう、何度だって自分の心のキャンパスに自分色を描こう、それこそが「成長」なんだ!』

『Drawing up & growing up 波乱万丈のコントラストも愛して 僕色を作り出そう』
『どんな僕も僕だって 抱き締めて前に進むよ 挑み続けよう 恐れず さぁBreaking out the rule』

「MY ONLY GRADATION」歌詞より

葵さんから打ち明けられた「心の葛藤」を、「成長」というキーワードで、ポジティブでシンプルなメッセージに変換した草野華余子さん。
そしてそのメッセージを凛としたパワフルな歌声で響かせた葵さん。
どちらも素晴らしい、「天才的な仕事」でした。

一方のキョウさんは、ややネガティブでわかりにくい印象ですね。

『心の葛藤も必要だってわかってる』
『でも、その結果出来た心の色は「くすんだ灰色」だ』
『自分の心の奥底には、大声で笑って、泣いて、怒って、喜んでいる「もう一人の自分」がいる』
『少しの勇気を出して、ただ愛を叫びたいだけの「心の声」に耳を傾けてみよう』
『「つじつま合わせ」や「嘘」はいらない、透明な心の声こそが、一番「vivid」なんだ』

『また嘘を描いた僕のこと あのときの声がノックする ただ愛を叫びたい誰かは 窓越しに見上げていた』
『何度見失ってしまったって そのたびに僕は歌を歌う 透明なままで良いんだと 揺らすんだ何度だって』

「vivid」歌詞より

『透明でそのままの「心の声」こそが、一番「vivid(鮮明)」なんだ』という*Lunaさんの逆説的なタイトルには唸りましたね。
そしてそのメッセージをエモーショナルな美声で響かせ、聴く者を納得させてしまうキョウさんの才能もまた「天才」だと感じました。

【4.おまけ これからも旅は続く】

富士葵さんは、2023年11月17日(金)に「活動6周年記念」のリアルライブが開催予定です。

花鋏キョウさんは、2023年9月30日(土)に2ndEP「Horologium Florae」をリリース、好評配信中です。

「2人の天才」の旅はまだまだ続くことでしょう。
その軌跡を見とどけたいですね。