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映画のヒットをアシストするマーケティングを「公式化」してみた。

こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケターの栗原健也です。

前回のnoteで頭出しをしたように、今回から映画マーケティングに共通する普遍的な要素について書いていきたいと思います。

今回は初回のため、その中でも土台になる考え方について執筆しています。

「面白い作品」だからといって届かない時代

映画が多くの人に届くことを考えた時に、最も重要となる要素はなんでしょうか?それは当然ながら「作品力」です。マーケティング以前の話ですが、それが面白い作品か、素晴らしい作品かどうか。

ただし沢山観られた映画の「作品力」は強い場合が多いのですが、その逆については必ずしも成り立ちません。すなはち「作品力」が強い作品だからといって、確実にヒットするわけではないということ。

質の高いコンテンツの飽和や大量消費時代の中、限られた可処分時間・可処分所得で、生活者に映画を選び取ってもらうのは簡単ではありません。例えそれが素晴らしい映画だったとしても。

そこで現代では、「作品力」に加え、今まで以上に「届け方」≒マーケティングが重要になってくると思うのです。

とは言いつつも、あくまで"MOVIE FIRST,MARKETING SECOND"。マーケティングが芸術である映画に先立つべきではありませんが、脇役としてヒットをアシストすることができるのが理想的です。

「意欲」がないと人は映画館にまで辿り着かない

映画のマーケティングで作るべきは、生活者の「観たい」という気持ちに他なりません。それも作品が「自分ゴト化」されるくらいの強い気持ち。

その映画が自分にとって観るべきものであると確信している、デートや家族での外出などレジャーの第一候補(「第一想起」)に入っている、その「作品」を個人的に「推し」ている…などなど、そうした強い感情を「意欲」と言います。生活者に自分の意志で映画館に来てもらう上では、この「意欲」が重要になります。

なぜならば、映画は商材の特性上、「観たい」と思ってもらっても、劇場に来てもらうために乗り越えるべきハードルが何個もあるからです。

音楽だったら「聴きたい」と思った時、SpotifyやApple Musicなどのサブスクリプション、それからYoutubeなどで検索すれば、すぐにその楽曲を聴くことができます。またTV番組でさえも、時間の指定はあるとはいえ、「観たい」と思ってもらえたら、お家で無料で鑑賞することが可能です。

映画についてはどうでしょうか。映画を劇場で観るには、家を出て映画館に駆けつけなければいけません。家から映画館が遠かったり、近隣の映画館で観たい映画がかかってないかもしれません。また映画は平均して120分くらいですから、移動も含めると、時間として3時間くらいは確保しなければいけません。予算についても、大人であれば2000円弱用意する必要がありますし、さらに一緒に行こうとした人の好みが合わない、なんて障壁もあるかもしれません。

こうした映画ならではのハードルを乗り越えるためには、単に「観たい」を超えた、作品が「自分ゴト化」された強い感情、「意欲」が必須となるのです。この「意欲」を作品力×マーケティングでどうにか作っていくのが、映画マーケティングの醍醐味です。

「意欲」は「認知」と「興味」で作る

生活者の「意欲」には、大きく分けて二つの認識が寄与すると考えられます。それが「認知」「興味」です。

①「認知」…作品を「知っている」
②「興味」…作品への「興味が湧いている」

それぞれ詳しく見ていきましょう。

「認知」はお金で買える

まず「認知」についてです。要は作品を「知っている」かどうか。

この「認知」には、作品タイトルや作品の公開情報、作品の概要(あらすじ程度)、キャストや監督情報など、映画の基本情報が含まれます。これら情報の伝播は、映画の「意欲」に影響する要素です。

この「認知」に大きく寄与するのが、広範な生活者に情報伝播ができるTVCMやOOH、YouTubeなど、マスリーチメディアです。こうしたメディアは実施にまとまった予算がかかることから、『「認知」はお金で買える』と言われることもあります。

「認知」の限界

ただし、こうした「認知施策」は、リーチを担保するため、得てして「広くあまねく」になりがちです。

現代は「情報の大爆発」とも言われ、膨大な情報を処理しきれない生活者は、インプットする情報をパーソナライズしており、自分にとって不要な情報は届かなかったり、たとえ届いたとしてもスルーされたり、忘れられたりしてしまいます。

そんな中で、「広くあまねく」な訴求では、映画の情報が不要な情報にカテゴライズされてしまう可能性が高まり、「観たい」という強い気持ちを醸成するのが難しくなっています。つまり情報大爆発を背景に、「認知」で「意欲」を作りづらいのが現代。

こうした状況下でも、短時間に何度も何度も作品との接点を作ることができたり、原作などのIPが著しく強い作品などは、「認知」によって「意欲」を作ることが比較的やりやすいといえるでしょう。

例えば4月に公開された『シン・ウルトラマン』では、多岐にわたるタイアップが実施されていました。

TVを観れば作品のCMが沢山流れており、LINEを開けば作品のニュースが配信されており、さらに飲食店に行けば作品とコラボしたメニューすら存在する…。忘れる暇がないくらい、短期間に何度も『シン・ウルトラマン』の情報をインプットさせるような設計がされていました。

さらにウルトラマンというIPは日本国民に強く根付いています。本作は結果的にヒットしましたが、畳みかけるような「認知」の掛け算で「意欲」を作っていった例といえるでしょう。

ただしこんなことができるのは、『シン・ウルトラマン』のようにIPが強かったり、予算が潤沢にあるような作品だけ。大多数の映画は「認知をお金で買えない」のです。

そんな映画たちが目指すべきは、「興味」を起点とした「意欲」醸成です。

「意欲」を上げるには「興味」から

「○○が出演してるなら観に行きたいな」、「音楽でもロックが好きだから面白そうだな」、「ハリー・ポッターシリーズの最新作らしい」…。

上記のように、作品接触時に「ふーん」で終わらせない、単なる情報伝播よりも深い感情、作品に「自分も関係ありそうだな」と思わせるのが「興味」です。

「興味」は作品に対する関心の「フック」を作るので、たとえ接触回数が少なくても「観たい」に転換されやすい、「意欲」をより作りやすいポテンシャルがあります。また「フック」があるので長期記憶に格納されやすく、他の知覚刺激があれば、作品をすぐに思い出してもらいやすい、というメリットもあります。

短期記憶と長期記憶

予算が潤沢になく、『シン・ウルトラマン』のような接触回数を担保できない映画は、「興味」から攻めるべきだと言えるでしょう。

仮に予算があまりなかったとしても、「認知」施策の代表格、TVCMを打つこと自体は限られたGRPなら可能かもしれません。ただし接触回数を担保できない場合、それは「広くあまねく」ならず、「狭くあまねく」になってしまうリスクを孕みます。

だとすると、限られた予算で何をすべきなのか。それは訴求を考えるうえでも出稿メディアを検討するうえでも、ターゲットを絞って「狭く深く」「興味」を醸成していくことです。

この「興味」は、「認知」と違って「お金で買えない」ので、ターゲット選定と企画が何よりも重要になります。

「興味」を引き上げるための具体については別の記事でまとめたいと思いますが、現代のマーケティング環境では、大多数の映画は、「認知」<「興味」をベースに、マーケティング施策を組み立てるべきです。

まとめ

ここまでの話をまとめたのが下記のスライドです。

「認知」×「興味」(×「作品力」)⇒「意欲」

・映画のヒットを左右する最も大きな要素は、その映画の「作品力」
・「作品力」×マーケティングで「意欲」を作る
・「意欲」は「認知」と「興味」で作る。
・「認知」を起点に「意欲」を作るのはハードルが高くなっており、予算がある作品にしかできない
・そのため大多数の作品は「興味」を攻めるべき

「認知」も「興味」も「意欲」を作る上では、どちらもあることに越したことはありません。それは大前提なのですが、現代のマーケティングにおけるプライオリティとしては、「興味」がより重要になってくるのでは、というお話でした。

現場の方からすると「認知」施策を絞るという判断はなかなかハードルが高いかと思いますが、それで「意欲」は作れそうか(リーチとフリークエンシーは十分か)、という観点で改めて検討してみていただけると、何か示唆があるかもしれません。

今回は映画マーケティングの根本となる考え方をまとめてみました。前述した通り、「興味」を引き上げる具体的な方法については、また次回執筆していきたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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