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自分の評価を他人に委ねてはいけない――『美容は自尊心の筋トレ』

 ここ1年くらい、「自己肯定感」をテーマにした本が増えている。なかにはベストセラーになっているものもあって、それだけ「自己肯定感が低い」と思っている人が多いことのあらわれなのかもしれない。

 私は自己肯定感を、「自分で自分に『いいね!』を出せること」と解釈しているのだけれど、この本は美容を切り口に自己肯定感に迫っている。

美容業界にいるからこそわかった凹まない心の持ち方

 著者の職業は美容ライター。ヘアメイクアップアーティストや美容家といった美のエキスパートのほかに、女優やモデルといった「スーパーサイヤ人級美女」がうようよしている世界がおもな活動フィールドだ。

 普通なら、圧倒的な美を前に「私なんて」と凹んでしまうかもしれない。しかしそうならないのは「私は私でいい」という自尊心を著者が鍛えているからに他ならない。

 そもそも、美しさの基準って何なの? と問うところから、この本は始まる。

人の数だけ、美しさがある

 女性にとって美容とは何か。若い女優も年を取れば「劣化」と言われ、ちょっとメイクやファッションを張り切りすぎると「痛い」と叩かれる。

 でも、美容は他人ではなく自分のためにあるものだよ。そして「美容は自尊心の筋トレになるんだよ」

 というのが著者の主張だ。

 自分だけの美しさを、自分のために追求していく。モテるため、若く見せるためではなく、自分が好きだからそうする。それでいいじゃない! と、手を変え品を変え、著者は私たちの前にさまざまな例を挙げていく。

 読み進めていくうちに、いかに女性である自分たちも、偏った美の価値観にとらわれていたかに気づく。

 例えば、2018年に開催されたファッションショー。

 アメリカの下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」のショーでは、人種や肌の色といった多様性を意識しつつもバービー体型のモデルが中心になっていた。

 一方、歌手のリアーナが手掛ける下着ブランド「サヴェージ×フェンチィ」では、人種、肌の色だけでなく、ボディタイプや年齢もさまざまなモデルが登場。このリアーナのブランドは、後にLVMHグループからファッションブランドとして立ち上げることが決まったという。

 もう、ステレオタイプの美しさなんて存在しない。人の数だけ、美しさがあるのだ。

美容が前を向く力になる

 美容はまた、落ちた自分をちょっと元気にしてくれるカンフル剤みたいな効果もある。

 私は去年の12月、肺気胸の治療のため、右脇の下を3箇所、数センチ切っておこなう胸腔鏡手術を受けた。その術後に悩まされたのが、腕の動きが制限されることだった。

 何しろ腕が上がらない。髪の毛を後ろで束ねる動作がつらい。顔を洗うのも一苦労。歯磨きをするときは、手をもう片方の手で支えた。

 入院中はもちろんノーメイクだったが、いざ退院という朝、久しぶりにメイクをした。ぎこちない動きで、いつもよりは下手なメイク。それでも「私は外に出るんだ!」と、背筋がしゃんと伸びた気がした。

 家から出ない週末が続く。肌を休めるためにはメイクしないのももちろんありだけれども、気分を上げるために、いつもとは違うメイクをしてみるのもいいかもしれない。


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