ホロライブGTAにおける戌神ころねの物語展開力
■ はじめに
なんだか論文みたいなものものしいタイトルですが、本稿はそんなに堅苦しいものではなく「こないだのホロライブGTA面白かったね~」という気持を共有したいがためのざっくばらんな内容となっております。
ちなみにホロライブGTAとは……
さまざまな人間ドラマが繰り広げられたので正直どこから手を付ければいいのやらという感じですが、やはり特筆すべきは「パン屋ファミリー」でしょうか。
その中心で、戌神ころねさんは台風の目とでも言うべき活躍を見せていました。
■ 実写版「犬も歩けば棒に当たる」
特に台本やプロットが無い状態でスタートしたホロライブGTA。
最初は「GTAの世界に戌神ころね本人がやってきたよ~」といった印象でしたが、いつの間にか気付けばころさんは「家族想いではあるが、浮気性の一面もある昭和気質のパン屋のダメ親父」をロールプレイしていました。
彼のその波乱に満ちた生きざまは、まさに「犬も歩けば棒に当たる」の実写版でした。
通行人がいたらとりあえず殴る。
「安全運転でいくよ~」と宣言したそばからバイクで事故る。
いい女がいたらとりあえずちょっかいをかける。
妻(大神ミオ)がいたら「愛してるよ」と囁く。
グレネードを手にすれば暴発させる。
これらの行動は全て「犬も歩けば棒に当たる」の基本原理に即して発動されたものであり、一つの物事に対して必ず絶対にアクションを起こすという姿勢が「パン屋ファミリー」の物語をどんどん転がす起爆剤となったのは間違いないでしょう。
ころさんはいつも通常配信において、終わりに「エンディング・メイキング・タイム」(通称“EMT”)という当日の配信内容を反映させた即興劇のコーナーをほぼ毎回設けているのですが、ホロライブGTAにおけるパン屋のダメ親父ロールプレイは、日々のEMTで鍛えられたアドリブ展開力の総決算であると言っても決して過言ではありません。
■「パパはこの世界に恨まれている!」
それにしても、パン屋のパパにとってこの七日間は受難の連続でした。
劇中で「パパはこの世界に恨まれている!」と絶叫したことがありましたが、その一言に全ての想いが凝縮されているような気がします。
とにかく何故か周囲はパン屋夫婦の仲を引き裂こうとします。
パパは確かに浮気っぽいかもしれませんが、せいぜい「ちょっかい」程度の他愛のないお遊びが関の山で、レベルとしてはかわいいものです。
しかしそれらの行いはただちに「浮気」「大悪」として断罪され、運命のイタズラ(操作ミス等)も相俟ってあれよあれよとパン屋ファミリーは破局に向かって突き進みます。
■「狂気の博覧会」と化した結婚式
運命の最終日。
大勢の参列客が駆け付けた、パン屋夫婦が新たなスタートを切るための「結婚式」。
本来なら神聖に執り行われるべき式は、「狂気」の博覧会といった様相を呈しました。
パン屋ママとの失恋により狂気に陥ったキツネの医院長(白上フブキ)の堂に入ったヴィランっぷりがまず良かった(両手を広げる仕草が印象的)。
彼がナイフを取り出し「さぁこれから」というときに「パパとママの邪魔をしないで!」とばかりにパン屋の娘(天音かなた)がヘッドショットで医院長を仕留めます。
これは狂気というより家族を想うゆえの決死の行動でしたが、直後の娘のセリフ「さぁ…、(結婚式の)続きをしましょう! 続きをしゅる!!」の言い回しは明らかに「狂気」そのものでした。
そして教会に充満する「狂気」に突き動かされたのか、何故か説教台に粘着爆弾を仕掛けるポルカ記者。
「市民よ立ち上がれ!」と扇動する側が、よりによって市民たちを爆破してどうする。
そして爆心地に自らおもむき爆風に巻き込まれるという一連の謎行動は、「狂気」の一言で説明が付きます。
不意の爆発により花嫁のママも瀕死の重体に追い込まれました。
爆弾付近にいたにもかかわらず何故か唯一無傷のパパはすぐさまママに駆け寄りますが、命の心配をするのではなく、はだけたウエディングドレスからまろび出たミオママの足元に注目し「待ってママ…! そんな(ハートマークの)タイツ穿いてたのかい…!?」とあくまでもエロい本分をまっとうしようとするその不埒な視線は、パパが元々抱えていた「狂気」の賜物なのでしょうか。
しかし直後のパパの「助けてください! 助けてください!」は『世界の中心で、愛をさけぶ』の代名詞とでも言うべきセリフそのものであり、「極限状況における愛」に接近した者はみんな「助けてください!」と叫ぶんだなぁ……としみじみした気持になりました。
他には、医院長登場から爆弾爆発までの大混乱・阿鼻叫喚に対して動じることなく、定点カメラのように参列席から事態のすべてを見守ったルーナ姫には静的な「狂気」を感じました(どうやらイスから立つボタンが分からなかったらしい)。
そしてすべての祭りが終わり、参列席でポツンと棒立ちしている誰かを見つけるパン屋ファミリー。
「アイスクリームいかがですか?」
その正体は、惨劇のあとにもかかわらずパン屋ファミリーにアイスを売りつけるために居残っていたセシリアでした。なにげにこれが一番の「狂気」のような気がします。
■ 終盤の“一家団欒”
ドタバタの印象が強いパン屋ファミリーですが、「家族三人だけの結婚式」と「終盤の“一家団欒”」にはしんみりさせられました。
後者については、ブラックマーケットの屋上でパパがグレネードを誤爆させてしまい、家族を巻き込んで全員死亡。不幸な事故ではありましたが、それでも不幸中の幸いというか、ゲームの世界ゆえ死んだ状態でも会話が可能なため、結果的に家族水入らずの大切な時間となりました。
強制的に活動が止まっているからこそ、今までの激動の日々をゆっくり振り返る三人。
その後なんやかんやあってパン屋夫婦は離婚してしまうのですが、実質的にはこのシーンこそがパン屋ファミリーの真のエンディングであったと私は確信しています。
■「パパは医者を辞める。」
しかし本当に何故、パン屋ファミリーは最終的に一家離散の道を辿ってしまったのか。
映画好きのころさんはバッドエンドの作品をこよなく愛していますが、彼女のそのバッドエンド志向が今回の結末を引き寄せたのでしょうか。
他に思い当たる理由としては、ミオしゃとかなたんが家族のメンバーだったということです。
「一家離散」「大神ミオ」「天音かなた」と聞いて何かピンとくるようでしたら、アナタも相当ホロライブをお好きなようですな。
さて、それは一体どういうことか。
2022年のお正月、さくらみこ&戌神ころねダブルMCの24時間耐久番組『みっころね24』が配信されたのですが、そこで「笑ってはいけない ホロライブ アドリブ劇場」という(地獄の)名企画が行われました。
その名の通り、とある決められたテーマで即興でアドリブ劇をやらないといけないという、なかなかにカロリーの高い企画です。
生け贄演じ手は大神ミオ、天音かなた、常闇トワ、姫森ルーナ。
劇のお題はそのものズバリ「家庭崩壊の日」。
そのシチュエーションにおいてミオしゃは「こまっしゃくれた娘」、かなたんは「小生意気な息子」を演じました。
この劇は結局、狂気に陥ったパパ(常闇トワ)が「医者を辞めてYouTuber(パパキン)になりたい」と言い出し、それをきっかけに家族同士が揉めて一家がバラバラになってしまうというドラマになりました。
奇しくも、エキセントリックな言動を取る「パパ」のせいで家庭が崩壊に追い込まれるという筋書きは、このたびのパン屋ファミリー崩壊の構図と酷似しています。もしかするとロールプレイをするときのミオしゃ・かなたんには、「家庭の危機」を引き寄せる何らかの因子が備わっているのでは……と私は邪推します。
ヤバいパパ、ミオしゃ、かなたんというメンツが揃った時点で、今回の「家庭崩壊エンド」という結末は、2年前からすでに予見されていたのかもしれません。
ちなみにアドリブ劇場のこの回はあまりにも名作であるせいか、手描き切り抜きアニメが2作も制作されています。
どちらも非常に面白いので、作中の表現・演出を見比べてみるのも一興かと思います。
■ パン屋の親父がクズムーブを連発した理由
ホロライブGTA最終回の翌日、早速ころさんはGTA企画を振り返る雑談配信をしました。
そこでの「DVも不倫もキッカケは誤解なのにその後しっかりクズムーブしてて笑った」というコメントに対し、ころさんは「いや、悩んだすごい。すごい悩んだの。」と切り出し、女性関係であらぬ誤解を受けてしまったときのパパが、更にクズムーブで振り切るに至った理由を話し始めました。
確かにパパは日頃の行いが悪く、周囲から信用を得にくいロール(役柄)でした。
しかしGTAは究極的に言えば「人を殴ってもよい」ゲームなので、あくまでもその「日頃の行い」は、配信をもっと楽しい方向に向かわせるための「エンタメ」の精神から発露された行動です。
実際そんなに悪い行動をしていないときも、肝心なときに限って誤解を受けやすかったパパ。
それを見て「ころさんは誤解だと言ってるのに…」と心を痛める視聴者(杞憂民)を生み出さないよう、ネガティブな要素が発生する余地が無いくらいにフルスイングした結果、それがパパの一連のクズムーブ連発につながったようです。
パン屋ファミリーは結局「パパが、娘と同い年のキャバ嬢(AZKi)と再婚する(しかもそのキャバ嬢は過去に娘を射殺している)」という壮絶なエンディングを迎えましたが、これは希代のトリックスター・戌神ころねにしか到達し得ない、エンタメにおける究極の高みと言えるでしょう。
■ みんな素晴らしかった
わたくし自身がころねすきーということもあり、本稿はころさん中心の内容とはなりましたが、実際どのホロメンもみんな素晴らしいロールプレイでした。
パン屋でいうと、何と言っても配偶者のミオしゃ。
パパの行動パターンがアメリカのドライなスラップスティック風味だとしたら、「次は一体どうなっちゃうんだ!?」と怒涛の展開から目が離せない、東海テレビも真っ青な味付け濃いめの昼ドラ風ドロドロ物語を引き寄せたのは、ミオママの「魔性の女」っぷりがピカイチだったからです。
娘役のかなたんも、まるで呼吸をするかのような自然さで大ボケを連発するパパに毎回的確なツッコミを入れ、パン屋ファミリー快進撃の推進力を担ったのは間違いありません。
今までころさんとは数回程度しかコラボをしていないようですが、ボケ・ツッコミのゴールデンコンビのやり取りをもっと見たいと思いました。
■「ホロスサントス・ロス」を克服する唯一の方法
さて、狂乱の日々は一旦終わりを迎えました。
祭りのあとはいつだって寂しいものです。
必ずや「ホロスサントス・ロス」を迎えているであろう皆さんに、ホロライブGTA最終日、ブラックマーケットの屋上で交わされたパン屋親子のやり取りを紹介して本稿を閉じたいと思います。
そう。
ロスでぽっかり空いた心の穴には、パンを詰めればいいのです。
〈参考〉
ファミ通.com ― 【ホロライブGTA】本日(9/17)19時よりスタート。ルールや参加表明したホロライブメンバーの役職一覧【ホロGTA】
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