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キクノスケが飛んでいってしまった日のこと 2

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飛んでいったキクノスケが見えなくなったあたり、秋葉原駅の昭和通り口の近くの和泉橋の上に来て僕は呆然としました。


あ、見つかるわけないわこれ。


東京のど真ん中、オタクの聖地、10階より低い建物を見つけるのが難しいビル群、朝7時前なのに動き続ける人、車、電車とその音。

キクノスケがいる可能性のある場所があまりにも多すぎて広すぎる。

この中から30cmばかりの灰色のインスタ映えしないよくハトと間違えられる鳥を一人で見つけるなんてどう考えても…無理。

僕はキクノスケとの別れを覚悟しました。


さっきのが僕らの最後か


仕事の時間までは探してみて、だめだったら仕事に行こう。

仕事が終わったらまた探そう。

こういうとき誠実な飼い主ならば会社を休んで力果てるまでいなくなったペットを捜索するのでしょうが、この秋葉原の光景は、これまでの僕とキクノスケの地球上のなによりも固いはずだった絆をポキと折るには十分すぎました。

しかもこんな事態になってさえ、その日の仕事を休むということに僕の中では抵抗がありました。

つくづく社会人としては社畜、飼い主としては鬼畜です。(体型は家畜)

なんの手がかりもないので、とりあえずハトがいるところを中心に1 時間くらい探しましたが、もちろん見つかりませんでした。

鳥が飛び立つのが視界に入るたびキクノスケかと見るのですが、何度みてもやっぱりハトかカラスでした。

それからキクノスケが飛んで行った方向の先にある、万世橋警察署に行って、届出をだすことにしました。

行くとペットは遺失物(落とし物)扱いらしく、落とし物用の記入用紙にキクノスケの特徴といなくなってしまった経緯を書きました。

窓口の方にキクノスケの写真を見せたところ

「ああ、立派なオウムだねーこりゃ」

と言われました。

キクノスケはヨウムでオウムではなくインコなのですが、この際どうでもいいことなのでオウムということにして届け出ました。

見つかったら連絡しますと言われましたが、たぶん見つからないんだろうなと思いながら家に帰ってきました。

今この瞬間もキクノスケは無事に生きていてくれてるだろうか。

生きていたとしてもどれだけ不安な気持ちでいるだろうか。

3食リンゴ付きの毎日で野生の掟も交通ルールも知らない平和ボケの権化が、欲望渦巻く秋葉原でどれだけの時間生きていけるだろうか。

こんな飼い主でほんとにごめん、キクノスケ。

ネットでペットがいなくなってしまったときの対処法を調べたところ、ペットの鳥がいなくなったときに投稿する迷子鳥の掲示板があったので、キクノスケの情報を載せさせてもらうことにしました。

警察署で届け出たように、見た目、足につけた個体識別のリング、いなくなった場所、飛んでいった方向、よく喋る言葉などなどの特徴をキクノスケの写真と一緒に投稿しました。

投稿したらすぐにコメントが1件つきました。

リングNo.を書き込まれていますが、飼い主様と繋がる唯一の確証なので、なりすまし防止の為に削除された方が良いかと思います。

リングNo.は削除しました。

キクノスケのいなくなった部屋のテーブルの上には、届いたばかりのサイテス(ワシントン条約)の登録票がありました。

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ヨウムはペットとして実はけっこう人気らしく、その反面残念なことに、生息地のアフリカでは野生のヨウムの密猟が深刻化しているそうです。

そうした野生のヨウムの危機を受けて2017年1月に国際会議でヨウムはワシントン条約付属書Ⅰ類種(サイテスⅠ)というのになりました。

これによって野生のヨウムの国際取引は全面禁止になって、すでにヨウムを飼っている人は届け出をださないと、飼い主になにかあったときに飼っているヨウムを他の人に預けたりに譲ったりできなくなりました。

僕はキクノスケを他の人に預ける気も譲る気もありませんし、デブで家系ラーメンが大好きだけど当分脳梗塞にはならなさそうでしたが、それでもやっぱりもしもは人生につきものなのでと、とりあえず届出を出すことにしました。

まさか登録票が届いた2,3日後にいなくなってしまうなんて、届出した自然環境保護センターにはなんて言えばいいんだろうか、、と思いながら出社する時間になってしまったので会社に向かいました。


会社に着いて午前中いっぱい仕事をしてお昼が近くなると、朝からずっと動転していた僕の頭は少し冷静になってきました。

キクノスケがすぐには見つからないにしても、張り紙だったり、ペット探偵の人に頼んでみたりとまだ僕には(元)飼い主としてやるべきことがたくさんあることに気づきました。

よし、死ぬ気で全力で仕事を終わらせよう、終わらせて張り紙を作って秋葉原中に貼ろう、テレビで見たペット探偵って人にも頼んでみよう。

そのときスマホにメールが一通届きました。

キクノスケの情報を載せさせてもらった迷子鳥の掲示板へのコメントでした。

上野警察署にヨウムらしきグレイの子が保護されてるといま電話がありました、うちの子ではないのでこの子だと思います!上野警察署に飼い主さん連絡してください




え?



僕「すみません、今日の朝に私の家からヨウムという灰色のハトくらいの大きさのインコが逃げてしまい、そちらにそれらしい鳥が保護されたらしいという情報を頂きまして連絡させて頂いたのですが」

警「…はい、確認するのでお待ち下さい…(1,2分)…はい、それらしい鳥が保護されているのですが、なにか特徴があるか言って頂けますか?」

僕「はい、全身灰色で尻尾だけ赤いです。あと右足に銀色の足輪がついています」

警「その足輪になにか特徴はありますか?」

僕「はい、足輪には番号があって、その番号は、A、○、○、○、○、○です」

警「……(足輪の番号を確認してくれていると思われる)…はい、ありがとうございます…おそらくこちらにいるのがいなくなってしまった鳥さんかと思われます。確認に来て頂きたいのですがいつくらいがお時間宜しいですか?」

僕「これから行きます」

というわけで僕は社会人になって7年目にして、初めて午後半休というものを取得させていただくことになり、脱社畜への一歩を踏み出したのでした。

3に続く

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