1004|八方

少しものごとが動きはじめたと感じた日、ちょうど祖母の具合がわるくなったと連絡があった。翌日から一泊二日で短い帰省。

朝、岐阜の友人から喫茶店モーニングの写真が送られてきたのにも影響されてか、外でモーニング食べたいと散歩がてら外へ出る。最初に考えていたファミレスは閉店していたので、さてどうしようかと駅まで歩く。駅前にはチェーンのコーヒーショップがある。

歩いていると、一年くらい前にできた個人の喫茶店の店先に「モーニング」の看板が出ていて、初めて入ってみることにした。自家焙煎のお店。ブレンドとトーストのモーニングを頼む。お店は朝の時間帯だからか、マスターがひとり。最初にコーヒーが出てきて、そのあとにトーストのプレート。テーブルに置いて離れるときに「今日はいい天気になりそうですね」と声をかけてくれた。

「ねぇ、ほんと」それからどういう話の展開になったか忘れた。わたしは祖母の具合がわるくてこっちに来ているが普段は長野に住んでいると話した。

「長野なんですかぁ。八方!昔、よく滑りにいきましたよ〜」え〜なんと!長野といって、八方(尾根スキー場)がすぐに出てくるとはよっぽどスキー好きだったんだろうなぁ。それからしばらく、二人目のお客さんが入ってくるまで白馬の話で盛り上がった。

マスターは以前は大手チェーンに勤めていたが、お客様とより近いコミュニケーションをしたいと自分で開業するに至ったそうだ。「今回の春からの状況でも意外と、ご近所のお客さんが多いので豆を買っておうちで飲まれるとか多くて〜。そんなには悪くはないんですよ、自分でも意外なんですけどね…」

それはそうだろう。一度お店に入って、お客さんとのやりとりを大事にしたいと店を開いたマスターに出会ってリピーターになるひとはいるはず。なんとなくモーニングが食べたくなって、なんとなく駅に向かう途中に気になったこのお店に入ってよかった。これから祖母のことで帰省する機会にはまた寄ってみようとおもった。朝から勘が冴えてた!

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10月に入って、スキー場上部では紅葉がはじまってきている。他の日は予定があるから山に行くなら今日。ふと、喫茶店のマスターとのやりとりから、八方のことを思い出した。朝のうちはよかったけれどだんだん昼に近づくに連れてガスがかかって山並みはよく見えなくなってきている。それでも今は億劫がらずに、行きたいという気持ちを大事にしようと家を出たのは13時を過ぎていた。

リフト乗り場に14時着。「お客さんには往復3時間って伝えてるの〜」とリフト券売り場の女性。「うん、知ってます。でもそんなにかからないけど、まぁ片道券買います」「そうね、間に合わないといけないからね。これからリフト2本乗ったら終点に14時半くらいね」

2本目のリフトを降りてトイレに寄って時計を見たら14時20分。過去の記憶ではそこから早歩き、プッシュして登り一時間ほどと思っていた。久しぶりの登りに最初の一瞬息が上がるがそのうち調子よく歩きつづける、ガスがひどく下界の展望、山もほとんど見えない。

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気づくと目的地の八方池を見下ろす場所に着いていた。時計は14時50分。え〜30分?しかも全然しんどくない。視界は相変わらずよくないので、石にこしかけて目を閉じ、少しだけ瞑想をはじめた。そのうち「あー街が見えてきたよ〜」との声が聞こえてきた。座って目を閉じていたのは5分かそれよりも短いか。目を開けると、ガスが少し切れはじめている。誰かが言ったように池と反対側を見下ろすと下界の景色、街の様子が見えて、足元の斜面の紅葉がきれい。黄・オレンジ・赤に緑の色合いが点描のように混ざり、樺の木の白い幹がアクセントになる。わぁ〜としばらく見つめていた。池の背後にそびえる白馬三山の全容は見えないけれど、稜線と山肌は一部見えてきた。


ガスの流れと移り変わる景色を眺めながら池の周りを歩いた。そして気がついた。起きている状況に何を見るか、見えるかは自分で選べる、ってこと。ガスって視界がわるくてサイテーなのか、ガスの切れ間に見えた風景をサイコーだと感じさせてくれる展開だったととらえるか。

時間だって、からだの疲労度だって実は自分次第、勝手に決めてつくっているのかもしれない。すっごく時間がかかって大変な面倒な行程、と設定していたらそうなるのだろう。時間はそんなにかからない、と楽しんでいたら、あっという間に目的地に着けてしまう。視点の変換。

じっと家にいてあれこれ考えはじめたところでなにもひらめかない、動かない。わかっているけど繰り返しがちな、わたしのわるいパターン。それよりも気持ちに素直に、少し外に出て体を動かして出会うもの。気分が変わったところで再度、内を見つめたときにみえてくるもの。そんなものを大事にしていこう。マスターからの八方への導きと気づき、ありがとう。そして出てきたアイディアを行動したわたし。その調子!

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*今日はスマホ持っていくの忘れたためすべて2012年、たぶん紅葉の当たり年の写真。このときは10月22日ですが今年はそれより早いかも?&色よくないかも。ま、それも自分がどう見るか、とらえるか次第。

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