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ずっと思春期でいたいヒトたち=世界に違和感を感じる人が、世界をカッコよく承認する方法。

「君と世界の戦いでは、世界に支援せよ」加藤典洋 1988年 筑摩書房

 加藤典洋は「敗戦後論」で有名になった文芸評論家です。

 この本は村上春樹や安部公房、フローベールを採り上げて、文芸評論のテイストのまま社会批評に挑んだ意欲作。「敗戦後論」はこの勢いを駆って生まれたと言っても過言ではありません。

 社会に出てまだ間がない頃にむさぼるように読んだこの本。
 「君と世界の戦いでは世界に支援せよ」はカフカの詩集のなかの言葉。
    僕なりに今感じるのは、世界に違和感を感じる人向けに、世界をカッコよく承認するための方法を書こうとしたのだということ。
     つまり、立ち向かえない相手世界をどう冷静に受け止めるかということでしょうか。
 
 この本でいうところの「世界に違和感を感じる人」って誰かというと、団塊の世代なのです。つまり、加藤典洋自身。

 戦後、人類社会の理想を掲げた日本ですが、実際にはそうではないという矛盾の中で、生き方に悩んだ(「挫折」というやつ)団塊の世代に向けて、自分ではなく世界に入ってゆけ、でもそれは、そもそも自分を手放すことではないから安心せよ、ということを村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」などを持ち出して、非常に気取った文体で語っていくのです。

 今読むと、いっぱしにものを考えている自分という自意識を刺激しながら、なにもしない、つまり、敗北主義でいいじゃないか。そう慰撫されているように思えて、ははあ、村上春樹はじめ団塊の世代って、ずっと思春期でいたいヒトたちなんだなあ、と恥もなく毒を吐いてしまいそうになる。

 FIREを信奉する今どきのプラグマティックな30代インフルエンサーの感性からみれば、世界に入ってゆけって、「あたりまえやろ」と、一蹴されそうだけれど。


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