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【書評】こんなんいかが?

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忘れた頃になんども読み返す愛すべき紙の束。カバーについた手指の脂、紙の匂いと手触り。それはともに過ごした時間の記憶。本はもはや生きもの。
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#川端康成

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「装いせよ。我が魂よ」果敢にしてオトコマエな小川洋子と山田詠美。魂が美しくあるには、装いこそ必要。

「文学は懐が深い。テーマにならないものはない」
 作家の小川洋子さんはそう言い切る。それでも自身、苦手な分野があるといいます。
 それが「性・官能」をモチーフとする分野。
 
 なるほど、上品なイメージがある彼女の作品。でもそれとは裏腹に、弟の肉体を密かに慕う姉だったり、妊娠した姉に殺意を抱く妹だったりと、書くテーマは禁断領域に軽々と踏み込んでいます。
 透明感をまとった穏やかな言葉遣いに身を任せ

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川端康成「眠れる美女」  現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

川端康成「眠れる美女」 現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

もうこの世にない人がいいのです

なぜなら
誰をも裏切らないから
誰のものでもないから
決して手にすることはないから
ずっと美しいままだから

うつつのものでなければ
手に入れようともがくこともないし
成就のむなしさを予感することもないし
裏切って苦しめることもないし
知りたくないことを知って憎むこともありません

『眠れる美女』 川端康成/新潮文庫

うつつの切り裂き魔・カワバタが見せる地獄の所

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「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」 川端文学のパワフル&誠実なるも危うい美。

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」 川端文学のパワフル&誠実なるも危うい美。

 小説の冒頭、さらには最初の一行というのは、いわば物語の顔。
 これが印象的だと、物語の世界に一瞬で入り込めます。
最も有名なのが川端康成の『雪国』だけど、これに限らず川端はとくに短編における冒頭がすこぶるパワフルなのです。
 たとえば、『片腕』の冒頭。

 ありえないことをありえない世界の中で描くと、ファンタジーが予定調和の域を出ない。
 そうではなく、このように不条理を強引にして繊細に

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