アラン・パーソンズ・プロジェクトの魅力

The Alan Parsons Projectというアーティストをご存知でしょうか。
1975年から1990年まで活動したイギリスのプログレッシブ・ロックユニットで、私の最も好きなアーティストの一つです。
(以下、APPと略します)

ここが凄い

プログレッシブ・ロックは曲単体よりアルバムを重視、歌詞やコンセプトが難解、曲が長い、インストが多いなど、ロックを下地に音で芸術作品に挑戦するという変わったジャンルです。
好きな時に好きな曲をストリーミングで聴くことの多い現代リスナーには敬遠されやすい特徴を持ったジャンルといえます。
APPはプログレというアイデンティティを保ちながらもポップで聴きやすい曲は勿論、ノリノリのロックンロールからムード音楽っぽい曲までバラエティに富む作品を楽しむことができます。
「プロジェクト」の名前通り厳密にはバンドではなく、楽曲制作ユニットという言葉が相応しいかもしれないですね。
全くライブを行わずレコードの売り上げのみで成功を収めたのも彼らの実力の何よりの証明です。
後述しますがメロディは日本人に馴染みやすいと思うので一人にでも多く聴いてもらえると良いのですが…

メンバー

厳密なメンバーは音作りのアランと曲作りのエリックだけ。バンドではなくプロジェクトなのでメンバーという定義は曖昧。

Alan Parsons: プログレの大家Pink Floydの代表作『狂気』のサウンド・エンジニアとして知られる、所謂音作りのプロ。彼の知名度が一番高かったため当然ながらユニットには彼の名前がついた。楽器も歌もできるがAPP時代はあまり披露しなかった。

Eric Woolfson: アイデア、作詞作曲は基本的にこの人(Alan談)。元々作曲家兼ピアニストで『ライオン・キング』のTim Riceや『オペラ座の怪人』『キャッツ』のAndrew Lloyd Weberと親交があった。クラシックの影響が色濃いミュージカルっぽいメロディが特徴。制作者として裏方に徹していたが、後に一部の曲でボーカルを担当。そちらのプロではないため歌唱力は高くないが、一度聴けば忘れない味のある歌声は多くのファンを魅了し解散までAPPの人気を牽引した。

続いては実質準メンバー。スタジオミュージシャンのためテクは折り紙付き。

Ian Bairnson: ギター。アコギでもエレキでもサウンドを支えた。

David Paton: ベース。彼のベースパートの安定感も欠かせない。

Stuart Tosh: 1977年までのドラム。参加期間は短いが、ここまでの3人はAlanもプロデュースを手がけたバンドPilotから実質続投のため記載。

Stuart Elliott: 1977年以降のドラム。Ianと共に解散後のAlanの作品にも参加。

最後にEric以外の代表的なボーカリスト。こちらも実力者ばかり。
曲に合わせてボーカリストを選んでいるのもAPPの面白いところ。

Colin Blunstone: 60年代に活躍したThe Zombiesのボーカリスト。
John Miles: 70年代を中心に成功を収めた。パワフルかつ引き出しが多い。
Chris Rainbow: 芸名の通り虹のような美声。リードはもちろんバックコーラスは見事。
Lenny Zakatek: Gonzalezのボーカリスト。ソウルフルな歌声が魅力的。

作品

代表曲はどれ?と摘まみ食いにせず、プログレの鉄則としてまず最初はアルバムを通しで聴くことをオススメします。

Tales of Mystery and Imagination『怪奇と幻想の物語 - エドガー・アラン・ポーの世界』(1975年)
デビュー作。アメリカを代表する詩人・小説家のEdgar Allan Poeの怪奇系の作品を中心に取り上げた。ポーの作品で音楽を作りたいEricのアイデアにAlanが協力をしたことでプロジェクトは始動した。後の作品のポップ要素は皆無で、プログレやポーの好きな人には楽しめるがライトリスナーには少しハードルが高い。

I Robot (1977年)
2枚目はSFの巨匠Isaac Asimovの『ロボット』シリーズをテーマに制作し、早速大成功。ファンキーなヒットシングルI Wouldn't Want to Be Like Youを筆頭にロック調、バラード調、インストなど、プログレながらも多岐に渡る楽曲を収録するというテンプレは今作で概ね構築された。

Pyramid (1978年)
当時のピラミッドブームにあやかった作品。前作のフォーマットを踏襲し、緩急のメリハリをつけて聴きやすくしている。

Eve 『イヴの肖像』(1979年)
今度は女性がテーマで、2曲でゲストボーカルに女性を起用するという気合いの入れっぷり。アルバムチャートでの成績も向上したが、シングルで最も成功したのがインストLuciferというのもプログレバンドっぽい。

The Sicilian Defence (1979年録音、2014年発表)
当時はボツになった完全インストアルバム。チェスがモチーフ。2014年にボックスセットの一部として日の目を見た。インスト好きなプログレファンは喜ぶかもしれないがボツになったでけあって完全にマニア向け作品。

The Turn of a Friendly Card 『運命の切り札』(1980年)
どのアーティストにもある転換点となった作品で、ギャンブルとその危険性がテーマ。エリックがTimeでリードボーカルに初挑戦し注目される。ニューウェイブなGames People Playがチャートで成功する一方でB面のほとんどを組曲『運命の切り札』に割いておりプログレの魂も忘れていない。こちらが最高傑作というファンも少なくない。

Eye in the Sky (1982年)
Philip K. Dickの作品にありそうな管理社会にインスパイアされたと思われるが、次作以降はポップ化が進みコンセプト感は緩くなっていく。チャート成績では絶頂期。Ericの歌うタイトル曲は特にメロディが素晴らしく、全米3位に輝きグループの代表曲となった。他の曲もなかなかにキャラが立っており、APPが好きでなくとも一聴の価値あり。

Ammonia Avenue (1983年)
見渡す限り人工的な空間の広がるアンモニア工場を訪れたEricがお互いにわかり合えない科学者と一般人の立場をテーマにした。音楽性は前作を明らかに意識しておりヒットシングルのDon't Answer Me、極上のバラードのタイトル曲(共にEric歌唱)を筆頭にクオリティは高い。

Vulture Culture (1984年)
ハゲタカ文化がテーマ。A面は80年代ポップ、B面は過去の作品っぽいプログレ路線と徹底的にリスナーを意識。変わらず才能は光っているが前作、前々作の成功がプレッシャーとなったのだろうかチャート面でも音楽面でも衰退の兆しが。最後のヒットアルバム。

Stereotomy (1985年)
タイトル(出典は某Poe作品)は訳せば規矩(きく)術で、石で様々な形を作ること。有名人が環境に影響され「形作られていく」ことを例えている。売れ筋路線の象徴Ericをリードボーカルから外し、ブレイク前のプログレっぽい長い曲を増やした。ヒット(を出さなければならない)バンドの呪縛を自ら解き原点回帰を試みた意欲作。

Gaudi (1987年)
正史では最後のアルバム。ライフワーク「サグラダ・ファミリア」を完成できずに亡くなったAntoni Gaudíの人生に思いを馳せた作品。前作でボーカルから外されたEricは大人の事情で2曲にて復帰。従来のセンスが戻らなかったのか折角のコンセプトを持て余しており前作越えのチャンスは逃した。

Freudiana (Eric Woolfson and Alan Parsons名義。1990年)
今度はフロイトの心理学をテーマに掲げた。実質的にはAPP作品だが主導権はEricが握っており、後にミュージカルも作られた。元のアルバムバージョンは当時のもの以外世に出ておらずレアものとなっている。

解散
もともとロックンローラーではなかったEricは自分の作品のミュージカルとの相性の良さを以前から意識しており本格的にミュージカルに参戦するためAlanと袂を分かち1990年にプロジェクトは解散。その後も2009年に亡くなるまでミュージカル制作に没頭した。その多くはAPP時代のコンセプトや曲を流用したもので韓国などで成功した。
一方のAlanはその後もソロとして定期的にアルバムを発表することに加えAlan Parsons Live Projectとしてグループ時代にはやらなかったライブを敢行。ソロ作品はAPP時代には劣るもののコンセプトで制作するという路線は緩く受け継いでおりAPPファンには入りやすい。

番外編: Eric Woolfson sings The Alan Parsons Project That Never Was (2009年)
APP時代にアルバムに入らなかった曲やミュージカル関連曲をまとめてEricがソロ名義で発表。その年の暮れに死去したため、遺作となった。Ericの真骨頂である甘美なメロディが前面に出ている。あくまで「在庫処理作品」だがその言葉が申し訳ないぐらいの出来。

プログレ入門編としてオススメ。ミュージカル好きにも

APPはプログレの中では圧倒的にライトなため、「プログレ気になるけど難しそうだし眠くなりそう」という方にプログレの入門編として挙げます。
メロディも良く、アレンジも7、80年代とは思えないぐらい凝っており(何しろ音の職人さんが関わっていますから)、アルバムコンセプトも設定されているので歌詞も見ながらヘッドホンやスピーカーでじっくりと楽しむのがいいでしょう。後にミュージカルに転用される曲も多くロックでは珍しくそちら方面の趣味の方にも入りやすいサウンドです。
なんといっても音楽を超えた体験になるのがプログレの醍醐味です。



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