“We Didn’t Start the Fire”アップデート版を聴いて

アメリカのグループFall Out Boyがビリー・ジョエルの1989年のヒット曲、“We Didn’t Start the Fire”のカバーをリリースしました。

オリジナルは1948年から1989年までの歴史をほぼ時系列順に追いかけた曲です。
リリースのタイミングがちょうど東欧革命の真っ只中ということも相まって一時代の記録として強烈な印象を残し、ビリーの曲では珍しくビルボード1位を獲得しています。

歌詞も併記したバージョン(非公式)がこちらです。

そしてカバー版。1989年から現在までの出来事を追いました。
歌詞も一緒に見れるのがありがたいですね。


時系列順にしなさい!(致命傷)

まずこの一言に尽きます。
原曲の魅力はあたかも歴史という一つの物語、映画を見ているような感覚を楽しめることです。
時系列を無視したカバー版は「こういうこともあったでしょ」という単なる羅列に徹しています。
過去を再体験するような臨場感がありません。
歌詞の都合上難しい面もあったと思いますが、内容を犠牲にしてでも時系列順に並べるだけで多少なりとも様になり、リスナーに与える印象も違ったと思います。

大事な出来事を抜かしてしまった

カバーをわざわざ敢行した訳なのであまり言うのは酷かもしれませんが、これは外せないでしょ、というものを幾つか挙げます。

ウクライナ: 現在進行形というのもありますが5年後同様の企画が行われた場合必ず入るであろう時事問題を抜かすのは悪手なのでは。

新型コロナウイルス感染症: 一番の疑問。なおアメリカで100万人以上亡くなっています。

映画『タイタニック』: 原曲に『ベン・ハー』『アラビアのロレンス』があるので妥当だと思います。『アバター』が入っているだけに余計に違和感しかありません。

湾岸戦争、イラク戦争: ベトナム同様触れたくないのでしょうか。

冷戦終結: 原曲のバトンを引き継いでゴルバチョフ、ベルリンの壁崩壊、ユーゴスラビア崩壊など題材はいくらでもあります。アメリカ人とはいえ(旧)東側諸国の話をほとんどしない辺り原曲からの進歩が感じられません。

好きな歌詞

貶してばかりでもいけないのでお気に入りを紹介します。
2001年9月11日の同時多発テロ事件に言及した

World Trade, second plane

は素晴らしかったと思います。
ただWTCや9/11と言うのではなく、「2機目(が激突した)」という表現。

当時1機目がタワーにぶつかった時、すぐに事態の緊急性を察した人間は皆無だったでしょう。映像もあまり残っていません。
ところがマスコミがザワザワし始めた頃、目の前でジェット機がもう一つのタワーに激突。
事故ではない。偶然ではない。夢でもない。
誰かがニューヨークのど真ん中にとんでもない攻撃をしている。
紛れもなく当時を記憶しているすべての人間にとって世界が大きく変わった瞬間でした。
この事件ならではの緊迫感を端的に表現したsecond planeという言葉は原曲越えと言っても相応しいでしょう。

結論、まあよく頑張ったと思います。世間はかなり酷評しているようですが。
私は原曲の出来の良さを改めて知れたので感謝してますね。



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