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現代の教養のための大学入試小論文 #4 ~衰退都市におけるネットワークの再構成~

ごきげんよう。小論ラボの菊池です。拙著もよろしくお願いいたします。

今回は衰退都市におけるネットワークについて扱います。数年前、「池袋が近い将来消滅するかもしれない」といったニュースが話題になりましたね。

衰退都市におけるネットワークの再構成

 高度経済成長期には、イベントや祭りは地域の活性化や競争優位の源泉だった。しかしバブル崩壊後は伝統的な祭りや商業イベントは素人では扱えなくなり縮小しつつある。一方で、市民のボランティアによる新しい祭りの形態も見逃せない。
 たとえば北海道の小樽ではボランティアスタッフ中心の「小樽雪あかりの路」が開催される。これには商業的でなく経済効果がない、持続可能な採算がとれていないという批判もあるが、地域ネットワークの再構成という観点からすると別の側面をもつ。不特定多数の人々が参加するイベントでも、企画運営にはコアスタッフが必要だ。彼らのネットワークがハブとなって新しい人間関係が形成される。「まち」という概念を考える上では重要な機会になるのだ。
 地域のイベントは消失しつつあった地域のネットワークを再生させつつある。地域社会の衰退は地域住民の危機感を醸成し、私的利益を超えた活動へ駆り立てている。旧来の商工会議所などに加え、SNS上の議論も盛んだ。これらがイベントという形をとり、議論が共同作業となり、各市民の立ち位置が定まる。こういった顔が見える関係の再構築が「まちおこし」を通して社会のネットワークを再生している

出題校

鳥取大学地域学科地域創造コース

出典

江頭進「衰退する地方都市とコモンズー北海道小樽市を事例として」(待鳥聡史・宇野重規著『社会の中のコモンズ 公共性を超えて』白水社、2019年、88-91頁)

解説

 1988年に、「ふるさと創生一億円事業」という形で、政府から各市町村に1億円が交付される政策がありました。これはバブル絶頂期の潤沢な財政状況が可能にしたもので、現在では想像だにできません。今日必要とされているのは、まずは地域住民の「ネットワーク」の再生なのかもしれません。観光客が多く来ても、それは「観光公害」という形で弊害を生み出す場合があります。それよりも、住民同士の顔の見える、緩やかでありつつも確固たる関係性が必要とされる地域もあるでしょう。こうしたネットワークの再生が、足腰の強い地域を形作り、次世代につながっていくのではないでしょうか。

それでは♨

皆さまのサポートで、古今東西の書物を読み、よりよい菊池になりたいと思っております。