利用規約って読まないとどうなるの?
利用規約って何?
利用者が事業者のサービスを使うにあたり適用される、事業者が作成するルールのことをいいます。ご存じのとおり、各種アプリ、ウェブサイト、スポーツ施設等を利用する際に適用されることが多いです。
利用者が(チェックマークをボックスに入れること等により)利用規約に従うことに同意した場合、利用規約の内容も契約の一部となります。
利用規約の内容が契約の一部となるのは、利用者が利用規約に従うことに同意した場合です。同意をしていない場合は従う必要はありません(法的には)。何らかのアコギな施設を利用した際に「○○した場合は罰金○万円」という規則に当たるとして金銭を請求される場合等が典型例ですね。
内容を読まなくても同意したことになる
利用規約の内容が契約の一部になる場合、当事者は契約条件の一部としてこれに従う義務があるのが原則です。
これを読んでいる皆さんが消費者である場合、消費者契約法が適用されますので、利用規約を読まずに契約してしまってもまだマシです。
消費者契約法上、事業者の責任を免除する条項、消費者に解除権を放棄させる条項、その他消費者に一方的に不利益な条項等は無効となるのですから(法8条〜10条)。
皆さんが会社の従業員、個人事業主等でビジネスのためにあるサービスを利用する場合、これらは適用されないので要注意です。もっとも、いずれにせよあまりに酷い条項は民法上の公序良俗違反等として無効になることが多いです。
定型約款(民法548条の2)との違い
民法の定義によると、定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」のことです。
定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」のことです。
分かりにくいため意訳すると、契約者となる人の属性によっていちいち契約条件を変更したりせずに画一的に処理するのが妥当な取引が「定型取引」に当たり、定型取引のために用意された規約が「定型約款」ということになります。
そして、どんな事業者でもサービスを行う以上は「利用規約」を備えていてもおかしくないのですが、そのうち上記の要件を満たすものだけが定型約款に当たるということになります。
なお、定型約款に当たる場合の効果としては、一定の要件を満たせば、相手方の同意がなくても一方的に内容を変更できるという点が大きいです。
定型約款に当たらない(または当たるが要件を満たさない)利用規約の変更の場合は、相手方の同意が必要となります。皆さんが各種サイト、アプリで頻繁にポップアップで同意を求められるのはこういった理由からですね。
「同意」ボタンを押さなくても、利用規約が変わっているのにサービス利用を続けることで、法的に同意があったものとみなされることがある点には留意しましょう。
内容を読まずに同意するデメリット
こちらが本記事で最も重要な点です。大きなデメリットを以下のとおり5つ挙げてみました。
不利な契約条件に従う羽目になる
解約したい思ったときに解約できない
知らない間にアカウント停止されてしまう
自己の個人情報が予期せぬ方法で利用されることになる
投稿したコンテンツの知的財産権を失う
上記1「不利な契約条件に従う羽目になる」については、特に説明不要ですね。通常のサービス利用時には問題が生じないことが多いですが、返品・返金等のトラブル時、事業者の過失による事故発生時、法的紛争への発展時等に不利益にはたらくことが考えられます。
上記2「解約したい思ったときに解約できない」は上記1の一部ですが、特に重要なため抜き出しました。「個別取引の継続中は解約不可」、「○ヶ月前までに告知が必要」、「定期割引適用のため、期間内の解約は不可」、「解約月の料金が日割りにならない」等の条項がないか要注意です。
上記3「知らない間にアカウント停止されてしまう」は、SNS等でよく問題となり得ますね。通常、利用規約にはサービス利用時の禁止行為(例えば「暴言禁止」)等が書かれています。それに違反した際の罰則、即アカウント停止(アカBAN)なのか、それとも事前警告ありなのか等も利用規約に書かれているでしょう。これらを知らずに違反行為をしてしまうと、フレンドとのつながり、これまでの投稿の蓄積等を失ってしまうかもしれません。
上記4「自己の個人情報が予期せぬ方法で利用されることになる」は、利用規約の中にプライバシーに関する事項が定められている場合に問題になります(または、プライバシーポリシーが別途定められている場合でそれを読んでいないときも同様です)。ここでは、個人情報の利用目的、第三者への提供等に関する記載があるはずなので、これを読まないと個人情報が知らずに第三者へ渡ったりしてしまうことがあります。なお、個人的な印象では、「利用規約を読まない人は、プライバシーに関してそれほど気にしない人」であることが多いので、そういう人にとっては大きなデメリットではないかもしれません。
上記5「投稿したコンテンツの知的財産権を失う」は、画像投稿サイト等において問題となり得ますね。クリエイターの方々は、画像、音楽、動画等の投稿を本格的に始める前に、利用サービスの規約をよく読んだほうが良いかもしれません。
以下は、pixivのサービス共通利用規約のうち、知的財産に関する条項です。投稿に関する著作権等の帰属はユーザーになっていますので、この条項自体はマトモだと思いますが、マトモでない会社・サービスもないとは言い切れないですよね。お使いのサービスの利用規約のうち、同様の条項を一読しておくことをオススメします。
結局どうすればいいの?
ここまで、利用規約の法的な位置付けと読まずに同意するデメリットを紹介しました。「じゃあ結局どうすればいいの?」とお思いの方もいるでしょう。答えとしては、「自己判断・自己責任」というほかありません(ごめんなさい)。
思いがけないリスクを避けるためには、利用するサービスに関する全ての利用規約を読むべきです。しかし、仕事や趣味で多くのサービスを利用する現代人にとってそれは現実的ではありません。かといって読まないことのリスクは怖いと思います。そうすると、問題になりそうなサービスに関する利用規約のみキチンと読むという選択肢も悪くないでしょうね。
もっと言えば、利用規約を読んだところで法律の専門家ではない人が正確に理解できるかという問題、法律の専門家ではない人が作った利用規約には日本語が怪しくて理解できない条項が混ざりがちという問題、利用規約が微妙だったとしてもサービスを使わざるを得ないことがあるという問題もあります。
理想としては、国(消費者庁、公正取引委員会、経済産業省等)が「統一ひな形」を用意し、個別サービス特有の条項については赤字で記したり「特記事項欄」に記載したりすべきこと等のルールを作れば、似たような形式の利用規約ばかりになるので、かなり読みやすくなるでしょう。
そもそも読まずに済ませてもよくなる方法として、消費者契約法を改正し、消費者保護の観点から無効となる利用規約の条項の範囲を広げることもあり得ます。
民間における試みであり、各種利用規約を弁護士が要約・採点して無料で公表するサービスとして、cake株式会社の「ソーシャルペンタゴン」というサイトがあります。
筆者は個人的に「中の人」と話したことがあり、サービスの浸透、収益化等の面でまだまだ課題はあるとのことですが、国家規模(あるいは世界規模)の社会課題の解決の可能性があるという意味で非常に面白いと思っております。
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