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浅草青春物語

 今日の移動中、浅草の雷門前を通った。

 もう10年近く前になるだろうか。
 ここら一帯は私の職場だった。

 以前、人力車の車夫として生計を立ててた頃がある。
 当時は車夫仲間の男友達2人と池袋の1K六畳間に3人で暮らし、毎日自転車で片道15㌔以上の距離を浅草まで通った。

 毎日毎晩夜通し仲間と語り合って酒を飲み。
 ラーメンを食って、恋をして。
 ラーメンを食って、振られて泣いて。
 愚痴を吐き散らかして、またみんなでラーメンを食った。

 そんなラーメンまみれの暮らしも過ぎ去り、今や仲間達も家庭を持ったり夢を追ったりそれぞれの道を歩んでいる。

 私もそうだ。
 「オリンピックに出てぇんだ!」と思い付いたように喚きだし、ボクシングを始めた。

 日の丸を付けたり、大一番で夢破れたり。
 「世界チャンピオンになる!」って吠えたり、ボクシングを休止したり。

 そして今はボロの軽バンを乗り回し、人力車で駆け抜けた道を水道屋として走っている。

 10年後は一体何者になってるのだろうか。

 子供の頃に思い描いていた夢や理想にはカスりもしてないけれど、一瞬一瞬を全力で必死こいたり、楽しんだり、泣き叫んだり、喜んだり。

 俄然今駆けるリアルの方が泥臭くて面白い。

 今日見た昼間の浅草は、私がいた頃とは比にならない程に人も疎らで閑散としていて。
 それでも車夫達は昔と変わらず柳の木の下に立って声を上げていた。

 移りゆく日々の中で、逆境の波に飲まれぬよう。
 今日を。明日を。これからを。
 これまで同様私にしか為せない歩幅とペースで走って行きたい。

 そんな事をうじゃうじゃ考えながらトイレ詰まりの現場に車を走らせた。



菊池真琴

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