密度の保ち方
※このnoteは、以下の作品のネタバレを含みます。ご注意ください。
・スイートリトルライズ/江國香織
・レンタル世界（『ままならないから私とあなた』より）/朝井リョウ
・偽装不倫/日本テレビ2019年7月期水曜ドラマ
人と人とが関係を保つためには、努力が必要だ。どんなに仲の良い相手でも、何もしなくてもずっと同じ密度で関係を続けられるかというと、きっとそうではない。
スイートリトルライズ
この日常に不満はない、と瑠璃子は思う。淋しさは人間の抱える根源的なもので、自分一人で対処するべきで、誰かに──たとえ夫でも、救ってもらえる類のものではない。瑠璃子と二歳下の夫、聡。一緒に眠って、一緒に起きる。そこには、甘く小さな嘘がある。夫(妻)だけを愛せたらいいのに──。
瑠璃子は27歳のとき、2つ下の夫・聡と結婚した。聡は瑠璃子の大人びた態度に惹かれ、瑠璃子は「友達というものは過大評価されすぎている。少なくても別にいい」という話題で聡と意見が一致したとき、この人はいいなあと思ったらしい。
だけど2人の仲は、可もなく不可もなくという感じ。瑠璃子は夕飯のあとすぐ自室にこもってゲームをする聡に淋しさを感じているし、聡は毎日「今日の報告」をしてくる瑠璃子に少し辟易している。
結局2人は、お互い以外の拠り所や依存先を見つけていく。言ってしまえば浮気だ。
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ただ、お互い拠り所を見つけてから好転したこともある。
たとえば聡は、今まで瑠璃子の報告を聞くだけで自分はあまり喋ることができなかったのに、浮気相手と会うようになってからスラスラと話せるようになる。
会話は不思議なほどなめらかに進んだ。隠すべきことがあると、おのずと話すべきこともでてくるのだ。これは、いつも何かしら話さなければならないこのうちのなかで、ひどく具合のいいことだった。
苦くもなく、大きくもなく、どちらか片方だけ・1つだけでもなく、「スイートリトルライズ」。お互い今の生活を続けるため・守るためにほかの拠り所を見つけ、それを隠し通している。
レンタル世界
先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。
主人公の雄太は竹を割ったような性格で、今まで自分の信じた道をまっすぐに生きてきたんだろうなという印象。以下のような台詞は、まさにそんな感じだ。
レンタルなんかでその場を凌いだって、またすぐにその場を凌がないといけなくなるんじゃないのか？
人間関係ってのは、ウソつかないで、恥ずかしいこともさらけ出せるからこそ、分かりあえる。
このように主張してレンタルの関係を否定する雄太に、レンタル業をしている女性はこう言い放つ。
その場凌ぎの人間関係だって時には必要。その場凌ぎだったとしても、それがその後の本物の人間関係を築ける一歩になるかもしれない。
お互いに絶対にウソをつくべきでない、そういった窮屈な思い込みが、誰かのなけなしの一歩目を踏みにじってる可能性だってある。
偽装不倫
なけなしの一歩目。そういえばついこの間まで観ていたドラマでも、そういう嘘があったなぁと思い出す。
杏演じる主人公の鐘子は丈という青年に対し、ひょんなことから「自分は既婚者である」という嘘をつく。しかしこの嘘が功を奏し、二人は付き合うこととなる。実は丈は病気を抱えていて余命わずかであり「自分が死んでも帰る場所のある人と恋をしたい」と思っていたため、あえて既婚者である鐘子を選んだのだ。
嘘をついていなければ、未婚の鐘子は丈と付き合うことができなかったかもしれない。結果論かもしれないけれど、まさになけなしの一歩だなぁと思う。
密度の保ち方
きっと誰しも、努力して維持している関係やコミュニティがある。
たとえば仲の良い友達でも、距離が離れて会う頻度が少なくなると、以前よりも疎遠に感じてしまうことがある。機会を作ってメッセージをしたり電話をしたり直接会ったり、関係維持のための「努力」は必要だ。
だからこそ、努力をしてまで維持したいと思うかどうか、以前と同じ密度の関係性を保ちつづけたいと思うかどうか、それによってその人との関係が決まるのではないかなぁと思う。
それからもう一つ。誰かを傷つけてしまう嘘はもちろん簡単に肯定できるものではないけれど、関係を保ちたくてついた「スイートリトルライズ」なら、責める前にもう一度だけ話してみたいなと思うのだ。すべてさらけ出して誰かと付き合っていきたい人もいれば、大切な何かを守るために少しの嘘を混ぜる人もいる。
相手との「密度の保ち方」は様々で、それを否定せず生きていきたいな。
おわり
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