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たっこちゃん、齢ほぼ80歳 #28 それ、コガネムシですから

球根を植えるためにトマトを栽培していた植木鉢の土をいじっていた。植木鉢を逆さにして大きなポリ袋に土をガバッとあけ、残ったままの茎や根っこを取り除いていたら、なにやら白い物体が。

コガネムシの幼虫である。

どうりでトマトが育たなかったわけだ。ひょろひょろで、元気がなく花つきも実つきも悪かった。

こやつは土の中で植物の根を切って食する園芸家の敵なので、ソッコーゴミ箱にほかす。

8号サイズの植木鉢だったのに、いるわいるわ、許可もなく集団で暮らしてやがる。

一匹見つけてはゴミ箱にポイ。
また見つけてはゴミ箱にポイ。

そんなことを繰り返しながら、うんと昔、まだ私が20歳になるかならないか、そこらの頃のことを思い出していた。

その日私はベランダで育てている草花の植え替えをしようと、スコップ片手に植木鉢の土をいじっていた。
すると中から白い幼虫が出てきた。当時の私はそれがなんなのか、どうしていいのかわからなかった。
たっこちゃんに尋ねることにした。

「おかあさーん」
この頃はたっこちゃんをまだ「おかあさん」とよんでいた。

「これなに?」
「幼虫やん」
「なんの?」
「カブトムシやん。見てわからんのか」
「わからんわ」
「どうすんの?」
「もどしとき。土をよく耕してくれるから」

そうなんか。
当時の私は1ミリも疑うことなく、その白い幼虫を土にもどし、パンジーだかペチュニアだったか、花の種類も季節も思い出せないけど、花苗を植え付けたのだ。

その後何年にもわたり植木鉢の土の中にいる白い幼虫はカブトムシの幼虫だと信じ続けた。
もちろん必ず土にもどした。

ミミズのように土を耕してもらうために。

それがカブトムシの幼虫なんかじゃなく、植物にとって天敵で、2匹いればそれは大変な目に遭う害虫であると知ったのはずっとずっと後のことだ。

アホやんわたし。
少し考えればわかることだ。

住宅街のベランダにカブトムシの幼虫がいるわけないやん。1度でも家で、近所で、カブトムシを見たことがあったか?
ないやん。
森や公園が隣接しているか。
ないやん。
大きな木が生えているか。
ないやん。

ベランダの草花の鉢にやってきてわざわざ卵を産み付けるカブトムシがいるもんか。小学生でもわかりそうなことやん。

なんでずっと信じていたんだろう。
親子でアホ丸出しやん。誰かに言わなくてよかった。

あのとき、「育てよう」と言われていたら、飼育ケースとか腐葉土とか、なんやかんや買ってきて、コガネムシを大事に育てていたのかもしれない。

それはそれで面白かったかも、って思うのはあれから数十年も過ぎたから。


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