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安宅知人著『イシューからはじめよ』に沿って、働きたくなる労働環境を考える。

中高時代が部活動中心であった人になら、一度は部活をやめようか迷ったり、仲間が退部を検討しているといった状況に立ったことがあるだろう。中高テニス部に所属した私も後者の経験が何度かあった。過去の経験から考えると、部活を辞めたいと思う主な理由は、「仲間と歩調が合わない」「仲間と良い関係が作れない」「努力しても思うように結果が出ない」「楽しくない・つまらない」「自分の時間がもっと欲しい」「他の部活の方が楽しそう」など。人が所属する団体を抜けたくなる原因は、仲間との対立や、満足いかない成果・結果、そして隣の芝生が青く見える事という事が多い。

私が以前勤務していた会社は6人編成のチームで、そこに私は大学4年生後半から社会人2年目になるまで務めた。最初はインターンとして、それから1年後には正社員として。私がその会社を去ったのは、そこがアメリカ支社であったので、ビザの関係上アメリカでこれ以上勤務できないとなった時、光栄にも日本の本社で引き続き勤務できることになったからだ。そのアメリカ支社に私が勤務した1.5年間で、私を除き4人の社員が会社を去った。社会人歴が短い私は、最初は退職というのはよくあることで、安定した雇用があっても常に新しい機会を見つけてはそれに飛び込むというのが当たり前何だろうと理解していた。ただ、今こうして職場を異動し、社会人2年目でありながらも仕事仲間や同じ業界の先輩の話を聞いていると、もっと他にも会社を離れていく原因がある事が見えてきた。

さて、今回、異動先入社時に課題図書として与えられた、安宅知人著『イシューからはじめよ』で、解決すべき問題についてとその解決方法について読んだ。(本の感想を一言でいうと、理解に苦しんだため書かれていることの内頭に入ってきたのは30%くらい。)本の中で安宅氏がいう解決すべき問題というのは、 


①本質的な選択肢であること
良いイシューとはそれに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与える。
②深い仮説がある
良いイシューは深い仮説があり、検証できれば価値を生む。
③答えを出せる
良いイシューとは、きっちり答えを出せるものでなくてはならない。

安宅氏曰く世の中に解決すべき良いイシューは1%しかないとのこと。その1%に入る課題を私は見つけた。

前の会社、人辞めすぎ?でも、それって何か解決すれば変わるかも?

ということで私は、安宅氏の問題解決方法にできる限り沿って、人の入れ替わりが多いアメリカ支社について少し考えてみることにした。ただ人事でもない、社会人経験も少ない私の見解であることをこの記事の読んでくださる人にはご理解いただきだい。

まず問題解決のフェーズに入る前に、一歩下がってこのトピックが果たして安宅氏のいう「価値あるイシュー」なのかを、先ほどの三条件に当てはめて考えてみる。

①本質的な選択肢であること
良いイシューとはそれに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与える。
→アメリカ支社で人が多く辞めてしまうことに解決策を見いだせれば、今後の会社経営に大きく影響を与えるし、そこで働く人々にもプラスになる。

②深い仮説がある
良いイシューは深い仮説があり、検証できれば価値を生む。
→仮説:  労働環境が社員の生産性の邪魔をしている。そのため社員がやりがいを感じにくい場所を作っている。
→検証方法:  実際の労働環境の第一次情報を集め、他の会社や日本支社と比較してみる。

③答えを出せる
良いイシューとは、きっちり答えを出せるものでなくてはならない。
→上記の検証方法によって仮説が立証されれば、それは自分がイシューだと考えることへの自分なりの答えだ。

...これは解決に取り掛かるべき価値あるイッシューではないだろうか。

かつて自分がいた環境について検証するということで、すでに第一次情報が入手できている状態からのスタートなので、②の仮説は立てやすい。これから、イシューを答えを出せるサイズ分解し(サブイシュー)、それぞれのサブイシューに仮説を立てる。

イシューの分解において私がやってみたのは、3つのポイントに分けて、それら各々がどのようにイシューを作ってしまったのかを考えた。

サブイシュー: ①労働環境 ②生産性とやりがい ③労働倫理

まずは、労働環境。最初に部活を辞める理由の例でもあげた通り、仲間との対立があったり団体の中で居づらいと感じる時、人はその団体を去ろうとする。アメリカ支社の労働環境は果たして会社の人々が居心地よく感じられるものだろうか。実際私が働いていた時には決してそうとは言えない労働環境であった。

一つの理由として、ヒューマンリソース的存在の欠如がある。HRのいないアメリカ支社では、労働に関して何か訴えたいことがあっても、アウトプットする場所が無かった。また自分を会社のいち「人的資源」とみなして労務管理を真摯に行ってくれる存在がいなかったので、健康的で働きやすい環境であったとは言えない。

例えば、私は学生インターンとしてアメリカ支社で働き始めたが、入社前に面接を行い自分を採用したHR的存在の人物が、インターンの監督者でもあり後々自分のスーパバイザーとなる人物でもあった。その人を仮にAさんと呼ぶ。Aさんは私の1.5年の勤務期間コーチのような存在で、いち社会人として成長する上で大事なことを基本から全て学んだ人物だ。一方でAさんは気性が荒く、私や同僚がその人に怒鳴られることは多々あり、壁を蹴ったり物に当たる仕草もよく見られた。そのような結して居心地がいいとは言えない状況を誰かに報告しようとも、する相手はHR的存在の人、つまり自分のスーパバイザーであるAさん、となってしまい、言いづらさを感じた私は誰にも報告することなく、「仕方がない」と片付けてしまっていた。ここでアウトプットする機会があれば、自分の精神的健康や労働環境の改善につながっていたかもしれない。

もう一つは、社内での仲間との付き合い方だ。アメリカ支社は部屋が個々に仕切られており、プロデューサー陣3-4人が一部屋、Aさんが個人で一部屋、そして会議室、社長室、オープンエリアとなっている。基本どの部屋もドアは閉まっているため、社員が数人しかいないにも関わらずお互い終日顔を合わせないということが多々あった。また社内全体での交流を深める機会はゼロと言っていいほど無かった。たまに数人で夕食に行くくらいで、会社を作り上げるチームとしてお互いを良く知り合うという機会は、自分で作っていかない限り無かった。それに比べ、現在私が働くオフィスは、CEOを除く全員が大きな仕切りのない部屋で働いており、毎週月曜日にはヨガから始まる会話の時間、毎月末にはご飯やお酒を楽しみながら成果を発表し合うパーティーがスケジュールされている。もちろんHRも常時在籍しているため、過ごしやすい・働きやすいオフィス作りがなされ、労働環境を窮屈に感じたりストレスを感じることが無い。

ということで、望ましく無い労働環境というサブイシューにおける私が立てた仮説は:

人的資源の管理に徹することができる人材を雇い、社内に働きやすい雰囲気を工夫していくことで、ストレスにならない労働環境を作れる。

となった。

次に、生産性とやりがいをサブイシューとして考える。部活の例に戻ると、「努力しても思うように結果が出ない」「楽しくない・つまらない」と言った気持ちはやりがいの無さから生まれるもので、仕事でも思ったように成果が出ないことが続けば、他の職または職場を探し始めるということもあるだろう。アメリカ支社では、残念ながら高い生産性と満足のいくやりがいを感じるのが難しい状況であった。

この件に関しては2つの目線から考えることができる。一つは、プロデューサーの目線、もう一つはアシスタント、つまり社内のハイエラルキーで最低レベルから見た目線だ。

プロデューサー達は、仕事を取ってくるにあたり、自分のコネや会社のCRM(Customer Relationship Management, 顧客関係管理)を駆使してアウトリーチを行う。CRMはマーケティングにおいて重要なビジネスツールであり、CRMマネージャーという職も存在する。アメリカ支社では、そのCRMはGoogle Sheetでマニュアルに管理されおり、インターンやアシスタントによって修正・更新されていた。毎日最低3000の連絡先を収集するというノルマがあり、インターン達はネットで1日かけて顧客の連絡先をかき集めていた。それを使ってプロデューサー達は潜在顧客にアウトリーチしていくのだが、その際にCRMの情報が間違っていたり、アウトリーチするのに適切でない会社が混ざっていたりすることがあったため、プロデューサー達はメール送信の際逐一LinkedInで登録者の情報を確認してからメールを送信するという手順で進めていた。

ここに、生産性を上げる効率化の可能性が見える

例えば、インターンにCRMの更新を任せるのであれば、まずインターン入社時に広告業界について教育する機会を持ったり、自社がどのようなクライアントをターゲットとしているかをしっかり教育すれば、インターン達は正しい情報を収集し、プロデューサー達はメール送信の都度相手のLinkedInを確認する必要がなくなる。また、CRMソフトウェアの導入の検討も、効率化を図る第一歩だ。

一方アシスタントの目線から生産性とやりがいについて考えると、アシスタントは上部から言われたことを全うしていれば問題なく、逆に自発的に何かアクションを起こそうとするにも、スーパバイザーの了承を得てからやっと提案することができ、その許可が下りるのは10分の1またはそれ以下のチャンスであった。こういった環境では、若い社員に成長の機会が与えられず、声を発するのも難しい。言われたことを全うするだけの仕事が続けば、それは生産性の高い仕事をしているとか、やりがいを感じられる仕事だとは言えないのではないか。もし社内に、アシスタントの意見にも耳を傾けるような雰囲気があれば、上部の視野も広がり、またその意見が間違っていたとしても、アシスタント本人は指摘を受けることで新しく学べるものがある。

2つの目線でこのサブイシューを見てみた結果、私が立てた仮説は:

作業効率を上げ、社員全員が意見を発する環境を作ることで、社内の生産性と個人が感じるやりがいの向上が実現する。

ということだ。

最後のサブイシューとして、労働倫理と文化の違いを考える。これに関しては、アメリカに支社を置く日系の会社によくある課題だろう。国が違えば、文化が違うのは当たり前で、労働に関する文化ややり方も違ってくる。そんな中、アメリカに支社を置く日系の会社では、二つの相反するカルチャーが同時に存在する

アメリカの労働文化は全てが個人主義で、他人と足並みを揃えるより、自らに与えられた権限を最大限に活用し個人の成績を挙げることに力を注ぐ。それに変わり日本の労働倫理とは、会社のために働き、チームワークを大切にし、何事にも足並みを揃えて「平均的」であることに安心する。家族との時間やプライベートな時間までを会社のために使うというのが、評価ポイントになったりもする。この正反対の労働文化を社内でどのようにバランスをとるかが、双方が合意できる良い職場作りにつながる

ただ、日系企業のアメリカ支社ということで、日本人が決めた労働方針で、社内も半数以上が日本で育った日本人であるため、日本のやり方がスタンダードになっているように私自身勤務していて感じた。例えば、多くの時間を要する資料制作を金曜日に要請し期限を週明けの月曜日にする。金曜日の勤務時間内に終わらないことを分かっていて、残業または週末労働を見込んでの業務要請だ。ライフワークバランスを尊重するアメリカ人社員にとっては、不合理な要請だった。

また、やり方の対立の例として、以下の体験がある。撮影においてアメリカ人プロデューサーは、会社に保管してあり翌日撮影現場に必要な用具を自家用車で現場に持っていく事を、頑なに嫌がった。用具を乗せての運転に対する不安と責任や、アシスタント業務はアシスタントに任せるべき、という考えからであろう。反対に日本人のプロダクションマネージャーは、自分はプロダクションマネージャーであるが、現場ではプロダクションアシスタントとして貢献するべきだ、という考えを持っていたので、撮影前日に撮影用具を自家用車に詰め込み、翌日朝クルーが来る前にセットアップを始めた。どちらが正しいのかは私にもわからない。前者は責任感、後者は効率を優先した発想だからだ。

この二つの文化が均等に尊重された労働環境が一番理想的である。お互いの文化の良い部分を取り入れることがベストだが、その良し悪しは社員の判断によって変わるため、経営者が常に社員の意見に耳を傾け、双方の労働倫理を尊重した職場づくりがキーとなるだろう。

つまりこのサブイシューに関する私の仮説は:

日米で労働倫理が相反することを経営者が理解し、双方が納得のいく労働基準を設けることで、2つのカルチャーがうまく融合した新しい労働倫理を作り出せる。

さて、ここまで安宅氏の問題解決法に沿って、私が働いていたアメリカ支社をもっと働きたくなる環境に改善するための仮説を立ててきた。

①人的資源の管理に徹することができる人材を雇い、社内に働きやすい雰囲気を工夫していくことで、ストレスにならない労働環境を作れる。
②作業効率を上げ、社員全員が意見を発する環境を作ることで、社内の生産性と個人が感じるやりがいの向上が実現する。
③日米で労働倫理が相反することを経営者が理解し、双方が納得のいく労働基準を設けることで、2つのカルチャーがうまく融合した新しい労働倫理を作り出せる。

これが果たして正しい仮説かは、関連資料を集めて立証するのは不可能で、実施してみないとわからないことだ。現に、私がアメリカ支社から異動する直前に、作業の効率化を図る改善措置が行われ始め、そこに明かりが見えた。例えば、アシスタントとインターンへのタスクのデリゲーションは、上部が各自で手の空いている人に依頼する、という形で行われていた。それでは誰がどれだけのタスクを担当しているかが把握しにくかったため、改善策として、監督者であるAさんがタスクのデリデーションを行うことに決めた。上部は依頼があればまずAさんにタスク内容を説明するメールを送り、内容を把握したAさんが適切な人にデリゲートする。

これによって
1、効率の良いタスクのデリゲーションシステムが成立した。
2、Aさんが、アシスタントとインターンの仕事を監督しやすくなった。
3、インターンの進捗情報を把握し、得意不得意を判断できるようになった。

こういった労働環境の改善は、これまでもこれからも企業が取り組まなければならない課題であり、だからこそ「犬の道」から脱して効果的な課題解決を行う必要があると思う。実際自分が中高時代に部活の仲間が悩みを抱えないような雰囲気作りをしていこう、と努力していたように、現在も私は会社の一員としてこの課題に率先して取り組みたい、そう思ってこの記事書くに至った。

最後に、以下は、安宅氏のいう絵コンテ式には満たないが、この記事を書く上で考えたことを自分なりにまとめた時のメモだ。1枚目では、イシューを分解する際に結局同じようなサブイシューに分けてしまったため失敗したもので、2枚目でようやくイシュー→サブイシュー→それぞれの仮説という構成が組めた。


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