検査学入門


検査は何のために実施しますか?
検査でわかりたいことは何ですか?
検査に期待していることは何ですか?
その検査の特性は何ですか?メリットとデメリットは?

このコラムを読んでもらう目的はただ一つです。
とりあえず検査しましょう。
を撲滅したいです。

血液検査、レントゲン検査、超音波検査、尿検査
を一通り実施して飼い主さんからいただく費用は1万円はゆうに越えるのではないでしょうか?

その費用をとりあえずのためにいただくのは、プロの臨床獣医師としてあるべき姿なのでしょうか。

確かに検査は多くした方が病院の売り上げに繋がりますよね。
そして、データも増えて不安が解消されますよね。

ただ、こういった行動原理で実施する検査の主語は一体誰なのでしょう?

あくまで、僕の考えですが、臨床獣医師をする上で、主語は常に患者である動物であるべきだと思います。

その主語たる動物と向き合うために、飼い主さんであったり、勤務、所属、経営する病院のしがらみが存在するだけで、動物たち以外が主語になるべきではないと考えています。

そして、主語たる動物たちに検査を行う際に、何を、なぜ、いつ、どのように、どこで、誰が
実施するのかということが重要になってきます。

飼い主さんに請求する金額のうち約半分近くを占める
検査
この検査について、深掘りしていきたいと思います。

目次
・はじめに
・検査を行う目的とは
・目的の分類
・スクリーニング検査という考え方
・検査前確率
・検査エラーと正常値
・検査結果と臨床像
・検査と確定診断
・必要な検査と不必要な検査
・検査データの解釈について

はじめに


一番最初に挙げさせてもらった質問ですが

検査は何のために実施しますか?
検査でわかりたいことは何ですか?
検査に期待していることは何ですか?

検査のたびに、各々の検査に対して、皆さんはどう考えていますか?
毎回これらのことを気にされていますか?

クソ面倒ですよね。
ですが、ここに検査の全てが詰まっているのではないかと思っています。

飼い主さんは検査すれば治ると思っている方がいます。一つの検査で診断がつくと思っているる方がいます。
もっというと余計な検査なんかなくても、問診と身体診察で確定診断を、つけられる獣医師こそ本物の獣医師だ!検査したいのは動物病院がお金を稼ぐためのもので、問診と身体検査をしてその場で診断名を言える獣医師を名医とする人もいます。

そんなやついないだろう、問診と身体診察で診断がつくわけないだろう、それらでわかることなんてたかが知れてると思っている方が大半なのではないでしょうか?

僕もそう思います。
ただ、この問診と身体診察で確定診断をつけることについて少し考察してみたいと思います。

のちにつらつら書いていきますが、一般的な血液検査とレントゲン、超音波検査で確定診断をつけ切ることのできる疾患はどれほどあるでしょうか?

自信を持ってこの疾患だ!と言い切れることはどのくらいあるでしょうか?

正直これらの検査でわかることはこういった疾患の可能性が高いだろう
だから次にこの検査やこの検査で自信を持ってそういえる
という場面が多いのではないでしょうか?

もっというと、一般的な血液検査とレントゲン、超音波検査の結果だけでは一つの疾患に絞りきれず、他にも可能性がありそうと複数の疾患がちらつきませんか?

当然、臨床症状、問診、身体診察の結果と合わせればこの時点で自信を持って確定診断のできる疾患もあると思います。

ですが、やはり言い切るには心許ない場面のほうが多いと思います。

そうなると約2万円かけて検査した結果
Aだろう
というところまでいけます。

一方で、問診と身体診察でAだ!
と言い切り
治療を始める獣医さんがいたとします。

こうして比べると
高いお金を出して、だろうと言われるより
話をして、体を触って、病名を自信をもって言われたら
後者の方がすごくカッコいいですし、費用面も抑えられますよね。

同じAという疾患の治療に行き着くのも後者の獣医師の方が最短距離で行けていますよね。

知識のある我々にとっては後者の手法は、おそらい危険が孕んでいると思いますよね。
よっぽどの経験と知識がないと言い切るのは末恐ろしいですよね。

そして、後者の手法でAという疾患だったら問題ないのですが、これが別の疾患だったら
大変なことになりますよね。

いわゆる誤診というやつになりますよね。
自ら好き好んで誤診をしたい人なんていませんよね。

ですが、飼い主さんにはこの誤診の危険性は伝わりませんよね。

あ、決して、問診と身体診察で診断をつけ切る人を批判してはいません。

ただ、すごいなぁと思いますし、そういった診療を受けて、全く見当違いな治療を受けて一向に良くならない動物が転院してくるという経験を一度や二度ではなくしています。

僕はそうした獣医師に対して昔は憎悪を抱いていました。なんてやつらだ、消えてなくなれと
しかし、自分自身が誤った判断で、患者さんに迷惑をかけてしまったこともあります。

そして、
日々ものすごい件数を診察されている先生もいらっしゃったり、育児に追われて勉強どころではない先生や
それぞれその先生たちにも事情があるんだとわかるようになってきました。

加えて、検査や診断について深く考える機会がなかっただけなのではないかと思いました。

これからお話ししていく話が完全無欠で完璧な正解だとは全く思っていません。

ですが、一度立ち止まって自分なりに深く考えてみた考え方です。

この考え方で、頭が整理されたり、新たな発見があったり

そして、その結果救われた命があったら幸いだと思います。

とても長い前置きでしたが、ここから一つ一つについて考えていきたいと思います。

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