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消り捨てた「元・友だち」

2月11日(土)

あっ、この人、僕のこと舐めてるな…というのは感覚的に認識できます。ちょっとした物言いや、仕草、行動でその人との距離感を決定させてきました。僕の性格上、人からからかわれやすいのは事実です。

大学2年のときにこんな事がありました。
僕と彼は同じスキー部に所属していました。冬休み、5日間の合宿日程を消化し、最終日にソレは起きました。

僕の財布が無くなったのです。どうやら前夜に酔っ払いながら自販機でアイスを買った際、落としてしまったようです。現金や学生証、クレジットカードが入っていました。他にも、高校時代の代物や、思い出の小物も入っていたので無くしたくありませんでした。僕は財布を取り戻すべく必死に探しました。列車の発車時刻直前まで粘りました。自販機の周辺、ゴミ箱、共有ソファの間、もちろんフロントにも問い合わせました。しかし最後まで見つかりませんでした。

「ばきお!もう行く。時間きた」
団体予約の割引乗車券だったため、僕だけ残留することはできません。仕方なく友だちに借金して帰宅費用を賄いました。帰りの列車の中、明らかに消沈していたのでしょう。他のメンバーが慰めたり気遣ってくれました。それでも僕の気持ちは沈んだまま。微妙に空気が重くなってしまったのです。

まずいなっと、僕は内心思っていました。しかし気持ちに反して、フォローの言葉が出てきません。そんな重たい空気を破りたかったのでしょうか。彼は言いました。

「だって、どうでもいいもん」

苦笑するしかありませんでした。確かにどうでもいいのです。彼にとっては。思えば、この時に縁を切れば良かったのです。でも今までの彼の言動を振り返ると、些末なことのように思い、溟い気持ちを無理やり押し込んで、気にしないようにしました。それからは卒業まで、「同じ部員同士」という距離感で付き合いました。

卒業してから数年が経ちました。同じ部員だった女の子が結婚して式に呼ばれたのです。当然、彼もいました。結論から言うと「行かなければ良かった」と心底思わされました。

式場では、元部員同士で近況報告がなされました。僕は作家になりたかったので、大手企業の非正規で働きながら執筆活動をしています。素直に自分の夢への過程を告白すると

「お前○○に勤めてんだ。どうせバイトだろ?」
「まだそんなことやってんの?俺社員だよ?」
「お前生きてたんだな」

僕の目の前にいる人は、こんなヘドロみたいな人間だったっけ?

確かに人をイジるようなことをする人でした。しかし愛が感じられる人でした。だから僕は同じ部員として支えていたのに…。少なくとも人の尊厳をスパイクで踏み躙る奴ではありませんでした。

その他の言動にも失望しました。新郎新婦を交えて撮影しようとした時です。僕と彼がカメラ役を買って出ました。

僕「撮るよー、こっち向いてー」
彼「あーこっちこっち。こっち向いて」

なぜか僕のポジションを奪った上にシャッターチャンスを横取りしていきました。僕の後に撮ればいいのに…。こんな些細なことも弱い毒のように、少しずつ身体を蝕んでいったのを覚えています。

それから彼との連絡は一切断ちました。一度、距離を置いた方がいいと思ったのです。もしかしたら彼の周辺環境が影響して、性格に変化が起きたのかもしれない。一縷の望みにすがる気持ちもありましたが、もう関わりたくないのが本音でした。

さらにそれから数年が経ち、現在に至ります。先日、彼から連絡が来ました。結婚報告かと思ったのですが、違いました。強引な営業でした。

何でも、彼は勤めていた会社を辞めて、お洒落カフェを共同経営しているそうです。ところが、このコロナ禍で経営が悪化、色々な施策を試みているようでした。古い仲間内にとにかく予約券?(自粛期間が終わったら、先行して飲食できるチケットのようなもの)を売っていました。

「2食分は買って」
「みんな買ってる。買ってないのお前だけ」
「頼む。かなりサービスも付いてるから」

僕も仕事柄、絶対に感染したくない人間の1人です。飲食店の苦難も重々承知しています。彼の期待に応えようかと思いましたが、ふと冒頭の合宿所での財布紛失と彼の言葉を思い出したのです。

どうでもいいのです。僕にとっては。彼の店がどうなろうと。

池に放り投げた小石が沈殿物を巻き上げたかのように、当時の絶望が脳裏に浮かびました。積もりに積もった微弱な毒が、一気に牙をむき出しにしました。一瞬「買ってやるか」とも思いましたが、義理立ては不要だとあっさり切り殺しました。

「丁重に」断り、そのまま連絡先を削除しました。今後、僕の人生に彼が登場することはありません。他の部員を交えた宴に参加することも無いです。

彼を見限った代償は小さくないな…と感じましたが全く後悔がありません。その程度の存在だったのだとわかりました。むしろ気持ちが晴れやかになりました。視界が明るくなり肩が軽いのです。血液がサラサラとなり身長も伸びた気がします(笑)✨

思いきった決断は劇薬なんだなー。

精神的負担は解消されました。でも正直、この歳で「友だち」を無くすのはきついな…と多少なりとも凹んだのも事実です。

かつては同じ酒を飲み交わし、腹の底から笑い合った仲だったのに。あの時の彼の笑顔は、砂嵐のテレビ画面のように色があせ、輪郭はカタチを保たず、時の流れとともに水泡に帰しました。

至極個人的なエピソードでしたが、今年1番メンタルやられたのでつい吐露してしまいました…汗💦お見苦しくすみません🙇‍♀️

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