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smashing! うみのはて こころえがき・前

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

近隣の商店街の外れ。こぢんまりとしているが、中に入っている店舗も設備もなかなか侮れない銭湯がある。そのウミノ湯の店主は渋い鯉口シャツにダボパンツが標準装備の、長身痩躯の松田系の美形。羽海野真弓34歳。

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「あ、こういうのは避けるんだ?」
「なるべく何かしら書いてないやつがいいのよ。動物の絵とか、団体とかの名前とかも」

羽海野と一緒に、なにやらダンボール類を仕分けしているのは佐久間イヌネコ病院看護士・喜多村千弦。家の倉庫に豊富にあったダンボールを羽海野に譲るべく、使えそうなものをより分けているのだ(使用感ないのもこんなにあるのに新品買うなんてもったいないし・マミたま談)。

羽海野は数ヶ月に一度、地球の真ん中の線辺りにいる恋人・九十九龍一に宛てて、彼の好物や必需品をまとめて送っている。現地の同僚や友人達の分も頼まれているから、けっこうな量と輸送料になる。あれ、これもしやウチに届くふるさと便かな、喜多村の脳裏に佐久間院長の兄さんがフラッシュバック。

九十九は現在、インド洋に面した国の端っこにある海洋研究所に勤務していた。海の美しい富裕層の多い都市は、それでも時折情勢が不安定になりがちで、こちらから送る手紙やなんかが届くのには、空輸でも平気で数ヶ月かかったりする。
ウミノ湯の従業員休憩所でもある羽海野家居間では、黙々と荷造りが進む。限られた空間にいかに上手く詰め込むかが勝負。そして封をしたダンボールを更にクラフト茶系の紙で包装、紐で括りつける面倒臭さ。

「むこうだと引くほど高いし古いんよ、こんなくらいのパン粉なんかもさ」
「そんで彼氏いつ帰ってくるの?こないだそんなことゆってたよね?」
「うーん…労働組合がスト起こしてなかなか話がまとまらんらしいわ」

羽海野のボヤキに適当に相槌を打ちながら、喜多村は学生時代のバイトで慣らした梱包の技を披露する。あっと言う間にきれいに整えられた荷物を、喜多村は慣れた手つきで「よっと」数個いっぺんに担いでしまった。

「荷造りうまいなあ、ちぃたん」
「ムフン。バイトリーダーもやってたよ。って誰がちぃたんだ」

じゃ出してくるわ。彼の国へ届ける伝票の記入がなによりも複雑かつ面倒なので、喜多村はさりげに出荷を引き受けた。学生時代に若いからと言う理由で死ぬほど書かされた外国便伝票との格闘の日々が、こんなところで役に立とうとは。
荷物を抱えた喜多村が足で引き戸を開けかけたその時。ほぼ同時に開かれた玄関に人影。あ、ちょすみません前が…マミたま!お客さん!バランスを取りつつ喜多村は羽海野に声をかけた。

「あはいはい………っ……!!」

玄関に出てきた羽海野が固まって動かない。
そこに立っていたのは、長めの髪を後ろで一括りにし、日焼けした肌に人懐こい笑顔、喜多村と似た面差しを持つその男性。彼は喜多村の持っていたダンボールをそっと避けると、そのまま家の中へと入っていった。

「やーやーやー変わんないねえこの家!おおただいま真弓!何だいっぱいあんな荷物?俺ウェルカムホームの?」
「…………なん…でお前が…」
「?手紙出したよ?二週間前。携帯もパソコンも事務所置いてちゃっててさー…ストだから中に入れなくて」

マミたま、これ…。喜多村が玄関先の郵便受けに入っていたカラフルなポストカードを差し出す。消印は二週間前。午前の便で届いていたらしい。

【にほんかえりまーす】(一筆箋?)

…え小学生?喜多村はカードと出したであろう本人を見比べる。身の丈サイズ感はほぼ雅宗先輩。そして喜多村パパにすごく似ている。てことは俺に似てる。てことはこれは。

「…あのすいません、羽海野さんの……?」
「そう九十九龍一。よろしくね!真弓のメールにあった喜多村くんよね?」
「そうですそうです」
「すぐわかったよ、だってほぼ俺だもん」

他人の空似って程じゃないけど、親戚レベルはありありだよね。秒で意気投合した二人を横目に、あまりの突然さに頭が追いつかない羽海野。10年、軽くそのくらいは経ってるっていうのに、なに急に帰ってきてこの状況は。それにしてもリウ全然変わんないな。年取らないんか。喜多村くんと並んでるのにきっと年の差倍?なのに。羽海野の指に光る輪の内側に刻まれた「RIU」。それは九十九龍一の名前。

「真弓真弓これさお土産なんだけど………あれ?」
「…あ、マミたま俺帰るわ。なんか鬼丸に会いたくなった」
「なんで院長なんだよ。ていうか居ろよちぃたん(頼む俺が困る)」

ごゆっくりねお二人とも。ニヤつきMAXの喜多村は、ちゃっかりと羽海野秘蔵のあまみ長雲を手に、毛虫睫毛でウィンク(バチコーン)。がんばれマミたま。喜多村は口パクで応援しながら玄関を出ていった。

唖然と立ちつくす羽海野。九十九はいきなりひょいとその体を抱き上げた。ちゃんと食ってんのか?真弓軽うい。嬉しそうに笑うその手は、心なしか微かに震えているようだった。




続きます♡

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後編はコチラ↓


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