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smashing! ガチホラーとおれたちと

佐久間イヌネコ病院。そこで働く佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の友人、結城卓とその恋人・小越優羽のマンション。

「…ギャーーーーー!!」
「ウアーーーーーー!!!」

今夜は結城宅で改めて明太子食べ比べ丼の会。メンバーは結城、小越、佐久間と喜多村、そして雲母。伊達は珍しく夜勤につき涙の不参加。メーカー別明太子数種類と、九州物産展で入手した限定焼酎を堪能しながら楽しむのはテレビ番組。
結城と小越が大好きな、心霊特集である。


「うしろうしろうしアッーーーーー!!」

二人に加わったのは喜多村。三人で団子状態でソファに固まっている。そんな怖いんならなんで観るんおまんら。佐久間と雲母はサシ呑み状態で温かい目で三人を見守る。

「ハルさんはあれ好き?」
「…好きとか嫌いとか、はないですね。ただ僕は目に見えるもののほうが怖いかなって思うので。ンフフ…」
「ねえそっちのが怖いハルさん」

バラエティ番組でよく組まれるこの手の特集。ほとんどがおフザケで取るに足らない楽しいものばかり。友人がいなくなったとか危機的状況なのに録画し続け歩くとかないし。登場するユーレイさんみんなサダコとかカヤコ。全員白ワンピ。

「もしかして鬼丸くんは、視えたりする?」
「視えないけど、感じることはあるかな」
「祓えるタイプだったりして。視えちゃうと、避けられないとき多いから」

雲母はいつものように麗しく微笑んではいるが、何故か目が笑ってない。相変わらずテレビの前の三人は騒がしく、それでも流れてくる番組からのなんらかの気配に、二人の間に少し緊張感が走る。

「…何か後ろ頭がヘンな感じする」
「さすが鬼丸君。僕にはまだ視えない」
「これは…あいつらあんまり見ないほうがいいかな」

俺ちょっと行ってくる。佐久間は三人に気付かれないようにリビングを出た。笑い事で済む企画とそうじゃないのって実際あるような気がする。そんなガチのやつを放送流す前にお祓いしたところで、祓いきれるという保障などありはしない。迂闊に観てしまったらそれこそ後の祭りだ。佐久間の背中を見送りながら、雲母は画面を見ないように、互いのグラスに焼酎をそっと注ぎ足す。

その時。リビングの電源がシャットダウン。

【【【ギャーーーーーーーッッッ!!!】】】

テレビの前の三人はほぼパニック。その中でもなんとか理性を保った喜多村は、すぐに佐久間の姿を確認しようと携帯のライトを付け、辺りを照らした。

「…ハルちゃん、鬼丸は?」
「お手洗いだと思うよ」

しばらくしてリビングの明かりが付く。半泣きの結城と小越は、リビングに戻ってきた佐久間に驚き悲鳴を上げた。

「ごめん〜うっかりブレーカー触っちゃった…」

何それ!うっかり触れるようなとこにブレーカーないよ!結城がニヤつく佐久間にヘッドアタックをかましつつ抱きついている。ごめんごめん。なんか作ったるから勘弁して。結城を連れてキッチンへと佐久間が向かう。…あれ?ママかな?雲母は思わず吹き出す。

再度付けられたテレビからは、全然関係の無い他の動画が流れていた。心霊特集の次は癒しのペット特集。なにこのムチアメ展開。
怖かったねハルさん。半べそをかく小越が雲母の隣に座る。彼を小脇に抱えてやりながら、彼のグラスにも焼酎を注ぐ。ンフ…これはこれで、僕にとってのアメですねンフフ…。

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「…ちょっと怖かったなテレビ」
「そうか?千弦怖がりだもんな」
「怖がってないし。鬼丸いなくなったから心配しただけだし」

仕切り直しで癒しのペット特集を楽しむ五人。結城と小越はハルちゃんの両脇を占拠。雲母は天にも昇る酔い心地。喜多村は佐久間の隣で横になって腰に抱きついていた。佐久間の作った葱ともやしとロースハムの和えたやつ。あとスライスチーズを韓国海苔で巻いたの。急遽追加された肴で皆の酒もすすむ。

「ね卓、そんな怖いの好きなら俺の実家行く?」
「…え。鬼丸の実家怖いの?」
「怖くはないけど、ガチのやつばっかあるから」
「…ギャーーーーー!!」

佐久間の膝に頭を預けたまま、喜多村は思った。鬼丸は確かにザルだけど最近分かったことがある。こいつにとっての酔い、ひょっとして相手の怖がるのが嬉しくなるのかな?
ひょっとして鬼丸さん、Sなんかな…?
仲間内でゴールデンウィークの算段が進んでいく気配を感じながら、ひょっとして鬼丸の兄ちゃんに会えるかもな。なんとも幸せな笑いがこみ上げてきて。佐久間の言っていた「ガチ怖いブツ」があの寺にある事実など、喜多村はすっかり頭にないのだった。




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