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smashing! おさがりはけいかくてきに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。

ONの佐久間はいつも草臥れた白衣を身につけ、ほぼ年中下駄履きで過ごす、いわゆるレトロスタイル男子。
佐久間が気に入って着続けていたヨレヨレの白衣が、ついに使い物にならなくなった。患畜が佐久間の袖をじゃれて引っ張ったとき、あっさり肩口から袖が抜けてしまったのだ。これは、いくらなんでも新しいのにしないと。だがこの白衣、肌馴染みが良くなったころに寿命を迎えてしまうもので、次々と役目を終えていく白衣達の、これが最後のストックだった。これから数ヶ月なり数年かけて新品を着倒して育てていかないとならない。

心無しかしょんぼりして見える佐久間を、喜多村は薄手のスクラブを勧めたり、柔らかい生地の白衣のメーカーを探すなどするうち、オーダーメイドがいいんじゃないかという話に。
ただ何でもかんでもオーダーはあれだろ、ウチにもいるよね。フルオーダースーツの化身が。言わずと知れた例の税理士。その雲母ハルちゃん宅の、第5まであるというウォークインクローゼット。一体何着あるのか本人も数えたことがないらしい。最近はもう一人、通いとは言え伊達先輩というかぶき者が増えたから、あの家そのうちクローゼットで埋まるよね。話逸れたけど。
その雲母が「オーダーはどうしてもお値段が張りますね」そう言ってたんだ。佐久間は恐る恐るオーダー白衣を検索。そんで秒でページを閉じた。

「千弦、俺これから普段着も寝間着も白衣にすっから。お前も協力して」

佐久間の目に浮かぶ鬼気迫る決意。焼酎は高くても買うのに。もちろんそんなこと思っても喜多村は口には出さない。その時玄関がワンノックオープン。今噂してた伊達雅宗が手土産下げて入ってきた。

「帰りにこっちで用事あったから来ちゃった!…って…どしたんお前ら」

何故か渋めのアロハにヴィンテージジーンズのチンピラなかぶき者(伊達)。うわ信じらんない。外28度なんだけど。並んで買ったと言う美味しい水まんじゅうを二人に渡す。佐久間も喜多村も、エアコンはついているが素肌に白衣という異様な格好で寛いでいたのだ。佐久間はまだいい。千弦さそれサイズ小っさくね?それでも「俺の着倒したやつを鬼丸が着るかと思うともう感無量」などと厳かな表情で呟いている。よかったね。伊達はなんかもらい泣きしそうになりながら喜多村を宥めた

「なに、白衣なら俺いっぱい持ってるけど」

なんと。ここにも白衣のお医者さんがいらっしゃったの忘れてました。ここで勤務の時はスクラブ装備だったから。伊達は170cm、佐久間は174cmだから身の丈も合いますね。

「ちょっと待ってて。家行って持ってくるからさ」
「ありがと雅宗先輩!後で何食べたい?」
「唐揚げに佐久間のタルタルかけたやつ!!」

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約2時間後。伊達は両手に大きな紙袋を下げ佐久間の家に戻ってきた。佐久間と喜多村は唐揚げたっぷりと佐久間特製玉ねぎタルタルソースを乗っけた丼を用意。早めの夕食を三人で食べ、早速伊達がお古の白衣をお披露目する。

「まだ着れそうなの全部持ってきた!」

袋を受け取った佐久間は満面の笑顔で伊達に向き直る。二十着以上のお下がりがこんなに喜ばれる日が来ようとは。伊達はちょっと複雑だけど佐久間に喜ばれたのが嬉しかった。

「これから白衣くたびれたら持ってくるわ」
「すいません先輩。助かります…もうちょっとでオーダーに手出すとこだった…」
「え?俺の全部オーダーよ?」

【【 え? 】】

中身を確認した二人は震撼する。白衣の裏側、外から糸が目立たないような高度な加工。細い白金の糸で思い切り刺繍。ドラゴン?シャクヤク?ナニコレ特攻服みたいな?綺麗だけど、ネーム入りじゃないから助かるけど、かぶくにも程がないか。縫い目も滑らかな生地も申し分ないが、あんたよくこれで勤務してたね。呆れる喜多村。

「裏っかわね、怒られないからどうしても凝っちゃうんよね」
「そもそも裏地なんてないのに」

佐久間は無言で試着を始めた。やはり新品のがさつきに耐えられないらしい。誂えたみたいにしっくりくる伊達のオーダー白衣。着心地最高。裏かぶいてても気にしない、ていうか主君はこうあるべきですよね先輩。寝返る佐久間。何枚かを合わせた後、ふと佐久間の手が止まった。あれ?なんかちょっと汗ばんでる?

「…伊達先輩…これ、私物…?」
「え?全部俺んだけど…あ…」

佐久間が袋の奥から引きずり出したのは「白衣・ナース服」だった。

「雅宗先輩…あんたの趣味が…」
「ちがっ!ちがうの!俺んじゃないの、あ、いや、俺んだわ…」
「…4着もある…」
「なんで計ったようにレディスLLとLなん。俺らのサイズじゃん」

去年くらいに宴会かなんかの出し物で設楽とあと先輩2人と着たのだという。それきり仕舞ったままで白衣に紛れてわからなくなっていた。確かに殆ど使用感もなくぴっちりと畳まれていたが。ここで喜多村の目が怪しく光った。魔神降臨。てか何度目だ。

「…着るしかないだろ…鬼丸」
「…へ…ぇ?…」
「そうよ、これもう全部お前のなんだから。着てよ鬼丸ぅ」
「あ、雅宗先輩もだから」
「…へ…ぇ?…」

二人は同時に喜多村を見た。あ、目が据わってる。喜多村がこうなったら手が付けられないことを、この二人は身を持って知り尽くしていた。

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「なんか…ほんと雅宗先輩て、こういうの似合…」

うん…可愛くないはずなのに可愛い。おいなんで今日ビキニパンツなんだ。脅威の三十路。その傍ら、魂が抜けたかのごとく棒立ちの佐久間に抱きついてセルフ連写する伊達。ノリノリか。あ、そうだこれは。呼ぶしかなかろう。合わせコス大好物のメガネくん。

ー 白衣合わせ !? うわあ楽しみ…すぐにお伺いしますね!ー

コスプレ好きにはたまらない「白衣コス撮影会」のお誘いに、雲母の弾んだ声が返ってくる。ハルちゃんのもあるからね!喜多村は笑いを堪えながら電話を切った。大丈夫ナースも白衣だから。間違ってないから。

雲母はきっと小躍りしながらここへ向かっていることだろう。あと小一時間後には、笑いの渦の中で悶絶する己の姿など予想だにせず。





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