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smashing! きみをはばむものを

佐久間イヌネコ病院、佐久間鬼丸獣医師&喜多村千弦動物看護士の友人、雲母春己・税理士。彼は少し前から、佐久間達の先輩である伊達雅宗・理学療法士と付き合い始めたのだった。

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「伊達さん大丈夫でしたか?」
「ありがとハルちゃん!やーまいった。急に雨降ってくるから」

伊達さんは週末になると、鬼丸くんたちの病院に週一勤務でやってくる。前日入りすることで必然的に酒が入るため、病院に来るときは伊達さんは電車を利用する。僕が鬼丸くんちに迎えに行くとき、時間があれば夕食を皆と一緒に食べられるけど、ここ最近僕が忙しかったので伊達さんは僕の家に先に来て、夕食なんかを支度してくれている。

今日はマンションのエントランスで伊達さんにバッタリ会った。急な雨でお得意様からキャンセルを頂き、久しぶりに早めに帰宅出来たのだ。一緒にペントハウスへの直通エレベーターに乗る。伊達さんは基本傘を持たない人で、よく雨に降られてはびしょ濡れで僕の家に来たりするんだ。風邪はいけないので、急ぎバスルームにお連れする。

彼が戻ってくるまでに温かい飲み物でも。先日、卓さんが、インスタントだけど、きんちゃんに貰ったやつだからすっげえおいしいよ、と置いていってくれた粉末の生姜湯。金鳥不動産社長・きんちゃん、僕のお得意様でもあるが、あの社長のお気に入りなら市販のインスタントの数倍は下らない、味も甘すぎず金時生姜の風味が素晴らしい。

「お先!いいシャワーでした!」

風呂からものの数分(体感)で上がってきた伊達さんに生姜湯を勧めて、次は自分の着替えに。うわっこれうんめ!リビングの方から大きな声。伊達さんがいると賑やかになる。心の中も温かくなる。
スーツ類はラダーハンガーに掛け、あとはランドリーバスケットに放り込む。浴室に入ると、バスタブにはちゃんとお湯が張られていた。伊達さんシャワー使ったって言ってたのに。使った様子のないバスタブのお湯には、僕の好きなレモングラスのバスソルト。

身体を洗い、バスタブに身を沈める。ちょっと熱めで丁度良い温度。暫くしてバスルームのドアに影。伊達さんだ。もっかい俺入ってもいい?ええもちろん。そう答えるとそっとドアが開き、伊達さんが入ってくる。こそこそと。何故に?
掛け湯だけしてバスタブへ。いつも座るときのように僕を背中側、座椅子みたいにして寝そべりうんと足を伸ばす彼。きもちー。僕の肩に伊達さんの顔が乗っかって、そのまま触れた唇。もっと深く長く、負荷掛けるように。

「ハルちゃん今日帰り早かったね。かなり嬉しい」

週一か二。僕の家に伊達さんがやってきて、こうして優しくて楽しい時間を過ごす。僕のペースを尊重したいんだと、伊達さんは同居を持ちかけたことがない。会えない時間が愛を育てるんだ。って、ちょっとよくわからないこと言ってたりするけど、僕は時折思うようになった。伊達さんが居ないと、ちょっと調子が狂うなって。

長く深いキスの後で、伊達さんがいきなり身体の向きを変え、僕を抱えるように後ろに回り込む。考える間も与えられず、よく知る熱が入り込んでくる。ごめん、あとでうんとお仕置きして。伊達さんの掠れた声が耳元に落ちる。
手足も身体も自由の効かないバスタブの中、動きもままならないというのに、精神が高揚していくのが分かる。僕は何故、いつもにように「制止」できないんだろう。今までなかった。こんな。
主導権をあっさり渡してしまえるなんて。

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またひとつ、ハルちゃんの城壁を崩した。

もう少し。あともう少しで。
手に入れられる。ハルちゃんを、全部。

伊達は雲母のすらりと白い首筋に、痕をつけないよう極力注意を払いながら。

そっと、歯を立てた。



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