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smashing! そのこえでよんで 後

一度だけ目線が合ったような気がした。

兄の泰造が言っていたその言葉。広告代理店で行われた取材時。その時は約10名程が同席していたという。白河の席からはほぼ見えない奥まった席。いわば僻地に座っていた兄のことを、果たして白河は覚えているだろうか。泰造は昔から消極的で存在感も薄く、皆にも心配されていた所がある。不器用だけど優しい兄。

病院の昼休み、天ぷらうどん定食を食べながら伊達に相談、そして雲母にも連絡。お見合いみたいでワクワクしませんか?伊達と設楽の『親代わりだった先生を取られるとかないのかな』的気遣いなど無用だったかのように、雲母は至極嬉しそうに贔屓の料亭や隠れ家的呑み屋をセレクト。そしてちょっ早で整えられた、所謂お食事会の席。

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雲母のマンションからほど近いお洒落な居酒屋。個室も完備しており、こういった案件にはピッタリ。アンティーク調の店内は白河の好きそうな調度品がそこかしこに並んでいる。重厚な雰囲気とは逆のだいぶ砕けた感じの店内、雲母のメールで引き合わされたのは、本日の主役二人。

「…どうも白河です。はじめまして、かな?」
「わざわざご足労いただきまし…実は先日、情報誌のインタビューをさせて頂いた席で…」
「それは失礼を。たしか、シガラキ君のご家族と伺いましたが」
「あ、設楽です。設楽の兄の泰造といいます」

いまひとつ噛み合わない挨拶の後、奥まった個室へ。白河は好きな地鶏や野菜、シングルモルトを。あまり外呑みをしない泰造は勝手がわからずビール、そしてよくあるコロッケや枝豆を。お兄さんの好みはスタンダードだね、グラスの中の氷が緩やかな音を立てる。ああこの時のために俺はここにいる。心の底から湧き上がる確信じみたものに突き動かされるように、あなたの笑顔をずっと俺に向けて欲しい、気づけばそう告げていた。泰造にとって一世一代の告白だった。やはりこんな出来すぎた人には直球なんて単純すぎて通用しないのだろうか。黙ったまま泰造の話に耳を傾けていた白河が、小さく呟いた。

「ありがたいことだ。しかしだ、私はおそらく君とは付き合えない」
「俺が、こんな陰キャだから…」
「いや、君の人間性を揶揄しているわけではない。悪く思わないで欲しい」
「俺は」

ただ、あなたの事が。

泰造の声にならない想いは、白河との見えない壁の間で脆くも散っていく。時間が止まったかのように思えた。何も動かない、何も動かせない。何も変わらない。俺はいつだって大事な時には、いつもこうだ。

「だが、友人としてなら如何だろう?自分より年若い友人が出来るのも久しぶりだ」

突き放されることより、日和ることを選ぶ訳は『それでもいいから関わっていたい』。嫌われた訳じゃない。何もないところからマイナスになるより遥かにいい。この人の側にとりあえず『友人』としていられるのなら。

「私にとって大事なものはね、ハルなんだ」
「雲母さんは伊達さんと…」
「ああ誤解しないでくれ。ハルは私の息子だからな。もちろん、伊達くんも、君の弟でもあるシガラ…設楽くんもだ」

まずは息子達のように。そして気の置けない友人として。白河の少し困ったような表情が、泰造の胸に熾火のように灯る。泰造は何も言えなかった。だがそれはこの先を道を照らす『灯』となるに違いない。白河の酌をグラスで受けながら、泰造は満ちていく優しい想いに安堵した。

そしてもう一つ、重大な決定的事項。

「泰造くん、君はおそらく…」

確かに俺はネ…受です仰る通りです。って、何故お解りに?

私はおそらく君とは付き合えない。その言葉の本当の意味に、ようやく気付いた泰造なのであった。




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これにて了!受受同士だったね!💖

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