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smashing! ふれたいときはすぐそばに
佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
来週からは彼岸入り。連休は飛び石ですが来週は、火・水(午前)のみの診療です。
今日喜多村と佐久間は、少し離れた街にある医療機関の知り合いに招かれ、顔合わせのプチ会議、そして新しい取扱フード等の紹介を兼ねたくさんの試供品を譲ってもらえることにもなった。朝イチから夕方にかけてとはいえ、二人揃っての出張は初めて。
「鬼丸あれ!すごいよ屋台!こんなの久しぶりに見た」
電車を降り、夕飯を食べて帰ろうと駅前の繁華街に。丁度入り口に位置する広場に並んだ屋台。その中でも古めかしい一台に並ぶのは焼き鳥中心の焼き物。炭火の香ばしい香りが漂い、二人はうっとりと操られるように粗末な椅子に座った。
「…昔さ、おじいちゃんに連れてかれたわこういうとこ」
「イケないおじいちゃんな」
「そうそう。幼い孫連れて呑みにね」
希少部位はあまりない。そのかわり定番のつやつやのカシワや鶏皮がこれでもかと誘惑を仕掛けてくる。二人は焼き鳥の乗っかった小さな丼と、串を数本、そして今日は珍しく日本酒を冷で。黙って丼を口にする。同時に見開かれた目。ヘドバンの勢いで頷き合う。ウマいウマい。二人はもはやその一言しか発しない。
けっこうな量食べて呑んで。料理を撮った画像を逐一、雲母に送ることにしている佐久間。「美味しいもの食べたら僕に教えてください」なんてお願いをされているのだ。けっこうガチめに。
「で、これとこれ…送、信♡と」
「マメだな〜鬼丸、俺今思い出したもん」
「ハルさんからのお願いって、あんまないから…結構頑張っちゃうよね」
屋台を出て、賑わしい繁華街を歩く。着慣れないスーツもお互い直視しなければ大丈夫。「ステキカコイイ」の魅了の避け方はもういいかげん心得ている。二人の家目指して。手を繋いで指絡ませて。
また明日。そんな常套句は必要ない。会いたい人に会って、そして別れ際に心千切れる感覚を、佐久間たちは味わわずに済んでいる。楽しく仕事して、帰り一緒にご飯食べてたらふく呑んで、そのまま一緒に家に帰る。住む場所が同じ。そんな単純なことが叶うまでに10年近くもかかってた。
あの時間がどんなだったかもう忘れてしまうほど、空いた距離も過ぎた時間もとっくに埋まってしまったけれど。
夜の繁華街、手を繋いで歩くスーツ姿の野郎二人のことなんて、周りもほぼ酔っ払い同志、誰も気にしちゃいない。大通りに差し掛かる前、アーケードの片隅で素早く触れるだけのキス…しようと思って同時に鼻をぶつける二人。
「同時は無理だな、なかなか」
「え無理とかじゃないし。鬼丸がもうちょっとゆっくりなら出来たし」
そういうのをなんとかの遠吠えっていうんよ。すると大きな体を縮こませて遠吠えの真似する喜多村魔神。周りに人が少ないからと自分に好き放題しようとするのを、佐久間はその脚の間に膝で割って制する。
「…帰ってからにしよ、じゃないとこないだみたいに」
「また鬼丸を自販機に激突させちゃうな」
「う…ん、ていうか…その」
また、おあずけみたいになっちゃたら、俺もつまんないし。
喜多村性欲魔神降臨(奇跡的に脱衣せず)→秒で佐久間を担ぐ・この間0.02秒→自宅まで暴走(疾走)
愛より重いものはないなんて、上手いことを言うなあ、喜多村の背中で揺すぶられながら、佐久間はぼんやりと思ったのだった。
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