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smashing! あててあてられるふたり

佐久間イヌネコ病院、佐久間鬼丸獣医師&喜多村千弦動物看護士の友人。
雲母春己・税理士。

今日は初めてのお客様の所にお伺いする。予定より早めに到着し、近くのカフェやなんかで待機。大体5分くらい前にお邪魔して、事務所やご自宅に通して頂く。
ここは大きな日本家屋。このあいだ伊達さんの家に行ったとき、その佇まいにとても感動して、日本家屋もいいなって思った。僕の家は宮殿みたいなデコラティブな内装だけど、ちょっとだけ和テイストにアレンジしてみてもいいかな。檜の香り、ひんやりした畳の心地よさ。あの家のように周りに竹林や綺麗な小川はないけど、プロジェクターで雰囲気だけでも出せたら素敵だろうな。

書斎での話し合いと資料の整理を終え、通された客間。こぢんまりとした日本庭園が見える。静かで落ち着いた雰囲気。僕の友人で庭師・小越優羽くん。先日、僕の家のルーフバルコニー部分を空中庭園にしてもらって、とても満足しているんだ。若干20才であの腕は素晴らしいと感動する。お花のセレクトや、人への気の遣い方。恋人の結城卓くんが彼より少し年上だからか、同年代の男子よりも数倍気が利く。思いやりがあって、目から鼻に抜ける聡明さを持つ。スパダリ。スパダリだね。僕の君主もとんっでもないスパダリだけど、あの若さであれならもうとんでもない逸材だと思う。

そういえば優羽くんには最近会えていない。皆とのご飯会もちょっと時間が合わなかったり、僕の家に庭園のメンテに来てくれる時に僕が不在だったり。こんな庭を見ると思いだす。そうそう、今、庭に出ておられるあの庭師さんみたいな…

「あれ?」

見知った顔が。慌てて縁側のガラス戸を開けると、そこには庭師姿の優羽君がいた。

「うわハルさんだ!どうしたのお仕事?」
「ご無沙汰です優羽君。これからお庭の剪定ですか?」
「ううん、終わって片付けたとこ。ハルさんは?」
「後はここの旦那様にご挨拶して、終わりです」

ハルさんの都合がよければ、俺をハルさんちに連れてってほしいんだ。どうしても気になる寄せ植えのとこ、大丈夫かどうか見ておきたいんだ。優羽君の申し出、受ける以外に僕に選択の余地などありませんよ。

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「ああよかった、やっぱり思った通りだ」

優羽君は持っていた剪定用の鋏でいくつかの寄せ植えを整え、土周りをチェックして戻ってきた。花が多すぎたのと、しおれたものがそのままになっていたから。庭師の時の優羽君の目は、いつもの黒柴の可愛いそれでなく、ボーダーコリーみたいに鋭くて落ち着いている。

「ありがとう…綺麗にしてくれて」
「あ、大丈夫!俺がこだわってるだけだから」

その時、急に玄関が開いて、いつものように伊達さんが入ってきた。ふらふらして、さてはご機嫌な状態ですね?

「たんだいまあ〜ハルちゃ〜!なんかねえ知り合いみたいなおっちゃんがね奢ってくれたん…」
「奢って貰うのは、知り合いだけにしてくださいね?ああ、お土産ありがとうございます…」
「あはあ、優羽くん、ひさしぶりん…」

伊達さんは満面の笑顔で優羽君に抱きついた。優羽君はちょっと困った顔で笑いながらされるがまま。と思ったら、ひょいっと伊達さんをお姫様抱っこしてリビングまで運び、ソファーにそっと座らせた。伊達さんの目がハートになってる。スパダリ。どういうことでしょうこの雄み。

「優羽君よかったら、僕のご飯食べてくれますか?」
「あ、いただきます!」

優羽君の携帯が短く鳴った。画面を滑らせる指が止まる。え?急に雰囲気が変わったんだけど。優羽君はゆっくりと顔を上げ、あらぬ方向を見つめながら低い声で言った。

「…ハルさん伊達さん、ごめん俺帰らなきゃ…」
「急用だったんですね、こちらこそ引き留めてしまって…」
「次は絶対、ハルさんご飯いただきます、ね?」

涼しげな目元が細められる。僕が見たことのないその顔つき。手元を盗み見ると、画面に映っていたのは卓君。
丁度、見た者に抱き付いているような角度の、自撮り。

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優羽君を下まで送って、そのままエレベータで上に戻る。あの画像を送ってきた卓君は凄い。優羽君は彼に引き寄せられる只の男子になっていた。ある意味、本当のスパダリは卓君、彼なのかもね。

「ハルちゃん〜」

玄関を開けたら、伊達さんがひらひらと手を振っている。あれ?泥酔していたのに。酔ってないよ俺今日飲んだの3%だもん。伊達さんは僕の手を取りリビングのソファーに座らせ、膝の上に乗っかって腕を回してくる。珍しい。こんな風に余裕のない、あなたは。

「何かさ、優羽君のさっきの顔見たら…」
「…どうしました?」
「ハルちゃん、今日俺のこと…  いてほしいん…」

ああ、スパダリな二人に煽られちゃいましたね。伊達さんが自分から「くる」時はまずはお風呂。それも一緒に。やっぱり僕たちっていつもお風呂入ってません?


伊達さんと僕、そしてあの二人も。今日は眠れないかもしれません、ね。



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