見出し画像

smashing! おまえをたよるこころ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
明日水曜の診療は午前中のみ。

火曜水曜はすこし羽目が外せるせいか、友人達と呑み会をやったりするが、久しぶりに今日は二人きり。軽く呑もう、そんな流れになって。佐久間の好きな古い洋画やなんかを観ながら、とりとめの無い話をする。今日の映画は「太陽がいっぱい」。
ザル・佐久間のピッチにつられないよう気を付けてはいるが、そのうち喜多村の挙動が怪しくなり、佐久間が軽いつまみを持ってキッチンから戻ってくると、ソファの背もたれに身体を預けてうとうとしていたりする。喜多村の身体をそっと横たえ、佐久間はちょっと狭くなった端っこに小さくなって座る。別の所に座れば良い話だが、喜多村が無意識に手探りで自分を探すから。そんな理由がある。

映画に見入っていると、いつものように喜多村が佐久間を探して手を伸ばし始める。触って、そこに居ると確認して、また動きが止まる。喜多村が触れてくる度に、佐久間は喜多村の頭を緩く撫でる。
いつだったか、寝入った喜多村をそのままにして別室で用事を片付け、戻ってみると彼は不安そうに辺りを見回していた。その顔が、佐久間の姿を見つけると途端に明るくなる。なんだよもう何処行ったのかと思ったよ。軽口を叩くいつもの彼に戻る。小さい頃お父さんが家を空けがちで、いつも家政夫さんと一緒にいた。そんなことを言っていたのを思い出す。
不安の形は人それぞれだけど、それを感じる気持ちは皆同じだ。自分同様、ゆっくりと真綿で首を絞められるように、暗い氷の檻に幽閉されるように、ありえないけど静かに迫るその恐怖。
たった一人の不安。大勢の中での不安。佐久間はその痛みを互いに同程度に感じ取ることの出来る喜多村を、今では何よりも大切に思っているのだ。

テーブルの上、ワインクーラーの中に突っ込んであったビール缶を、そっと喜多村の頬にくっつける。びくっと身じろいで目を覚ます喜多村。こんな早く寝ちゃったら俺つまんないよ。佐久間が少し甘えてやると、喜多村は途端に起き上がる。俺はこれから全力出すタイプだから。わけわかんない事言いながら掠めるだけのキス。だけど。

自分より相手のためにブースト発動できる。そして足らない部分は全力でもって頼る。がっつり甘える。そんなガチバトルみたいな触れ合いができて、俺すっごい楽しいし嬉しいんだ。言葉でなんか言えないけど。言えやしないけど。

今日も佐久間は不器用ながらも全力で、本音で、体ごとぶつかっていくのだ。喜多村が喜ぶように、ずっと安心しててくれるように。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?