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smashing! せんせいのおつかい

佐久間イヌネコ病院・佐久間鬼丸獣医師。
本日は喜多村千弦動物看護士と伊達雅宗理学療法士(獣医師免許有)に病院を任せ、佐久間はお遣いの旅に出された。

「たのむって~!俺ら本当に行きたかったの!」
「そうなの!鬼丸!明日でセール終わっちゃうのそれ!」
「だからって院長自らが休んでそこいくとか。俺一人で大丈夫だからお前らで行っといでよ」
【【鬼丸じゃないとだめなの!】】

明日の勤務に何故か前日入りする伊達。大勢で食べた方が美味しいから、そんなことをいいながらレアな食材とお泊まりグッズ一式持って家にやってきた。ジビエこれたぶん鹿肉、頂き物のベルーガキャビア。ていうか高級食材なんでこんなに持ってんですか。そして先輩手作りのめちゃ旨いずんだ餅。佐久間は昔から伊達のずんだが大の気に入りだ。

「ね、ジビエは焼いたげるしキャビアのっけるクラッカーは持ってきたし、ずんだは鬼丸全部食べていいよ。あ、これさ国産のジン、季の美ね珍しいやつ。だから…」

食べ物に釣られた訳じゃないけど、もう引き受けるしかない状況。さらに酔った喜多村と伊達の泣き落とし。二人のダブルお強請りの圧に、佐久間は渋々折れるしかなかった。

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くっそあの二人何なん。ずんだ美味しかったけど。仕事は全然任せられるけど。突然湧いた休日、ていうかお遣いな。今日の佐久間は流石に白衣ではなく、厚手のロンTにネイビーのポロコート。少しだけきちんと見えるのが格好いいからと、伊達が貸してくれたのだった。
佐久間はお使い先のビルへと急ぐ。頼まれていたのはトレーディングアクリルスタンド、もちもこぬいぐるみ。どちらも今仲間内で流行りつつある、領域を展開したりするアニメのやつだ。俺はてっきりどーぶつたちの森の方かなと思ってたけど。
ナビに従って歩いていると、何故かそういった2次元的な店を通り過ぎ、見るからに高級そうな通りにさしかかる。あれ俺また道間違えた?動揺しながらも辿り着いた店の前。重厚な扉にごく小さな文字で表記されていたのは「Men's beauty treatment」の文字。

「…これ絶対違うよな…」

たじろぐ佐久間。と、いきなりその扉が開き、中から現れた彫刻のような容貌のメンズ数人が、佐久間を取り囲み声を掛けた。

「いらっしゃいませ佐久間様。ご予約は承っております。どうぞ中へ…」
「へ、ご予約、してないです、けど、えちょ待って…」

佐久間の声なき声が、静かに扉の向こうに消えた。

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「雅宗先輩、鬼丸大丈夫かなあ」
「大丈夫大丈夫。ああでもしないとあいつ絶対受けてくれないもん、ああいうサービス。気持ちいのにさー」
「誰か他の男が鬼丸に触るのが俺…」
「やだなあただのエステだよお!お前髪切りに行くのも妬くタイプなの?」
「そんなことないけどさ…」

伊達は色々な付き合いの中である日、あの店を紹介された。とにかくつま先まで全身ピカピカにしてもらえるし何より疲れが消し飛ぶ。どうやら佐久間はマッサージの腕がいいらしいけど、自分の身にはできない。常々喜多村は佐久間を癒やしてやりたいと言っていた。そこで伊達は「物理で行こう」と提案したのだ。全身つるピカの鬼丸見たいだろ?悪戯っぽく笑う伊達に、喜多村は少しだけテンションが上がるのだった。


診療時間が終わり、雲母春己が伊達を迎えに来た。どうやら伊達の出勤→雲母宅でムフ、をルーティーンで考えているらしい。

「雅宗先輩の目、ハートんなってるね」
「今からいっぱい褒めて貰えるから。いいだろ千弦」
「あんまりおしゃべりが過ぎるとお仕置きですよ?伊達さん」

ひゃあんっとか言いながらも大喜びでついて行く伊達。あれ先輩ってあんなキャラだっけ。雲母ハルちゃんは「まだ攻略中ですンフフ」なんてウィンクしてくる。二人を玄関で見送りながら、そのままそこで佐久間の帰りを待った。しばらくすると、リイコが鼻を鳴らす。公園の曲がり角、見慣れたふわふわの茶色い頭が揺れる。


「ただいま…」
「鬼丸、今日はごめん騙したりして。でも俺らゆっくりして欲しくて…」
「いや、ありがとう千弦。先輩にもメッセージしなきゃ。すっごい、気持ち良かった、よ」

佐久間の手を引き、喜多村は玄関の扉を閉める。佐久間を壁に押しつけ抱き締めると、馴染みのない花の香りが鼻を掠める。施術とは言え、自分が言い出したとは言え、佐久間に誰かが触れた。そのことが頭から離れない。

「千弦の考えてること、なんかわかるよ」
「…言ってみて鬼丸」

喜多村の喉が、鳴る。

「お前も隅々まで綺麗にしてもらって、マッサージしてもらいたいんだよな?」

…アレ?

「ほんとごめんな気付けなくて。今日さ色々教えて貰ってきたしオイルも分けてもらったし、いまからしてあげるよ千弦!」

…鬼丸さん…?

固まったままの喜多村を半ば引き摺るように、超絶エステで完全回復した上機嫌の佐久間は、鼻歌を歌いながら浴室に向かうのだった。




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