![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/48924119/rectangle_large_type_2_1981e170a2db7af383849ef6f3608222.jpg?width=800)
smashing! いつもかれとそばに
佐久間イヌネコ病院・水曜。午前のみの診療を終えて日が暮れて。
自宅の猫達の世話を終わらせ、けっこうな量のお酒や食料を買い込み、佐久間と喜多村の友人・結城卓がやってきた。犬のリイコを散歩に連れ出したり、病院周りの掃き掃除を手伝ってくれたり。ここに長居をしがちな結城なりに気遣っているのだろうが、なんか夏休みのお手伝いみたいだな。今日は薄手のプルオーバーパーカーにオーバーオール。ますます●学生ぽい。
「卓、優羽は?あいつも飯呼んだげなよ」
「優羽ね、植木屋さんとこのお手伝い。明後日くらいまで帰ってこないの」
「そっか。今日豆ご飯な」
「うわすき まめごはんすき」
エンドウ豆とひじきのご飯、焼き塩サバ、千両ナスとプチトマトの味噌汁、喜多村特製ぬか漬け牛蒡が本日の夕ご飯。色は渋いけどすごい美味しそう。結城がリビングで大喜びしている。ちょっと早いけど呑んじゃおっか。佐久間は冷蔵庫に入っていた缶ビールを取り出す。
「え珍しい!鬼丸がビールとか」
「変わってるの見つけると買っちゃうんだ」
「千弦が?」
「アハハッ。そうそう」
佐久間の手には500缶のサクラビール。限定大好き喜多村の獲物。ケースで買ったみたいだからどんどん呑んでいいよ。結城は缶を開けてそのまま一気にあおった。漢らしい。
「今日は千弦も遅くなるから、ゆっくりしてったらいいよ」
「ねいつもご飯の時何観たりする?配信」
「卓観たいのあったらいいよ?舞台?」
「今優羽とハマってるのあってさ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「で、優羽がそう言うから俺が…」
「そうだよな。ね卓、おかわりは?」
「いるぅ…」
殆どの人間は、佐久間とサシ呑みするとペースが乱れる。どれだけ呑んでも顔色も態度も変わらないので、自分もまだ大丈夫だ、と錯覚してしまうのだ。結城もかなりのザルだが、それでも気付くとけっこうダメージを食らってたりする。佐久間は時々キッチンに立っては、結城の外見と反比例したちょっと渋めの好物、塩辛和えなんかを作りに行く。そのうち結城が潰れてソファーに沈む。
結城の恋人の小越優羽は庭師をしている。日没と共にほぼ作業を終える仕事なのだが、請け負う仕事が多岐に渡るため今日のように帰りが遅くなったりすることが多かった。結城はこんな少女めいた形をしているが元大手不動産会社のエリート営業。確かにこれほど「仕事」に対して理解のある彼氏もいないと思う。
「でも寂しがりだからなあ…」
結城のふわふわしたマッシュヘアをそっと撫でながら、いつも勝ち気で強引で、誰よりも漢らしい彼のことを少しだけ心配した。あまり眠れていないのかもしれない。ここに猫も全部連れてくればいい。佐久間は何度も勧めた。でも彼は毎回同じ事を言うのだ。優羽が帰ってきた時に誰も居ないと淋しくさせちゃうよ、と。
携帯にメッセージ。喜多村の【もうすぐ帰る(ハートハートハートハートキス)】そしてもう一通は小越から。
【鬼丸さんすみません。今から卓迎えにいきますね!】
仲間内で最年少、20才の優羽らしい、敬語の混じったそのメッセージから何故か溢れ出るパパみ。横ですやすや眠る結城を揺すって起こしてやって、佐久間は再びキッチンに向かう。
なにか美味しい物を作って差し上げようか。今から結城を迎えに来るであろう小越と、もうすぐ帰宅する喜多村のために。
そうだな、何だと喜んでくれるかな。
佐久間は少し嬉しそうに、冷蔵庫に手を伸ばした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?