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smashing! さくらさくみんなの

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。毎月第四土曜は休診。

つやつやした栗色のふわマッシュ、毛穴レス肌、ピンクベージュのオーバーサイズニットにブラックレーベルチェックのパンツ。そして萌え袖でフリックするタブレット画面には経済新聞やスポーツ新聞各紙。元不動産会社エリート営業マン・結城卓は今日も漢らしい。

「で、みんなでお花見いこうよ」
「…うん、えっと、どこで?」

事務仕事をやっつけたい土曜の午前。せっかくの月一回の連休、やりたいことも沢山ある。朝から喜多村が家事雑用を一手に引き受けてくれたので、佐久間としてはこの帳簿類のデータを打ち込みたい。やっときたい。
しかしながら先ほど「俺ブレンド。モーニングつけてね」などと言いつつ結城が来店(?)。そこへこんがりトーストとカリカリベーコンエッグ、サニーレタスをのっけたプレート。マグカップ入りコーヒーを3人分、恭しく運んできたのはエプロン喜多村。
佐久間の真向かいでタブレットを繰りつつも「お花見」お強請りの圧を掛けてくる結城。佐久間の作業は遅々として進まなかった。

「このへんの名所はさあもう線張られてて、かと言って河川敷もどうかと思うし…ここの横の公園いっぱい桜咲いてるけどさ禁止じゃん?公園内で騒ぐの。鬼丸いいとこ知らないかなって」
「いいとこ、かぁ…」
「いいとこ!あるよな鬼丸!」

ランドリーバスケットを小脇に抱えたエプロン喜多村が、いつのまにか側に立っていた。

「えーほんと?どこ?」
「知ってるの千弦?」
「すげえ穴場だと思うよ?ここの屋上!」

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ここ、佐久間イヌネコ病院の屋上にはちょっとした広場が設えられ、外階段からも行けるため、知り合いなら誰でも使えるよう開放されている。隣接した公園では宴会やバーベキューが禁止なので、公園の桜を何のストレスもなく高みから堪能できる。満開の時期なんかは甚だ絶景。今はまだ五分咲きといった所だが、かなりの本数がここからは一望できるのだった。
次の日の日曜。
喜多村・佐久間と小越・結城。そして伊達・雲母のペアも加わり、総勢6名+犬(嫌そうに階下へ戻っちゃったけど)の賑やかしいお花見が始まった。嬉しいことにシェフが3名も居るため、残りはのんびりと食器や酒器の用意をしつつ、ベンチチェストに並んでゲーム機やタブレット片手になにかしらの交換を始める。

「ハルちゃんユキワラシほしい」
「差し上げますよ。そのかわり、お花付けたイーブイを…」
「あ、俺持ってますよ!卓と一緒に沢山取ったから」

麗しのメガネくんとちっちゃいものクラブ2名。雲母は目の前の小さい人達にデレ付きながら、得も言われぬ幸せに浸っていた。そしてそれを目の当たりにし、今し方料理を運んできた伊達が悶絶している。

「ハルちゃん尊…ウッ…」
「…先輩早く運んで。つかえてるから」
「もうちょっと優しくして…」

ランチョンミート俵お結び、レタスサンド、鶏竜田揚げ、卵焼き。遠足とかだとこんなもんでよかったかな?喜多村が決めた献立以外に、佐久間と伊達が肴類を所望。結果それプラス、蛸ときゅうりの塩昆布和え、かに味噌シューマイ、定番の喜多村特製ぬか漬け。そして冷えるといけないからスープマグで豚汁。あと、甘いやつは追々作るから言ってねと、伊達シェフ。
宴はいつの間にか始まっていた。シェフ達も全員席に着き、各好きな種類の酒を手に思い思いに飯を食らうのだ。今日の結城はカシスオレンジ。ザルのくせにあざとセレクト。小越と一緒ならなんでもいいらしい。佐久間は桜の見渡せる場所に置かれた椅子に座り、桜にちなんで封を開けたのはリン・プレシャス。ボトルを目にした結城が感嘆の声を上げ走り寄る。

「かわいい…!それ呑みたい」
「いいよ。持ってって優羽と呑みなよ」

鬼丸はあれ一杯でよかったの?喜多村がゴリゴリと椅子ごと膝行って佐久間の隣にやってくる。素早く佐久間の頬にキスして、何事もなかったかのようにジョッキを飲み干す。

「ランチョンミートのお結び旨いね。どんだけでも入る」
「俺は鬼丸の竜田揚げが最高」

メガネ雲母とちっちゃいものクラブ二人の輪の中で、伊達が幸せそうににこにこと豚汁を啜っている。その手にはちゃんとゲーム機。その場が何故か響めいた。大笑いしながら優羽が走り寄ってくる。

「…!!!伊達さんの!!あちゅ森が!フレさんが凄い!」

佐久間と喜多村もゲーム機を持ってちっちゃいものクラブ周辺に集まる。伊達の画面を見せて貰い、喜多村も大笑いしだした。

「フレさんの名前が…!!!」

「だてまさむね」本人に続き「とくがわいえやす」「とくがわよしのぶ」「とよとみひでよし」他多数…しかもいまお庭には「おだのぶなが」が寛いでいらっしゃる。おい何てことだ。
よかった俺現代の「だてまさむね」で。くしゃっと笑った目尻。雲母がそっと伊達の手に自分のそれを重ね、僕が愛姫になれたらいいのに。その小さな呟きに、伊達がそっと俯いて応える。

「ねえ、そういえば桜、俺ちゃんと見てない」

結城の言葉に、全員で桜の見える所に移動する。こうやってみんなで集まって大騒ぎして、なんだかんだ癒やされて救われて。辺りには何本もの桜の木。ふわりと煙るピンクの桜の帯が続いてる。

「さっき千弦、鬼丸にちゅーしてたの見た!ずるくない?」

俺にも!僕にもして!俺にもしてお願いします!よくわからない挙手が始まる。なんだよお前らそんなに俺のちゅーが欲しいのか。奇声を上げ逃げ回る奴らに喜多村がちゅーして回っている。いつのまにかの夕まぐれ。灯された喜多村のオイルランタンが、大笑いする皆を満遍なく照らしていた。




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