見出し画像

佐久間イヌネコ病院 luv.48 ほんとうのほんね

画像1


実家がリフォームしたからって俺の部屋にあったものをこっちまで送ってくれた。その中には古の俺の姿が写ってる写真とか卒アルまでも。よくこんなの取ってあったなあ。年々ピアスが増えてくかんじな。その時はジム・モリソンみたいにしたくて、伸ばした髪が絡まるからって、最後はリップピアス一つだった。

今日は店休みで、内装を少しだけいじったからその調整と、豆の合わせ方をもう少し詰めようかな。あとで実家からのダンボールも片付けないと。

「…こんにちは…」
「あれ?院長」
「あ、今日休みだったんだ?ごめんまた来る…」
「入って院長。いま焙煎したばっかのがあるから」

なんと佐久間院長ご来店。今月ほんと会えてるな嬉しい。いま誰もいないから貸切状態でもてなせる。こそっと昔の映画音楽を流す。時折そのいくつかに反応して、院長の色素の薄い目が瞬くのが好きだ。

「今日喜多村くんは?」
「ああ、いま伊達さんたちが来てるんだ。そんで俺がお昼買いに」
「俺なんか弁当つくる?」
「え!それすごく嬉しいなあ!」

サンドウィッチだったら無限にできるから。食パン追加しといてよかったな。手伝ってもいい?って聞いてくる院長。この病院関係者の「手伝ってもいい?」っていう尋ね方が、ちょっとだけ気に入っている。

「院長は座ってて。お客さんだから」
「なんかありがとう…あれ?ナナセくんこれって…」

あ。カウンターの上に置きっぱなしだった写真があったか。よりにもよって卒業してすぐのやつ。髪切れ言われて不貞腐れて卒業式出なかったんだ確か。友達もいなかったしなにも不都合なんてなかったけど。それでもなんでだか、先生以外は皆優しくしてくれてた記憶だけが残っている。

「昔のナナセくんも綺麗だね。千弦も褒めてたよ」
「お世辞うまい」
「大丈夫、お世辞もほんとのことしか俺は言わないよ」

あのミュージシャン、たしかドアーズだったよね、あの雰囲気にすごく似てる。院長が何気に言った言葉が、俺の…魂的なとこにすっと落ちて、そのまま深いとこに溶けてく。

お世辞もなんでも、ほんとのことしか言わない人。
付き合うとか付き合えないとかそんなんじゃなくても。
俺は全然かまわないんだ(隙は狙ってるかもだけど)。

院長のそういうとこ、大好きでもいいよね。




/岸志田七瀬

ーーーーーーーーーーーーーー
佐久間イヌネコ病院
作ってもらったサンドウィッチは
アンチョビとブロッコリーのと
マッシュポテトと小エビに
バジルペースト入り
山ほどお持ち帰りして
半分ナナセくんが持ってくれて
家に戻ったらなんでか
皆で呑み会になった(あれ?)

(院長)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?