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smashing! しあわせとラブとうんめいと・上

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さあ、そろそろ始めましょうか。

「御意」
「佐久間了解です」
「ウン…でもさ、この首輪意味ないんじゃ…」
「ンフ。ワンちゃんは喋らないんですよ?伊達さん」
「はヒ…♡」

この鉄壁の護りとトラップを見破れるものなら、ね…

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晩夏の週末は快晴。丁度自宅の裏手にある、伊達の所有する小さな山林にて、佐久間イヌネコ病院関係者の面々は二手に分かれての「人質救出サバイバルゲーム」を始めようとしていた。総勢8名、それぞれに合うよう雲母にコーディネートされたミリタリーファッション。二人のリーダーはなんか軍服ぽく。ヤダなんかカッコいーなんかイターい。
当然、地の利を知り尽くす伊達は最初から戦闘メンバーから除外。よって今回は「人質」役。なんかワンちゃん言われてるけど。自分が助けられないと賞品がフイになるので寝返ることも出来ない。

武器は何故か設楽が持っていた、ハンドガンタイプのエアガンのみで。所謂銀玉鉄砲ですね。弾はバイオBB弾。肩から上に当てちゃった場合はペナルティにて、撃った者だけが脱落者扱いに。くれぐれも気を付けましょう。
弾が当たったら速やかに戦線離脱、各拠点にある休憩スペースにて待機願います。
日没までに人質救出、または相手チームのリーダーを倒すか、残った人数の多い方が勝利。勝ったチームには以下の賞品が贈られます。

●松阪牛特上A5ランク肉3kgの目録(商店街のビンゴ大会で当たって持て余してたマスター岸志田寄贈)
●限定魔王各種、プレミアム地ビール2ケース、ハモンセラーノ生ハム原木
●ナイショのなにか♡(?伊達寄贈)

なお参加賞としまして、皆さんに配布しておりますミリタリー系コスチュームをまるっとお持ち帰り頂けます(雲母寄贈)。

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拠点を護るのは、雲母春己を頭とする「RED」。
構成員は設楽、佐久間。そして「人質」役は伊達。
一方の「人質」奪還チーム、喜多村千弦率いるのは「BLACK」。
結城、小越、そして初参加、喫茶メケメケマスター・岸志田七星。

今回マスター岸志田が抜擢されたのはその腕。岸志田の隠れた特技はクレー射撃。グラムロック退廃大好き完全インドア派かと思いきや意外に攻撃的。次々と現れる標的を散らす緊張感がたまらないのだが、岸志田がこのクレー射撃を気に入ったのは、標的に決して動物を使わないからだ。

「…数合わせとか…院長しかもあっち側だし…」
「BLACKならマスターでしょ黒づくめだし!立派な選抜メンバーじゃん!」
「でもすごいねマスター、シューティングゲーム上手いなあと思ったらガチだったって」
「それであのシューティングゲーム誘ったんだね。ていうかこの銃かあ…」
「え?ハンドガンだめなの?」
「クレーは散弾ライフルだから」

武器の話題は男子垂涎大好物。小越はすっかり岸志田の話に目を輝かせてしまっている。いままで黙って聞いていた喜多村は徐に、岸志田に向かって声を上げた。

「マスターさ今度、俺と優羽連れてってよクレー射撃」
「院長も来るんならいいけど」
「…ねえみんな、そろそろ作戦練ったほうがいいんじゃない?逆に来られるとめんどいよ?」

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「フフ、確かに。こちらから伺うのは賢明ではないですね」
「えっ何か聞こえ…まさかこれ盗ちょ…」
「鬼丸くんがむこうに渡してくれた、あの…」
「俺が仕掛けちゃったんだ !? 」

お昼のお弁当を全員に配布した際に使った可愛らしいトートバッグ。その底部に…。前回の発信器といい今回の盗聴器といい…ハルさんて遊ぶとき全力で遊ぶよね、伊達さんもそうだけど。あと盗撮も大好きみたいだしね。
それはそうと敵陣の情報はありがたい。どうやらフルメンバーでの突入。陣形は不明だが、喜多村を囲むように進んでくるようだ。
前回の陣取り水風船戦の時のような「脱衣による威嚇」は禁止されたため、変態魔神・伝家の宝刀チソチソ攻撃は受けずに済む。ただそうなってくると今回の新メンバー、マスター岸志田の動向がネックとなりそうだ。

「ナナセくん、クレー射撃の記録保持者らしいよね」
「そこで、あえてハンドガン縛りのハンデを。どんな超人も慣れ親しんだアイテムを取り上げられたら、凡人に近づく可能性はゼロではない」
「…ね、ハルちゃん、俺おしっこ…」
「ああ大変…設楽くん、僕のワンちゃんが粗相してしまいそう。トイレに連れて行ってあげて下さい」
「御意」

一本の大木の傍ら。周囲の木々の間にタープを張ったその下が雲母と佐久間、そして「人質役」の伊達が居る「RED」拠点だ。
そこから少し離れた「中立地点」広場の隅に設えられた簡易トイレに、設楽は伊達を連れやってきた。「人質役」の伊達、付けられた首輪にはリードが。その格好ときたら甚だ破廉恥で、ミニタンクの下は迷彩柄のショートパンツ。BB弾まず当たらないからってその丈は出ちゃうやつだろ。ヘソだわイヌミミと尻尾装備だわ、誰得なん。あ、雲母さんの趣味だった。

「…俺さ、まだ二十代寄りではあるけどさ」
「御意」
「御意多いな。ねえ、このカッコてどうなん」

正直、そそりますねワンちゃん。設楽は簡易トイレから出てきた伊達の身体を抱き寄せる。ちょおま何やってんのちぃたん達きちゃう。俺さっきからあんた見てて。伊達の手に自らの「ちんk」を握らせる設楽。ほら、チョーゼツムラムラしてるでしょ。ちょ待ておい設楽待て待ってまーーー

待ってトイレの裏でなにやら繰り広げられてるし。受信機から流れるいたたまれない内容に思わずテーブルに突っ伏す佐久間。頬を染め満足げに微笑む雲母。伊達さんには個別で盗聴器付けてあるのねうわぁ。この盗聴器さ、敵のも味方のも俺らに全漏れなんだけど?

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(ほらここ、仕掛けられてる)
(…えマジこんな、うっすいの?)
(すごいねマスターこんなの分かるんだ!)
(ハルちゃんて気合い入れるとこが全然ズレてるな)

喜多村率いる「BLACK」一同。「RED」陣営に突入すべく全員での行軍を決定、話し合いをしたように見せかけ、両側から挟み撃ちにする作戦。早々に盗聴器に気付いたのはマスター岸志田。普段と様子の違う「何か」を敏感に感じ取るその様はまるで「猫」。かといって生命の危機とかの修羅場を踏んだことなど勿論ない。

「俺とすぐるん。んで、マスターと優羽。優羽は極力マスターが「撃ち方」に集中できるように援護して欲しい」
「はーい。脱いじゃだめだからね?ちいたん」
「小越りょうかいでーす!」
「…わかった」





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上・中・下 三部作。続きます!


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