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smashing! おれはきろくほじしゃ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の二人が働いている、佐久間イヌネコ病院。

「鬼丸もっさもさ」
「な。早く改装おわんないかな」

佐久間の頭が大変である。ただでさえ癖毛で猫っ毛なのに、湿気を帯びると膨らみまくり、頼りにしていた馴染みの理容院は改装工事で来月までお休み。先日結城に貰ったヘアゴムで括ってはみたが、その都度喜多村の萌えがリミットブレイクするため迂闊にこの手は使えない。

「あのさ、千弦さ」
「なに?あのきんたまのゴムで縛ってくれるの?」
「いいの。きんたまは使わないの。千弦さトリマー持ってんじゃん」
「うん」
「…ちょこっと切ってくんないかな…これ」

二階住居。診療終了後ご飯を食べ、掃除機をスタンバイ。フローリング部分であるベランダ窓の前で断髪式が執り行われました。断髪違う。喜多村は流石にトリミングシザーではなく、ヒト用のすきバサミとメッシュコームを手にしている。
イスに座り、ケープがわりの風呂敷でテルテル状態にされた佐久間。髪は前もってヘアクリップでブロック分けされている。喜多村が混乱状態に陥るほど妙に可愛い。
霧吹きで湿らせた髪を少しずつ、丁寧に。手先の軽く正確な動きとは正反対に、佐久間に身体を寄せる度、あの何らかのものが当たってくる感触。おま前髪の時に限ってぐいぐい押しつけてくるのやめい。えわかっちゃったごめぇん。動じずにカットを続ける喜多村。
わかった。ちゃんと掃除して、お風呂入って、その…支度させてくれるんならしてもいい。喜多村の度重なるセ…ハラスメントに佐久間は折れた。なんか折れるしかなかった。


髪を乾かす間も惜しんでか、バスタオルが数枚散乱しただけの床の上。急くな千弦、佐久間の言葉を珍しく聞き入れた喜多村は、至極ゆっくりと優しく佐久間と抱き合っていた。喜多村が我を忘れて「いつもの魔神化」してしまうと色々厄介なので、佐久間は煽らないよう何度も宥めては喜多村のテンションを攪乱する。

「あれさ、卓んちにあったさ、若い子向けの漫画に男同士の…ビーエルってやつ。けっこうえっちなん。ヤってるシーンにさ「断面図」あんのよ」
「だんめ…え?何の?」
「こうやって…っ…入ってる状態の」(←IN)
「…っ…は…てるじょうたい…の」
「断面図のせるの…っ」

途端、佐久間の顔がスン…と無表情化。大体こんな職業で内臓の断面図なんか日常だよ日常。確かにうちにあるのは動物のだけどさ。なんなら肝臓とか腎臓ポコッて取れたり填めたりするこないだ卓の後輩の山波さんくれたメーカーさんの標本もあるぞ。喜多村に入れられたまま雲母並みのノンブレスの佐久間。腹筋つよ。

「うん、俺あれ思い出すと萎えるわかる。あでもそゆ趣味の人いるよ?伊達先輩が人体模型で抜いてたの見たもん」
「…じんたいもけ…」

ささ、続きしよ続き。未だ大混乱する佐久間を少しずつ追い上げていく。待って。ていうか人体模型、じゃなくてそれより、なんでお前。先輩抜いたとことかどこで見てーーー

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「…ぶしっっ」
「いけませんね伊達さん、風邪ですか?」
「や、大丈夫。なんか今すっげディスられた気がする」

伊達と一緒にキッチンで餃子のタネを包む雲母が、慌ててキッチンペーパーで伊達の水っ鼻を拭う。大人しく拭かれながら伊達がいきなり笑った。

「伊達さん?」
「…ククッ…グ…ごめハルちゃ…フフ…今ちょっと変な事思い出したわ俺」

院生の時。喜多村と伊達は「筋肉の模型」で抜いてどれだけ飛ばせるかを競ったのだという。丁度キッチンペーパーしかなくてこうやって後始末したことを思い出したのだ。そして勝ったのは自分で「先輩すっげー!負けた負けた」と喜多村が心底感動していたんだ。そう言うと、只でなくても笑いの沸点の低い雲母にバチボコにヒットし、カウンターに縋って悶絶。立っていられなくなり雲母は床に座り込んだ。

「と…飛ばす!飛ぶんですかアレ!」
「飛ぶ飛ぶ。俺さ院の中でレコードホルダーだった!」

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数キロ先の雲母宅でそんなバチボコウケてるとはつゆ知らず、抜き合いなんて只のスポーツですよ鬼丸くん。上手いこと喜多村に言いくるめられた佐久間は、既に魔神化した喜多村にバチボコ揺さぶられながら「俺のはどんだけ飛ぶのか」など、どうでもいいことしか頭に浮かばないのだった。




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