見出し画像

smashing! おれたちのてだすけ

佐久間イヌネコ病院。毎週末にヘルプでやってくる理学療法士・伊達雅宗が佐久間の急な往診で前倒し勤務になったため、久々の静かな週末である。

「鬼丸さ、今日俺がご飯作ってもいい?」
「いいの?じゃあ、足らないのあったら買ってこようか」
「…そんじゃお願いしようかな」


近所の大型スーパーマーケットは夜11時まで営業。それでも夕方のこの時間は仕事帰りの人でかなり賑わい、おかげで特価だのタイムセールだの楽しい催しに参加できる。佐久間は激安特価お買い得が大好きだ。

「えっと、生わさびとロースハム…」

喜多村のお買い物メモを確認しながら進んでいく内、とある広場に差し掛かって気付く。ってなに今日。九州物産展て。うわ限定焼酎ですって。伊佐小町、紫利右衛門…欲しかったやつじゃんどうしようお金足りっかな…ごそごそと買い物用がま口を探る佐久間。全然大丈夫そう。
そんな時。いきなり後ろから腕を組まれた。びっくりして見たらなんだ、いつもの男の娘・結城卓がニヤニヤして立っている。

「ママ、これも買って」
「なんだよ脅かすなよ卓。てか誰がママや」
「なに買い物?俺もなんだけど今日さ、優羽遅いからそっち行っていい?」

二人で物産展を物色。明太子、明太子、明太子…佐久間のカートに放り込んでいく結城。

「なんでこんなに明太子」
「え!全部違うメーカーだよ!味全然違うんだから!」

そりゃそうだろうけど。苦笑いしながら佐久間は目当ての焼酎コーナーヘ。あるわあるわ、珍しい焼酎達。真剣に3秒くらいは吟味しカートに入れる。3本でいいの?驚く結城。

「呑めそうな分だけにしとかないと」
「そんなもんなの?」
「欲張って買ってまって、ほんで呑まんと悪なってまったでは…なんもならんでな」
「…なんかいいたいことは伝わってくる」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おかえり!ありがとな…ってすぐるん!久しぶりな!」
「ちぃたんこれ持って!…あれ?今日伊達くんいないの?」
「こないだ無理言ってこっち来て貰ったから、その分むこうで出勤なのよ雅宗先輩」
「あー…じゃあハルちゃん!空くかも」

リビングで結城が雲母に連絡する間、キッチンの喜多村を佐久間が様子を見に行く。週末大勢の夜が多かったから、今日もいっぱい作っちゃいそうな予感。それでもなんだか楽しそうに支度する喜多村。

「ハルちゃんまだ外だから、終わったら直接来るって!」
「おお今週も大所帯な。ちらし寿司にでもしようか、鬼丸が好きなハムの」
「それめっちゃ賛成。なんかもうすっごい腹減ったわ」

さっき冷蔵庫入れてもらった明太子!あれも食べ比べしよう。なんなの明太子て。結城の変わった提案に喜多村が大笑いする。
仕事で疲れているであろう雲母も、ここでならきっと充電できる筈。そんな確信が佐久間には常にある。

先輩も優羽も揃ったら良かったのにな。喜多村がぽつりと呟く。大丈夫、いつ誰が来ても同じように、ここで誰かが持てなせばいい。俺でも、千弦でも。焦ることはない。ここには全部揃ってるから。焼酎もな。喜多村が笑って答える。そうだね、俺の好きなものだらけだから。俺の好きなものも。そしてみんなも。

同じような環境で性別も同じで、同じような思い抱えてて。
しかも全力で助け合えるんだ。


玄関でカウベルが鳴らされる。
全力で持てなしてやる。手始めはハルちゃん税理士だ!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?