SS/おもいでのおれ⑦・了 →設楽泰司
「お寿司屋さんみたいな名前だね」
初対面、俺は2コ下の後輩・設楽泰司にそう言ったっけな。
設楽たいちゃんは、クールで頼りがいのある自称スーパーコンシェルジュ。
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俺は数人しか居ない「シネマ鑑賞同好会」とかいうのに所属してて、それでも全然人来ないからって好き勝手に活動してた。大体DVD観てたり、供養用の千羽鶴折ったり、撮りためた画像データをプリントアウトしたり。携帯やなんかのデータ飛んで台無しにしてからは、俺はなるべく写真に起こしてアルバムで保管するようにしている。ちゃんと名前も書いとく。サ、ク、マと。
その部室兼休憩室の扉のとこ、誰かの気配がする。誰だろ。入ってくれば良いのに。あれかな、伊達さんがまた俺驚かせようとして張ってんのかな。同じ手はそう何度も食らいたくないんだ。コチョコチョの刑もやなんだ。先回りして阻止だ阻止。そっと出入り口の扉に近づき、思い切り引き戸を引く。
「…!!あ、すいませ…」
「…先輩また何を……あれ、たいちゃん?」
全然違った。立ってたのは2コ下の後輩、設楽泰司。
「すいませんちょっと伊達…先輩探してて…」
「…あ、うん…あの人なら、そのうちここ来ると思うよ?」
天気とか当たり障りのない話したり、千羽鶴折るの手伝って貰ったり。見た目と話した感じ違うな、この「設楽たいちゃん」はもの静かで落ち着いてて。とてもこないだ入ってきましたみたいには見えない。大きな気怠げな目はくっきり二重で、黙ってるとちょっと気圧される雰囲気。たいちゃんはずっと俺の話に相槌打って、たまに軽口返して。ああこの子聞き上手だな。俺の人見知り癖、気にしてないみたいで嬉しい。そんな中ふと気付いた。
設楽たいちゃん、手汗凄いな。
ポーカーフェイスだからわかんなかった。この部屋暑かったかな…そうか、たいちゃんもひょっとして他人に緊張するタイプか。きっとそうだ。俺はエアコンを付けようとして、さり気なく席を立った。そしたらたいちゃんは物凄くびっくりしたみたいで、椅子から転げ落ちそうに。あっ危ない!咄嗟に伸ばした手でたいちゃんの腕を掴んでしまった。
たいちゃんの口がぱくぱく、なにか言ってるみたい。え?何?どした設楽!俺びっくりさせちゃったんか?そしたら。急に。
「なーなー俺腹減ったんよ何か作らしてぇ~!」
バーン!と大きな音立てて引き戸が開いて、伊達雅宗先輩その人が現れた。
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「設楽ごめん…うっかりしてたん…」
「いや、俺の方こそ先走っちゃって」
伊達さんのお手製・塩焼きそばを三人で食べる。ごめん今ウスターソースないんよ。簡易キッチンみたいに伊達さん自らが設えてるとこで、あっという間に作ってくれたそれは安定の美味しさ。この伊達さんって人は作る飯が凄く美味くて、先輩後輩果ては教授の面々までも根強い信者が存在するのだ。
「てか伊達さん、この設楽…くんと、何の待ち合わせだったんですか?」
「…こいつになにか言った?設楽」
「あ、いえ、さすがに…」
さすがに、とは。俺の頭上には無数の「???」が飛び交っている。
「も、言ってもいいんよね設楽?バレてるし」
「や、俺何も言ってないんで、バレてはないです」
「え???ねえ伊達さん俺分かんないんだけど…なにが?」
えっとね佐久間よく聞いて?こいつね、ここ入った時からずっと。伊達のその言葉を遮るように、ひとつ深呼吸。たいちゃんが動いた。
「…も、自分で言います。すいませんでした伊達さん」
「ウンそうそう!…そのほうがいいよね!」←根回し諸々忘れといて
「あの、佐久間、先輩。実は俺…」
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「すいません。迷惑だったら忘れちゃっていいんで」
「…えっと、何て言うかその…全然迷惑じゃないんよただ…」
「おいまさか佐久間。俺差し置いて好きな奴でも出来たん?」
俺差し置いて、とは。俺の頭上には無数の「……」が飛び交っている。
「正直俺、自分でもまだようわからんもんで…」
「えー誰だよお!俺知ってる奴?ねえねえ佐久間!」
「伊達さんには、言わない」
んなんでぇぇぇ!!伊達さんの悲痛な叫び。何かを察したらしい設楽くんが伊達さんを宥めにかかる。うわっ伊達さん顔埋めてるよ抱きついて。知り合ってまだ日浅いだろうに何この爛れた感じ。設楽くんが妙に色気あるせいかそう感じるんかな。
俺はしかたなく折れて伊達さんの背をぽんと叩く。しょんぼりしたあんたの顔は、出来ればあまりお目に掛かりたくない。
「伊達さんのことが嫌いで、言わないんじゃないんですよ」
「さくまぁ…?」
ていうか、まだ言えない。が正しいか。こんな不確かな気持ちで、あの名前を口に出すわけにはいかない。あんたと付き合ってるらしいことになってる、あいつの。
「佐久間さん」
言いにくかったら、言わなくていいと思います。たいちゃんは淡々とそれだけ言うと、伊達さんに塩焼きそばのおかわりを要求している。設楽さお前フラれちゃったことになるん?不本意ながら、そうとも言えます。
「ね設楽さ、佐久間のどこ好きんなったの?」
「…気がついたら、でしたかね」
でも本人の前じゃ言いません。片目をつぶってたいちゃんがニヤリ。その目結構焦るものあるな。コーヒーでも淹れようか、慌てて席立ったら、たいちゃんは隣の伊達さんにちっさい声で耳打ちしてた。
(たいちゃん、って声で、俺落ちました)
そうか、声、だったのかもしれない。俺も。
ギクリとした。伊達さんと付き合ってるらしい「あいつ」に惹かれたかもしれない、その理由をも見透かされたような。設楽。この子は、思わぬところで鋭い。嬉しいような、照れくさいような。こんな気持ち抱えることになるとは。
…ありがとう。
でも、聞かなかったことに、させてな。
佐久間鬼丸
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佐久間イヌネコ病院
なつやすみスペシャル①~⑦ これにておしまい♡
毎回イラスト同時アップのハラハラ感
こっちの肝も涼しくなりました〈院長〉
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