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smashing! おれたちのあいすべき・後

街中へと繰り出した伊達そして喜多村。

一方、「海岸そぞろ歩き」ツアー5名様(雲母・設楽・結城・小越・佐久間)。漂着物系大好き雲母ハルちゃんがご案内いたします。アシスタントは設楽、だったはずなんですが。

(ほんと…オレ付いてきてよかった…)

ビーサン必須ですよ。海岸そぞろ歩き組は、宿泊している大部屋を出て数歩の所にある浜辺を散策していた。白く綺麗に整えられた砂浜には、美しい貝殻やなんかがその身を静かに横たえている。海の波に淘汰された丸い形のガラス片や、長い時間を掛けて流線型に削られた流木。雲母は漂流物が大好きである。砂浜を凝視しすぎて岩場に突っ込みそうになったり、足下が疎かになり何らかのトゲトゲに躓いたり。雲母だけならばいいものを、クラゲ大好き佐久間に生物大好き小越。周りなんか見ちゃいないんだこの人たちは。かろうじて理性の残ってそうな結城も、小越の後ろをくっついて歩きながら「ギャア」しか発しない。
設楽は園児の引率よろしく、全員をなんとか砂浜から宿に向かわせようと必死に頑張った。ようやくクラゲの生態を一通り観察し終えた佐久間が、仲間内を見回し設楽の行動と空気をざっと読み、波打ち際に突っ込みそうになっていた雲母の腕をそっと引いてやった。

「たいちゃんごめん、俺夢中になっちゃってて…」
「あ問題ないです。皆そろそろ飽きてくれそうだし」
「ハルさんほんと、こういうの好きとは知らなかったなあ」

小越の側で海藻をつまんでいた結城がこちらに向かってくる。ねーそろそろ部屋戻ってようよ。携帯の画面を見ればけっこうな時間。どうりで全体的にオレンジ色になってるわけだ。波打ち際にいると太陽光が海面や砂浜に乱反射し、時間の感覚が掴めなくなったりする。

「ああ楽しかったです…あれ?鬼丸くんも設楽くんも手ぶら?」
「オレは雲母さんが楽しければそれで」
「うわハルさん大量だなあ!見せて見せて俺にも」
「ンフ。これなんか、鬼丸くんぽいかんじで…」

え待って佐久間さんぽい漂流物って。設楽は死ぬほど後ろ髪を引かれながらも結城と一緒に小越を迎えに。すると砂浜にしゃがみ込んでいた小越が立ち上がり、満面の笑みを浮かべこちらに向かってくる。

「……ウヘッ…」
「設楽くんやばい。あの優羽はやばい逃げないと…」
「え何がやばいんですか?結城さんちょっ」

ギャーーー!!悲鳴と共に結城は全速力で圏外にダッシュ。出遅れた設楽の目の前にぶら下げられたのは、小越のおそらく本日最大の獲物。得意そうなご尊顔とともに。

「…でけえ…」
「アッハハハハ…クク…優羽くんアハハハ」
「…どこで見つけんの…等脚目フナムシ科…ハハハッ」

オレでもこのサイズはちょっと引くな。小越と巨大フナムシをぼんやり眺める設楽の後ろで、笑いすぎの雲母と佐久間が膝をガクガクさせていた。

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大部屋組、完全個室組ともそれぞれの露天風呂で汗を流し、全員揃って大食堂でのブッフェを堪能。その後は大部屋にてゲーム大会…のはずだったのだが、もう少しお酒やらお魚を、とルームサービスで注文。

「ああ旨いわ…ノドグロも食べたかったんよね」
「こうやって個別に頂けるのは嬉しいですね伊達さん」

和洋折衷、豪華で賑やかだったブッフェとは打って変わって、いきなり渋い料亭風。ていうかいつものかんじ。この面々の好みは揺るがない。注文用タブレットに珍しい地酒を見つけ、佐久間が少し興奮している。そんな佐久間を見て浮つく喜多村。そして設楽までが浮かれ「寿萬亀頼みましょう寿萬亀」言うが早いかタブレットの「注文」の文字を力強く連打。希少なお刺身、サンマのなめろう等。他には地野菜の天ぷら、と何故かここの名物らしいフライドポテト。

宴もたけなわ、テレビ画面に流れるオープニングムービー。ポケットに入っちゃうかんじのモンスターアバターでオンライン探検するというもの。小越と結城の親切丁寧(?)なレクチャーを受けながら、早速喜多村と佐久間が挑戦。そのうちにレベル上げの話になり…ゲーム大会というよりは、キャラ強化合宿の予感しかしない。

4人の丁度後ろ側でゲームの画面を肴に地酒を味わう伊達。ああ幸せ。俺さゲームやってるの見てるのが大好きなんよね。雲母は設楽と伊達に酌をしながら、何か思いついたように、鞄の脇に置いてあった「海の戦利品」袋を手に取る。

「今日は大漁だったんですよ?見て下さい伊達さん。ちゃんと海で洗ってきましたからね…」

テーブルの上にバンダナを敷くと、雲母は収集したものを一つ一つ並べていく。丸く面取りしたようなガラス片、色とりどりの小石、白くつるりとしたのや、滑らかで薄いピンクの貝殻たち。

「…ああ綺麗なもんだねえハルちゃん…あ、今日こういうのアクセにできたりする店見かけたよ?な!ちぃたん!」
「ああ、確かあったね店………あ!やったクリアできた!!」
「すごい!じゃあ次の洞窟入りましょう〜」

明日その店一緒に行きましょうか。設楽が伊達と雲母に笑いかける。じゃあこの中から選んで…雲母の指先がとある石の前でふと止まり、そっと拾い上げた。何か思い当たったのか、それを見た設楽の目元が綻ぶ。
それは蒼灰色の、ソーダガラスの一片。

「…伊達さんの、片方のお色だな、と思って」
「よく見てんね」

今日ちっちゃいものクラブに奇襲かけてよかったん。雲母の掌に乗ったソーダガラスの欠片に触れ、伊達は嬉しそうに微笑む。これ何にしよかな。すると設楽が横からその欠片を手に取り、握り込んだ。すごく波に洗われて、なのに綺麗な色のまま透き通っている。

「これ、オレもらってもいいですか?」
「え設楽もらっちゃうん?」
「ンフ。もちろん。今日一日僕たちを見守って下さったんですから」

設楽の心の中にある伊達のイメージは、飄々とした後ろ姿。色々あること無いこと、けっこう煽りを被ってしまうことも多いのだと後で知った。相手に対して怒ることも突き放すこともしない。そんな彼に何故、と聞いたこともある。いつもそうやってないと、俺は次のに向かっていけないんよ。そう言って笑っていた伊達。

「あ!見せてそれ凄く綺麗!」

結城がやって来て、雲母の後ろから緩く抱きついた。バンダナの上に並んだ小さなお宝に歓声を上げる。これピアスにしたら可愛いですよね、雲母が結城の耳に桜貝を当てて見せた。ゲーム組のレベル上げが一段落したらしく、わらわらとテーブルを囲み始めた。伊達さんたち酒足りなかったら言って?やってきた佐久間が雲母のコレクションを楽しそうに眺めている。

設楽はずっと心に留めてきた。伊達の笑顔が淋しそうに見える時は、一人にしてはいけない。でも不思議なことに、今はそんなこと一度も思い出さないで済んでしまうんだ。

「設楽ぁ、俺ねえ追加でチューハイ呑みたいん」
「僕も…ここの地ワインが頂きたいです」

御意。設楽はいつものように立ち上がって、先だって追加注文を受け始めた佐久間と一緒に、注文用のタブレットを楽しそうに覗き込んだ。




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後編おしまい。読んでくださってありがとう!


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