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smashing! さらにめしませせんせい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士とが働く、佐久間イヌネコ病院。水曜の診療は午前のみ。

「ここのって火力強くて好き」
「雅宗先輩、手止まってる手」
「もっと優しくして…」

月に数回、佐久間の実家である善宝寺住職・達丸から届けられる「ふるさと便」。焼酎や日本酒の他、冷凍名古屋コーチン数キロ、ご当地名産品、なんか貰った野菜たくさん(今回はインゲン)、兄おすすめの駄菓子なんかがこれでもかと詰まっている。喜多村は「ふるさと便」を佐久間よりも楽しみにしていて、最近では率先してお礼の電話を掛け、佐久間の兄とすっかり仲良くなっていた。
山ほどの鶏肉は一部冷凍のまま残し、あとは唐揚げなんかにして仲間内で分けることにしている。数キロの唐揚げを作るのは佐久間・喜多村・伊達の仕事だ。佐久間は寺の台所が土間だったこともあり、リフォームの際ここのキッチンを広く取った。コンロも2台置きなので、皆の格好の作業所になっている。

「俺こういうの見たことあるよ?オープンキッチンみたいなとこで大勢集まって作るの。なんかBCGクッキングとか…」
「雅宗先輩それたぶんABC」

油のはぜる音が心地良く響く。佐久間はオーソドックスにニンニク生姜味、喜多村は塩竜田、伊達は自身の好物であるピリ辛味を担当。鷹の爪の香りが熱に煽られ、たまに咽せていて二人に笑われる。
喜多村は唐揚げをする佐久間の姿を横目に、少しだけ浮ついていた。エプロンです。しかもこの唐揚げを鬼揚げの時は頭をバンダナで三角巾なんだ巻いちゃってんだ。男子は女子と違って前髪出しに無頓着だから全部バンダナに入れちゃってるんだな。かわいいおかおまるだし。まるだし。そういや雅宗先輩も丸出しなんだけど、何だろこの違い。確かにこの人綺麗な顔してるけど、エロスの差なんかなエロス。鬼丸かわゆ。
邪な気配を察し、笑いを堪える伊達に窘められる喜多村。

「千弦、お前視線がうるさい」

一方、リビングでタブレットを繰りながらも時折、様子を伺いにカウンターから顔を覗かせるのは結城だ。月数回の唐揚げシェアの会、唐揚げのお持ち帰りと試食はちっちゃいものクラブにとっても重要な任務なのだ。

「卓、揚げ2周目だからもう終わるよ。今から食べる分ここ置くからね」
「はーい!ビール用意するっ!」

数本の缶ビールと大皿の唐揚げ、櫛切りレモンいっぱい、茹でインゲンとプチトマトの辛子マヨ胡麻和え。あとは塩結び。これからちょっと遅めの昼食を摂る四人。

「日が高いうちの酒に揚げたての唐揚げって…」
「さいこうですあ千弦ソーダ割呑みたい俺」
「雅宗先輩、二階堂と炭酸水持ってきて」
「もちょっと優しくして…」

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「じゃこれ、ハルちゃんち寄るから渡しとくわ」
「じゃあ俺も着いてく!」

それぞれの保存容器に詰められた唐揚げ入り袋を持ち、伊達は結城とハイテンションのまま手を繋いで出て行った。
あいつらなんか親子みたいなってるな。結城は例の雲母のペントハウスを、紹介はしたが出入りしたことはなかったため、見るのが楽しみで仕方ないらしい。
佐久間と喜多村はキッチンの片付けを済ませ、リビングのソファーに長々と身を横たえた。楽しいな唐揚げ会。うん今回も楽しかったな。顔を見合わせて笑う。
喜多村の指先が佐久間の丸出しの額に伸び、そのまま輪郭を辿って項に回る。

「これ、三角巾。新しい性癖キタわ」
「性癖…バンダナ?柄?って本物の変態か」
「ちげーって、鬼丸の、その…」

おでこ。言葉とキスが同時に降ってきて、苦笑いしながら佐久間は目を閉じる。こんどさエプロン裸で着て。叶えたくない願いは聞き流したい、けどやっちゃうんだろうな俺。
身体ごと重なってくる喜多村の、この硬さはやばいなあ。毎度思うやつ。あと数個。上がっていく熱に浮かされた頭の中で、外されていくシャツのボタンを、ゆっくりと数え始めた。




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