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smashing! あなたがたはぼくのアート

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佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。非常勤である、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は恋人同士。そして最近、伊達の後輩獣医師・設楽泰司が加わった。雲母公認・伊達の彼氏として。

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「なんか最近、コイビトって打つと行為他人て出るんですよね」
「なにお前もう俺を捨てる気なん?」
「いえ今のところは。まあ、若気の至りってやつですね」
「キーーーッ!お前の育てたカルビ全部食ってやるう!」

そろそろ雲母が繁忙期に入ってしまう時期。その前にあれだ、みんなで頑張ってこみたいなお食事会したいんよ。という伊達の提案で、伊達・雲母・設楽の三人は、伊達の家から少し離れた隠れ家的焼肉店の「個室」にいた。よって今日は遠慮なく騒げる。騒ぐ騒がないというより、下ネタタイムに突入すると主君によるボディタッチやお触りが増えるため、言わば強制的に個室を選ばざるを得ないのだ。

雲母と伊達は肉中心で野菜山盛り。設楽は肉1に対してビビンバや白飯5、みたいな食べ方をする。ああ、若いんで。そんな設楽の言葉に、相撲部屋なの?伊達がこっそりと雲母に耳打ちする。

「フフ。たくさん食べたほうが大きくなるっていいますから…」
「そりゃ俺もいっぱい食べる子好きよ?でもこれ力士じゃん」
「御意」

山のように並んだ高級肉の前では何も問題ないです。炭火で特撰カルビを焼き育てる設楽。この旨さを堪能できるならオレは力士に格上げします。訳のわかんないこと言ってんよこの若気の至りは。
子犬?同士の微笑ましいやりとりをちょくちょく食らい悶絶しながら、雲母は手元のタブレットに触れる。ああ、ちょっと失礼しますメールが。目元で笑って頷いた二人は雲母のじゃまにならないよう、しばらく「カクテキ」について議論する。

「…ンフ♡」

ん?設楽なんかいまエロヴォイス聞こえた?ええ、いま雅やかな声が。二人の視線の先で、雲母が幸せそうにタブレット画面を眺めている。まさしくこれはピンク色の圧。重圧。

「…な、何見てんの?ハルち…」
「千弦くんからでした。ふるさと便が届いたのでまたいらしてくださいって。それでね、これ、添付されていたんですけど…」
「…あー…」
「…………」(思い当たりすぎていっそ腹括るモノノフ)

タブレット全面に映っていたのは、この我らが主君。そういえば先日スーツを手に佐久間宅へ向かったことを雲母は思い出した。喜多村に髪のセットをしてもらい、設楽の実家に「あの子を俺にくださいお入りくださいありがとう」的な挨拶をしに行った時のもの。それなのになんでこういったお誘い受的なポージングがなされているんだおい。ティクビ。

「ンフ。千弦くんには伊達さんの全てを記録していただいてますので」
「伊達さん、この格好は」
「え着替えてるとちゅう…」
「喜多村さんにこれパッカーンしてるってことですか」
「してないよしてないの!不意打ちなの!」

ンフ。コレクションがこんなに。詰め寄り合う二人の側で雲母は「至高の芸術」と記されたフォルダにいそいそと伊達の画像を追加する。雲母にしか開けられないであろうその中には、伊達のこんなのはおろか、フル画面で無声映画のように繰り広げられる伊達と設楽のピーーも勿論。

「永久保存版ですね、なんて素晴らしい…」
「えなにハルちゃん!もー設楽がなんかうるさいんだよお!」
「なにがうるさいですかちゃんと説明してくださいよおい」

ギャン泣き(うそ)の伊達を宥めて、雲母は食べごろの肉をそっと二人の皿へ取り分ける。ンフフ。落ち着いてまずはお肉をいただきませんか設楽くん。あ、そうですねまずは肉。んなんでお前はハルちゃんの一言で大人しくなんのよ!俺にももっと優しくしてぇ!

「…ね、ハルちゃんは俺のあの写真でコーフンした?」
「僕はね、伊達さん…」


手の届かない芸術そのものを手中に収めることにこそ、言い知れぬ興奮を覚える質なんですよ。





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