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smashing! ここもおまえのいばしょ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。同僚の設楽泰司とは先輩後輩。


「今のマンション、今月中に出なきゃならなくなって」

昼飯食いながら、設楽がさらっと爆弾発言。俺は口ん中入ってた釜揚げうどんブーッと吹き出す。そんな重要案件をこんな時に。

「え何どした。盗撮バレでもしたん?」
「俺が盗撮したいのは佐久間さ…じゃなくて。なんか漏電騒ぎあったんですよ最近。で調べたら思いの外深刻で…」
「んなに、老朽化?」
「でしょうね。築年数不明だし」

設楽の今の家は、駅近徒歩10分ワンルーム約8畳1K風呂トイレ別。駐車場管理費込み月4万。大正風レトロ。事故物件でもないしなんて激安。大家さんコワモテだけど親切で、俺が泊まりに行った時、設楽と一緒によく夕飯をご馳走になったりしてた。

「ちょっと急なんで、帰りに物件探そうかと」
「…じゃ一旦うちくる?部屋余ってるし」
「いいんですか?」
「ん。そんでウチのすぐるんに聞いてみよ、部屋。ツテ持ってるから」

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頼りにしてた結城のすぐるんは、別件でなかなか自宅に戻れない状態。ゴメン終わったらすぐ根回すね!って言ってくれてた。なんだかんだで、当面の間設楽と俺は同居することになった。期間限定ね。
事情を話したらハルちゃんは物凄く親身になって、そんで全力でバックアップしてくれた。大家さんとちゃんとお話もさせて頂きましたよ、何も心配要りません。今ハルちゃんは税理士だけど、元々弁護士の資格持ち。弁護士取ると法律に関する資格全部いけるんですよ。心強いこと言ってたん。

呉々も邪魔なんかじゃないってことだけは、設楽くんに伝えて下さい。何度も念押すようにハルちゃんは連絡をくれた。こと「居場所」の有無は、ハルちゃんにとってはとてもセンシティブな部類のことなんだと思う。ここに居てもいい。許可も要らないようなたったそれだけのことが、放っておくと難しいトラウマになって後々まで自身を脅かしたりする。

「すみません伊達さん、俺結局邪魔しちゃってますね」
「ううん!今丁度ハルちゃんも向こうの家が拠点だし、気だけは遣わんでほしいん。ハルちゃんもそう言ってる」
「すいません。じゃあ、お世話になります」

設楽はもともとそんなに物を持たない。元の家もがらんとしてたっけ。俺ん家に運び込まれたのもダンボールが3つ4つと布団。大体が服。音楽や本は配信だしタブレットいっこあれば大丈夫らしい。普段は客間として使ってるとこに案内すると、さっそく荷物広げて基地を作ってる。俺は早々に台所へ。

さ、夕飯の支度。今日は二人ともシフト昼までで、それからけっこういろいろ片付けて。あいつも腹減ってるだろうな、ガッツリ系がいいかな。

「しだらぁー何か食いたいもんある?」

一旦部屋に戻ってみると、設楽は丸めた布団の上に覆い被さるみたいに寝落ちてた。粗方整理し終わった部屋は、すっかり設楽の匂いになってる。微かな煙草、気に入りのシェービングローションと、こいつの。そのヒヨコちゃんメッシュを軽く撫で、隣座ってローリング布団に身を預ける。規則正しい寝息。寝てる猫とかの側行くとつられて眠くなるんよね、そんなこと思いだしてたら、急に設楽の腕が伸びてきた。

「…伊達さんなに淋しいの?」
「何食べたいって聞こうしてたんよ」
「えっとじゃあ…この場合、あんたって言うのがセオリー?」
「んや、チャーハンか丼か。今はそっち系ね」

そっと俺に覆い被さり身体を預ける設楽。重いん。このまま雪崩れ込むんもいいけど、なんといっても腹減ってんよ俺ら。ぽんぽんと背中叩いてやって、顔上げたところに頬にチュッとくれてやると、満足げに起き上がる。伊達さん俺カレー食いたい。カレー…その発想はなかったわ待って材料あるか見てくるん。そしたら設楽が俺を引き留めて。

「あの、俺が作ってもいいです?」
「え設楽作ってくれるん?」
「最近得意になったんで。えっとカレー粉…」

…ちょっと待てその箱今どっから出した。パンツとか入ってるとこから謎の箱出てきたな?問題ないです、じゃないよもお。たっぷり作っとけば雲母さんにも食べてもらえるから。そう言いながらいそいそと台所に向かってく設楽のその広い背中に。俺にしては柄にもなく。


ただ、興奮する。





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