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smashing! おねうちなせんせい

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
水曜午後と土日祝日は休診である。

本日は犬のリイコを結城の家に預け、佐久間と喜多村の二人は揃って買い出しに来ていた。最近郊外に出来たばかりの大型ショッピングセンター。大容量の物が格安で手に入る。自分達は男二人でけっこう肉の消費も激しい。週末は友人達も加わってお花見だし。そろそろお値打ちに食材調達を、と思っていたのだ。

前もって下調べしてくれてた結城に作って貰った会員証で入店。平日なのでそれほどの混雑はない。足を踏み入れた広い店内は向こう側が見えないくらいの食材で溢れかえっていた。
実家がお寺だったせいか、昔から大人数の食事を作ることが多く、激安スーパーなどをよく利用していた佐久間は、すぐに平静モードに戻って買い物を始める。方や少人数、ほぼ核家族で育って来た喜多村にとっては、ここはまるでテーマパークのように楽しい場所。みてみて。このマシュマロ1kgだって!でっかいチョコレート!ねえこれ何に使うの?表向きクールに装ってはいるがMAX大興奮状態の喜多村である。

「ね鬼丸。このケーキさキロ売りなんだけど、食べきれるかな」
「このくらいなら大丈夫。欲しかったらカート入れて」

あれだ。おかんと小学生の子供だな。
店内の何処かへと消えた喜多村は時折戻ってきて、謎の食材をカートに入れていく。喜多村の獲物で興味を引いたのは「冷凍にぎり寿司」だ。うわ…大丈夫かこれ。でもうまく解凍できたら最高だな。
佐久間は喜多村の持ってきた商品をこっそり選り分け、それでも彼の喜ぶ物を残す方向でカートをいっぱいに埋めた。喜多村が嬉しそうにしていると、俺も嬉しくなる。フィレ肉、マンゴスチン、マスカット、シナモンブレッド。会計に進む頃には結局、カート2台分に増えていた。

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帰りの高速。まだ日は高いが道路沿いのネオンが際だって見える。その中でも結構目を引くのは、お決まりのあの建物。

「あのさ俺、ラブホ入ったことないんだよね」
「そうなんだ?」
「鬼丸もだよな?」
「入ったこと、はあるけど…」
「……………誰と」

あ。佐久間の顔色が変わる。忘れてた。ハンドルを握っているのは喜多村だった。ね誰と。低く呟きながら右足がアクセルを深く踏み込む。

キンコンキンコンキンコン…

あ鳴っちゃいけない警告音鳴ってるおま危ねえいいかげんにしろって「誰と」あかん目が据わってる。

「清掃のバイトだったんだって!そんで入ったのっ!」

暫くの間があって、キンコン音が漸く静まった。何なのほんと怖い時々。命の危機とかおま俺の事ホントに好きなのかよ疑うわ。

「で、鬼丸さん」
「………は」
「私ラブホ入ったことないんですが」
「…さっき冷凍のやつ沢山買っちゃっ…」
「な い ん で す が」

…うん。そういうやつだった。でも絶対「ご休憩」しか駄目だからな。「ご休憩」じゃないと買った物腐るから。それだけは勘弁な。

「大丈夫。クーラーボックス、最強のイエティだから」

言うが早いかハンドルを切りさっさと高速を下りる喜多村。派手目の照明で飾られた看板が軒を連ねる光景に、どこがいいかなぁ~なんて嬉しそうに目を輝かせている喜多村に、うんどこでもい。佐久間は投げやりな返事を返す。

「どこでも大丈夫てことねっ OKOK アッハハッ!」

佐久間は思った。喜多村の何物にも折れぬチソチソとポジティブシンキングこそ、最強なんだってことを。





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